テレワークをどうやって仕掛けるのか

 せっかく生まれたテレワークの機運。緊急事態宣言解除とともに立ち消えにするのはもったいない。
 テレビを見ていたら、テレワークの有識者が「テレワークを進めるには中小企業から」「本当に通勤しなければいけないことかどうか考え直す」というようなことを言っていた*1

 違いますよね。

「みんな、いいことだからやろうよ」ではだめ。どうやったら乗ってくるかどうかの仕掛けを有識者に考えていただきたい。

通勤コストを高める

 都会の通勤混雑緩和のためには「定期券の運賃を10倍にする」というひろゆきさんのアイデアは良い。
 他人を移動させるということにはコストがかかる世の中にしていく。移動のために他人の人生の時間を使ってしまうし、交通障害のリスクはあるし、混雑に身を置くのはストレスだし、今は感染のリスクもある。人が移動しなければできない仕事はきちんと対価を払う仕組みにすべきである。通販が好況であるが、宅配便の送料も感染リスクのある今は荷主が危険手当を負担すべきなのだと思う。航空会社のサーチャージと同じように制度にしてしまえばいい。
 鉄道・バスで、ICカード導入済の事業者では乗車ポイント制度のシステム導入が進んでいるので、何回乗っても運賃が同じという定期券制度の縮小を検討するべきではないだろうか。通勤人口が同じでも、週3回、週1回の通勤になれば満員電車はなくなる。意外な形で小池都知事の満員電車ゼロの公約が達成される。

大企業・官庁から変えるべきである

 わたしからの提案は、お金を持っている人の動きを変えさせることである。
 公共機関の入札で、女性活躍や子育て支援企業を評価する仕組みがあるが、テレワーク推進を掲げる企業を評価するようにする。テレワーク推進を第三者認定する団体も現れるだろう。
 通勤費の所得控除に、テレワーク推進費を含める。財源が気になるなら通勤費の控除は50%にしてみる。
 大企業の調達部門が、リモート営業や電子商取引に対応しない中小企業を相手にしないようにする。商談をするときには「今日中とかではなく、今ここで契約書送って」と要求してみる。すると「社に持ち帰って承認を取って契約書を作ります」というスピードでは契約が成立しなくなる。通常、契約事務は中小よりも大企業の方が稟議決裁に時間がかかるので、これまでそういう要求は起こりにくかった。そして時間がかかることを考慮すると、やり直しが面倒になるので、手間暇かけて慎重に契約書が作られたり、どうとでも読める曖昧な契約書が作られたりする。途中まで作ったのにやり直し、せっかく締結したのに変更、といったことは避けたいので「伺いますので、対面で読み合わせしましょう」となる。これまでだってFAX、電子メール、バイク便、そして電子商取引があったが、会わずに契約が成立する環境にはなかった。
 こういう文化が変わるとどうなるか。会社で力が強い営業部門がテレワーク充実を叫ぶようになる。社内稟議のはんこを起点に議論している人がいるが、そんなことは本質ではない。社内稟議を変えても儲からないし、むしろコストがかかる。しかし受注ができないとなればやらざるを得ない。中小企業のテレワークは大口取引先が変わらないと進まない。
 若者を中心に電話を使った仕事が嫌われるようになった。取引先との打ち合わせでも対面が敬遠されるようになるとテレワークは進む。

「忙しいし、会議室も空いていないから、来ないで」

 訪問は丁寧ではなく、迷惑となる。

騒音は技術が解決する

 日本のテレワーク環境は、取引先との打ち合わせを行える環境になっていない。会議中に家のインターフォンが押される。洗濯機や給湯器から軽やかな電子音が聞こえる。これまででもオフィスで電話を受けたら周りの騒音が先方に聞こえていたが、家で発生する音は明らかに「家です」という雰囲気を相手に伝えてしまう。今は子供も家にいて騒ぐ。近所の音もオフィス街のそれとは違う。謝罪のための打ち合わせではよくないが、仲のよい取引先との打ち合わせであれば場が和んでよいこともある。緊急事態宣言中にそういう文化を作ってしまえばいい。
 こうしたことは音をクレンジングする技術が普及することでも解決すると思われる。パソコンのキーボードを叩く音は意外と不快であるが、打鍵音を抑える技術はすでに一部の電子会議システムに装備されているので、他にも広まるだろう。パソコンの内蔵マイクはこれまでおまけとしてしかついていなかったが、パソコンを用いて会議をする人の音をクリアに拾う仕様にしたり、ノイズキャンセリング機能を持ったスピーカーなどを使えばテレワーカーに支持されるだろう。
 どこでも仕事ができるとなると、最も問題になるのが、書類の盗難、紛失、覗き込みである。まもなく5G になれば、すべての書類は閉ざされたコンピュータールームの中で処理され、テレワーカーの手元にはダウンロードできない仕組みを使ってもストレスなく仕事ができるようになるだろう。取引先や常駐先に行くとネットワークがつながりにくいのがこの仕組みの欠点だったが、取引先から場所を指定されなければネットワークが届きやすい場所を自分で選べるようになるので問題なくなる。
 あらかじめ肉声の特徴を学習させれば、自分の声を再現する技術は存在するようなので、機械に原稿を読ませてプレゼンテーションをすることが可能。あるいは、肉声をいったん文字に変換し、それを声に再変換する。周辺の騒音だけでなく自分の口から出る余計な口癖(ドッグワード)を省いて相手に届けることも可能。よほどそばで赤ちゃんが泣き叫ばない限りは大丈夫。
 あとは、これまで毎日都心まで通っていた人は、自分の仕事場所を自宅か、自宅近くに仕事場を借りるようになるだろう。
 自分の作業場に自分で投資し、福利厚生がいい会社であれば補助も出るようになる。すでにテレワークへの補助金を出す企業も出てきている。都会の土地はすぐに安くならないが、毎日通わなくてもいいなら子育て環境に優れた地方に住もうとする人も増えてくる。すると、これまでの通勤需要が激減することはなく、ただし今よりは混雑率は下がる。

*1:特定の人への批判ではないので、発言は多少加工