ITは斜陽

何が起こっているのか、想像してみよう

2021年は基幹システムを刷新した大手銀行が何度も障害を繰り返していて、金融庁もマスコミ様もお怒りのようである。

この話を聞いて、今なお「大手銀行は合併の連鎖の歴史があり、半沢直樹の世界のようにどろどろした人間関係と旧態依然のシステムがありまして・・・」という解説を見てきたかのようにする人がとても多い。しかもIT業界の人でさえやってしまう。

ただ、基幹システムは刷新されているのである。旧行の遺産を引きづっているわけではない。動かし始めたばかりの(まあ、本番業務を開始する前にすでに機器が古くなって入れ替えたものもあるそうだが)コンピューターであり、この銀行が合併当初に起こした事故とは切り離して考えた方がいい。21世紀に入社した行員は、コロナ禍の前に飲み屋で先輩から聞いた思い出話でしか旧行のことは知らないのである。

さて、新システムは大手IT企業のエース級が相次いで投入されて作り上げた巨大システムである。

細かい原因は都度報じられていて、そこを掘り下げるのもいいかなと思ったが、そこを責めても仕方がないのかなと思った。

こういう仮説を立てた方が理解しやすいのではないか。

  • 日本のIT業界には巨大なシステムを新たにまとめ上げる能力がない。
  • 日本のIT業界には適切な人材が集まっていない。
  • 日本のIT企業は末端の人材をコントロールできていない。

以下に書くことは特定の企業で起こっているかはわかりませんし証拠はありません。あくまでも仮説の解説である。

一般の人にとっては、ITというと、ITバブル、IT社長といった言葉に代表される浮かれてお金がありそうなイメージがあるかもしれない。しかし、IT業界の半分は、もう斜陽産業である。いやあ、今時こんな業界には飛び込まないでしょう、とか、伝統芸能だよね、という扱いをすべき存在なのである。

それでもかき集められてきた人たちをすくいあげて、客先の机に座らせておくというのが価値の源泉で、彼らが何もしなくても客はお金を払い続ける。

大企業の巨大プロジェクトは、膨大な求人需要を作り上げて、求人市場を活性化させてきた。寄せ集めの体制では能力に偏りが発生するので、いくらエース級がいたところで、大きすぎるので現場の人にまでその叡智が届かない。困ったことに、エース級の人は監督業務が忙しくて、実際の機器やプログラムを扱う時間がない。

客も何も知らないわけではないので、中国や東南アジア、インドの人材を使い始めていたが、そのうち中国は昨今、データを渡してはいけない国になってしまった。国だけでなく、中国国籍の者もまた中国の国外にいても政府のコントロールから逃れられない。日本のIT企業は技術力と生産効率を大きく下げてしまったが、それでも国外にはだせないため日本人に戻ることになるかもしれないが、仕事中にさぼっている姿をYouTubeでさらしている者もいるようで、そんなに暇なのかと思ってしまう。

例えばだが、10人分を8人分の値段で契約しますという約束をしたのに、実際には9人しか来なくて5人はさぼっていて、2人は頑張っているけれどやる気が空回りしている。こんなことはよくある、かもしれない。ちなみに数字は適当であるが、そんなに外れていないだろう。

組織は二八の法則とか、2-6-2とかいわれていて、どんな精鋭を連れてきてもチームを組むと下の2割はさぼるものである。ただ、ITの場合、さぼっているという測定が難しく、なかなかばれないので、最初から精鋭を2割しか投入しない。そもそも、人がいない。精鋭を10割入れて2-6-2なのに、もともと精鋭が2割しかいないと、ひとりが過労か精神疾患で飛んでしまい、10人チームなのにワンオペになる。

すると何が起こるのか。

普通にITを勉強してきた人、IT運営の現場で経験を積んできた人にとっては、「毎日のように」信じられないことが起こる。例えるのが難しいが

ねこを電子レンジに入れて乾かす

を挙げてみる。

  • ねこがどうなったか見ていた? 何とも思わなかったかね?
  • たばこを吸いに行っていたの? 車中に赤ちゃんを置いてパチンコに行ってしまう親と同じやつ?
  • ねこ → 乾かすものではない。
  • ねこ → 電子レンジに入れるものではない。
  • そもそも、ねこを乾かせなんて指示していない。なぜ違うことをしているの?
  • そもそもそもそも、この場にねこはいらない。なぜいる?
  • もしかして、騒ぎを起こしたいだけ?

業界の人でなくても知っている「動いているパソコンの電源コードを引き抜いてはいけませんよ」であれば、「これこれこういう理由でだめなんですよ、こうしてくださいね、わかりました?」と言えばいい。

でも「ねこを電子レンジに入れて乾かす」の類は、何から言えばいいのか混乱する。「常識ないよね」と言ってみるか。でも、どこを切り取ってもぶっ飛んでいる人に常識を説く気力はわかない。

できない人には単純な仕事を与えよと偉い人たちは言う。それは間違っている。どんなに単純であっても意味はない。右手を上げてくださいと言えば、お菓子を食べ始める。「あ、今回は手を使うんだと伝わった!」という驚きと、「お菓子は指示に含まれていなーーーーーい」という悲しさが複雑に交錯して、心の中がいっぱいになる。

こういう職場では当然ながらテレワークなんてできないが、行きの通勤電車で「きょうは何が起こるのだろう」という疑心暗鬼に押しつぶされそうになる。考え事をしていては危ないので自転車通勤はしない方がいい。こうして、できる人もつぶれていくか、「もう何もしないでください」と言うことになる。

大手銀行の記者会見では、偉い人が、複雑な要因が絡んでいる話をしていた。それを見て思い出したのだが「なぜこうなったの」「それはまたどうしてなの」と、担当部長、担当課長、担当者、元請け、孫請け、3次受け、その先と追及していき、最後まで追求するとここに達する場合がある。「原因がわからない」と言っていたでしょ。もしこの仮説と同じであれば、表現が難しいのである。

多重下請けというと、途中での隠蔽やごまかしもありえる。しかし、SNSが普及した今日では会社またぎで嘘をつきとおすのは難しいかもしれない。何しろ、ねこを電子レンジに入れて乾かしてしまうのは、いわゆる「無敵の人」であり、コントロール不能な人が混じっているかもしれない。会社をかばいなさいとか、内部告発がとか、そのような高尚な話ではない。信じがたい失敗をした自分でさえもねたにしてしまうかもしれないということだ。また、今やスマホはすべて録画録音機になってしまう。嘘をつくのも相当な覚悟を必要とする。それよりは、理解不能な現象が挟まっていて伝達がうまくいかないまま、変容してしまうということはあるかもしれない。

本当に機器内で発生した電気信号の解析不能もあるけれど、人間の思考回路の解析不能もよくある。

もともと、10人チームに使える人をふたりしか入れなかった雇い主に対して、要員のチェンジをしても無駄である。ガチャのように、何度でも使えない人がやってくる。ただ、使えないというのは、使う側が使いこなせないということもよくあるので、常に無能だということではない。ただ、ひとりが飛んで、ワンオペになるという結果だけは同じである。

一所懸命周りの人が隠して隠して隠して、それでも隠し切れないものが今年に入っても約月1回ペースで発生しているということである。

銀行はどうしたらいいのか

業務をシンプルにするしかないよね。

多層下請け構造は改めた方がいい。わたしなんかが言わなくても、リーダーや現場にエキスパートを雇い始めている。

銀行だけでなく、証券でもほかでも、新業態の会社を作るということが昔から行われてきた。ただし、今はやっているのはITジャイアントに寄り掛かるという戦法か、Fintechを買うという戦法である。もう、親会社にいた人が子会社を作ってやるというスタイルは通用しないと思う。

悩まなくても、やがてディスラプションが起こり、他の業界からの侵略者によって規制産業は破壊される。これは運命である。呉服屋さんもそろばん屋さんも桶屋さんもタイプライターやワープロ専用機の会社も、最近ではハンコ屋さんも存続の危機を迎えたか迎えているところである。銀行もこれの仲間入りをする。呉服屋さんは百貨店として変わることで生き延びるどころか大いに発展したけれど、デパートは今また危機を迎えている。

よって、この問題は間もなく終わると思う。で、斜陽になったIT産業は二極化して下半分は滅びる。