10万円給付は貧困対策ではない

Abema TVで橋下徹さんと玉木雄一郎代表が議論している。
橋本さんは、全員給付は生活苦対策なのだから給料が下がらない人は辞退すべきで、政治家は貧困層の痛みを共有せよと言う。玉木代表はベイシックインカムのようなものを考えていて、生活苦対策は別途予算を計上すべきだと主張する。
議論の中で橋本さんが認めていた通り、二人は平行線で折り合うことはない。
わたしは玉木代表の意見に賛成である。

** 再分配先は国民に任せる
政府は正しく再分配するという前提で橋本さんは話しているが、時期、タイミング、数量そして再分配先いずれも適切に運営できていない。政府の再分配機能というのは緊急時には放棄していただいて国民に任せるのが一番いい。
違法な営業をしている店は潰れても仕方がないが、個人を潰すということがあってはならない。もし不適切な営業をしている個人がいたとして、その人から仕事を奪うのはいいが、その人を地下社会に突き落とすことはしてはならない。もし立ち直ってもますます税金を払ってもらえなくなるし、社会不安が増大する。
富裕層にいったんお金を渡したとして、その富裕層の支払先までが富裕層とは限らない。富裕層が所得を下げて消費を控えることで、富裕層そのものはこれまでの貯蓄で生き延びたとしても、富裕層相手に商売をしていた人が収入を失うかもしれない。富裕層向けの市場が壊れれば富裕層は支出先がなくなり、中長期的には蓄財が進んでしまう。誰かが受け取ることを批判する先に、別の誰かが困るということを理解すべきだ。
新型コロナウィルス流行前と同じ消費をしてもらう。それが世界規模の恐慌対策として必要なことである。

緊急事態として思考を切り替えろ

経済対策はバラマキとも呼ばれ、

  • 配ったお金でギャンブルをするな
  • 富裕層にまで配るな
  • 公務員は増収だ
  • 本来再生すべき産業を温存するだけだ
  • 預金や国債に化けるだけだ

など、いろいろな反対論が湧き出てくる。しかし、これは平時の論理であり、今回は違う。一部の繁忙業種では労働者が劣悪な労働環境に耐え、残りのほとんどの業種では著しい減収に見舞われている。喜んでいる人は一人もいないわけで、精神の回復を込めて協力金を配るべきである。協力には「自粛に協力してくれてありがとう」と「支出に協力してください」の2つの意味を含む。
特に後者が重要で「お願いですから、貯蓄しないで、もらったものは好きなところで使ってください」とする。この際、タンス預金でなければ、銀行に預けようがギャンブルに使おうが、その人の自由だ。そこには何らかの手数料が存在するので誰かが助かるはずだ。*1
これは経済対策でも貧困対策でもない。貨幣流通改善策である。あるいは市街地空洞化防止策である。だから、政治家でも大富豪でももらうべきなのである。
できれば、色がついていて消費期限や支出先を限定した通貨であるカラードコインにすることが望ましい*2が、緊急時なので準備をする余裕がない。新札を発行するタイミングで通貨切り下げという選択肢もある。現金を溜め込むと損する仕組みを作らないと支出や投資を喚起する効果が薄れる。

市街地空洞化を阻止せよ

収束後の社会復興の上で、商店街やオフィスビルの空室率の上昇にも考慮が必要だ。街の機能を維持するためには入居者は引き続きそこでビジネスをしてもらいたい。地方はもちろん、都心でも要警戒である。長期的にはテレワークや通販がますます浸透し、都心に昼間出かける必要性は下がるとは思うが、慌てて用途変換を進めると駐車場だらけになったり乱開発が進んだりする。今は恐慌で、商店街まるごと破壊的ダメージを受けるかもしれない。建築現場が放棄されたり、相続放棄が増えたりすると、街の価値が下がる。自治体は固定資産税の歳入を減らし管理コストを負担しなければならなくなり、住民サービスが低下する。

今すべきことである

貨幣流通改善はウィルス収束後に行うべきで、今やったらみなが買い物に出かけて自粛が弱まるし、自粛業態にはお金が落ちないという指摘がある。今やっても明日すぐに支給されるわけではないので、収束するまで準備を止める必要はないと思う。また、いったん準備をやめたら「本当に配られるのだろうか」とみんなが不安になる。
さらなる金融緩和に踏み込んでいるので、収束後にお金を配るといよいよインフレになる懸念もある。収束後は現金給付よりは公的部門での雇用拡大だと思う。経営機器に陥ったインフラ産業は国営化も視野に入れる。

特定業種の救済こそ不公平である

政治家を含む公務員がお金をもらうということよりも、この先必ず起こるであろう大企業の救済の方が不公平極まりない。救うのはやむを得ないが、新型コロナウィルスがなくても構造不況だった業種は、いったん経営陣を交代させることを原則にすべきだ。つまり破綻も視野に入れる。救済合併や業界再編もあるだろうが、独占寡占は好ましくないし、できれば新時代にあった業態に生まれ変わってほしい。日銀が無制限の金融緩和をやったが家計への支出は12兆円。残りはどこの業界に行くのだろうか。

*1:ギャンブルは3密だといって自治体の取締が入っているが、夜の店でなければリスクは低いのではないかと本当は思う。全国全店閉鎖に追い込めなければ、自治体が密集を作っているようなもので、いっそのこと全店やってもらった方が密集が緩和するかもしれない。

*2:例えば、さすがに海外資産の購入に充てるのは国内の貨幣流通への貢献が小さいので抑えたい