運転再開時の告知方法 まとめ

2019年9月の台風15号が首都圏を直撃し、翌日の首都圏JRで運転再開時に混乱を来した問題。
ネットの記事などを読んでいると、台風による天災ではなく、3つの問題があることがようやく浸透してきた。

  • 企業が従業員に自宅待機を呼び掛けない
  • 勤労者が無理やり出勤しようとする
  • 鉄道会社による再開時の告知が混乱に拍車をかける

休めないサラリーマンたちという話題はもう言い尽くされていて、今回初めて試行された「8時ごろ再開」のアナウンスに非難が集中しているが、どの論評もいまいちポイントを掴めていないような気がする。
中には、月曜朝の台風なのに金曜の午後に運休を発表しなかったのが悪いというものもある。企業が営業中に臨時休業の決断を促すというアイデアなのだが、これについては賛成できない。金曜の午後の段階では関西に行ったかもしれないし、日曜に来ると思われていた。金曜の判断で日曜に止めて空振りし、月曜にさらに止めたら首都圏経済の損失はもっと大きくなっていた。月曜の混乱を最も賢く回避した人は、日曜の台風到来前に事前通勤して、勤務先や勤務先近くの宿泊施設等に泊まった。予報が定まらないうちに運休を決めてしまうのは、このような自衛策を不可能にした可能性があった。
わたしの見解を以下にまとめておこう。
前日18時の段階で発表というのはタイミングとしては悪くないと思う。金曜の段階では運休の判断をするよりも予告をしておくことが重要だ。「台風が近づいたら計画運休を決める可能性がありますので、企業では計画運休が発表されたら従業員が自分で判断するようにあらかじめ指示をお願いします」というのが正解だった。学校はきちんと休校にしているので、企業側にも同じ対応をさせればよい。マスコミにその周知を任せるのがよかったのだと思う。今後はこれに加えて「当日朝に判断するのではなく、前日に判断することをお勧めします。当日朝に行けそうと分かった時には駅の混雑は通常以上になると理解してください」という助言を加えることができる。
さて、
前日18時の発表は、どうあるべきだったのか。
2019年9月の事例では、8時に再開、線区によっては9時に再開、というものであった。これは営業設備への被害が最低限という前提で、点検を8時か9時までに済ませることを計算の上で設定されたのだと思われる。しかし、台風の進路や被害状況がどうだったかにかかわらず、ラッシュピーク時間帯の8時に再開ということ自体が幻であったと言わざるを得ない。
大規模障害にもいろいろあるので、ここでは再開の方法について、2つのパターンで見てみよう。

営業時間中かつ単独障害の場合

人身事故がありました、痴漢が線路に逃げました、といったパターンの場合。障害の原因は1か所で、それ以外の場所はすぐ走れる状態にあって電車も営業線内に待機している。ただし、障害が発生しているので全線またはまとまった区間で電車を動かせない。
この場合は、いつものように「〇時ごろ再開」とアナウンスするのがよいだろう。すでに移動を始めてしまっている人が多いので、早く見込みを伝えてあげたらいい。障害はしょっちゅう発生しているので、回復時刻の見積もりもそれなりに精度が高いだろう。

上記以外の場合

計画運休が営業時間外から続く場合または大規模障害の場合はどうか。
広域での大雨が降りました、台風が来ました、大地震が来ました、ストが発生しました、といったパターン。あるいは大雪で間引き運転をしたまま運休を決めました、朝ラッシュ時の複合障害で収集がつかなくなりました、といった場合もあるだろう。なぜか痴漢が出たりアルミの風船が架線に引っかかったり、車輛が故障したりといったことが同時に起こったりする。
こういったときは、走れない原因が営業線上のあちこちに点在しているし、あるいは営業線にいるはずの列車が車庫に入っていたりいつもより少なかったりする。再開をしてもすぐに輸送力を確保できない。
この場合は、

再開時刻を告知してはいけない。

どうしても再開したかどうか知りたい人は、アプリで列車位置情報を確認してもらおう。ただし、2019年9月のときもアクセス過多でサービスを閲覧できなかったので、もう少しキャパシティを確保してほしいものだ。
自宅にいる通勤開始前の人、勤務先に避難している帰宅難民が多い段階では、一人でも多くの人に移動開始をあきらめてもらう必要がある。家族の都合やライフラインの維持にかかわるためやむを得ず移動しなければならない人だけ、決死の覚悟で移動を試みる人だけが駅に向かえばよい。
深夜帯に大規模障害が発生したときにも「運転の再開予定時刻は0時30分です」といつもの定形文で案内している。乗客に伝えるべきは「〇〇駅までの終電は今晩中に確保する予定です」ということではないか。朝や日中とは異なり、深夜になってしまえば0時だろうが1時だろうか大差はない。
さて、8時という時刻がよくなかったというのは事実だが、12時にすればよかったという説がある。これにも賛成できない。殺到する時刻が8時から12時に変わるだけである。あるいは駅改札口にいる駅員に苦情と問い合わせが殺到してしまう。「12時より前に電車が動き出しているではないか」と。そこで、通勤をあきらめさせる上でもっと効果的なのは「12時ごろまでは動いていても乗れない可能性が高い」と言い切ってしまうことだ。13時以降になるとイメージさせれば、9時5時しっかり定刻勤務の人、9時始業厳守の人、客先に13時訪問の人はいずれもあきらめる。鉄道会社が乗れないと言っています、と会社に堂々と報告ができる。繰り返しになるが、8時だろうが10時だろうが「再開する」と言ってはいけない。「詳しくはアプリを見てください、見るリテラシーがない人はあきらめてください」これが一番だ。
まとめると、

<明日の運転計画>
明日朝は計画運休を行います。
線路の安全を確認後、運転を再開する予定ですが、初電の時刻には間に合わない可能性が高くなっています。
12時ごろまでは混雑のために、駅への入場を制限する可能性が高く、ご乗車いただけない可能性があります。
安全確認の状況、混雑の状況によってはさらに遅れる可能性があります。

1. 「運休」という言葉を使う。
2. 「可能性が高い」という言葉を使う。
3. 「ご乗車いただけない可能性がある」という言葉を使う。鉄道会社は「間引き運転」という業界用語を好んで使うが、待ち時間が長いだろうくらいにしか伝わっていないので、単刀直入に乗れないと言うことが重要。
4. 「さらに遅れる可能性」にまで言及し、12時という時刻にも期待させない。
ここまで言えば、一刻も早く行きたい人は初電の時刻から並ぶだろうし、並びたくない人は昼ごろに来てくれるか、移動をあきらめてくれる。結果として駅に来るタイミングを分散できる。
街の経済活動を停滞させるようなことを書いているが、台風15号の後の混乱では体調を崩した人が大勢いるため、命には代えられないと思う。

さらなる対策

テレワークの必要性、出社精神、愛客精神については言い尽くされているので省略する。
鉄道会社の対策として理想なのは、混雑時には高い料金を払わせるということである。ところがSuicaPASMOでは実現できず、早起きした人にポイントを出すことくらいしかできていない。
再開を待ち望んで、入場規制している改札外に並ぶような人は、固定的な勤務地に定時に出勤する生活をする人が少なくないと思われる。働き方改革への理解が進み、お客様は神様と絶対視しない風潮が広まってきたので、よほど資金回収を急いでいる人でもない限り、外回りの人は約束が守れなくても災害の翌日くらいは許してもらえるのではないか。そんな中、行かなければならないという固定観念から抜け出せない人たちに追加料金を出させるのがよい。つまりは、大規模障害時は通勤定期券を無効にしてしまえばよい。単独障害時は振替輸送制度で、むしろ他社定期券を持っていても無料で改札を通行できたりする。しかし、大規模障害時は定期券の利用を断ってしまう。Suica定期券を自動改札にかざすと、Suicaで料金を引かれてしまうようにする。残高不足の人は改札を通れない。振替輸送の取扱いもやめてしまう*1
企業にとって、従業員に通勤地獄の体験をさせることに何のリスクを感じていない。ところが定期券を無効にできれば、大規模障害時に出勤させてしまうと、後で従業員から交通費の請求が届く。余計な出費が発生するくらいであれば今日くらいは休んでください、ということになるだろう。
ただし、これは天気予報による計画運休のときだけ有効である。大地震発生後の帰宅難民に適用してしまうのは少し理不尽のような気がする。実は朝ラッシュも、夜勤明けの人にとっては帰宅時間だったりするので少し心苦しいのではあるが、繰り返しになるが体調を崩す人が大勢出る社会問題なので、多少の犠牲は仕方がないと思う。
もっとも、定期券を無効にする措置が今の仕組みでできるのだろうか。Suicaのシステムは回数券を取り扱えないなど、システム刷新が必要な時期に来ていると思う。

間引き運転しすぎる つづき

今回、告知のパターンを「営業時間中かつ単独障害の場合」と「それ以外の場合」とに分けたが、この違いは、全線にまんべんなく列車が待機しているかどうかである。再開後の正常化を困難にしているのが、間引き運転である。
朝8時に再開と告知したいなら、一つだけ方法がある。再開時点で各駅に空っぽの列車を用意できるのであれば全く問題ない。計画運休を知った時点であきらめてくれたり前日移動してくれたりする人は一定数いるので、いつものピークよりは合計人数は少ないはずだからダイヤ通りの本数を確保できれば、いつものようにラッシュではあるものの問題ないはずだ。ところが、1本出たら20分来ない、20分来ないからどうしても今来ている列車に乗りたい、みんな乗りたいからなかなか発車しない、そしてそれが各駅で起こるからどんどん遅延が拡大する、と悪循環が起こってしまう。こうなることがわかっていて間引き運転をするのが混乱の原因の一つになっている。
今回のような台風では、建物が密集している都市部よりも沿線に樹木が多く建物が少ない郊外の方が被害が大きかった。被害が少ない都市部の住民は、台風の被害を軽視していていつも通り出勤しようとした人もいたようだ。ところが通勤路線は間引き運転をしている。輸送力が制限されているため、都市寄りに近づく前に乗車率は限界に達してしまう。すると人口が多く通勤する気持ち満々の人が待ち構える都市部の駅に人がたまるが乗れる人は少ない。都心が洪水で浸水していたら異なるシミュレーションが必要とはなるが、駅に人が滞留するリスクを軽視していたと言わざるを得ない。
先日の書き込みにも間引き運転しすぎ問題については書いた。運転手と車掌をテレポーテーションできないため、あらかじめ決められた営業所には、あらかじめ決められた時間帯に、あらかじめ決められた人数しかいない。どんなに遅れようが臨時便を出すことは難しく、ダイヤ通り走らせるしか方法がないようである。そして、ダイヤを正常化させるには間引く以外に方法がないという。朝ラッシュの乗務員は前の日から勤務をしていることが多い。8時に再開させると、夜勤シフトの乗務員の勤務時間が間もなく終わってしまうため、車庫に大量に列車があってもそのまま出すわけにはいかない。
間引きには駅間での立ち往生を減らすという効果は認められる。大雨予想や大雪予想のときは朝ラッシュのピークのような走らせ方は確かによくないかもしれない。ただし、効果は疑問視する意見もある。
toyokeizai.net
この記事のように、わたしも間引きの効果は極めて限定的なのだと思う。
首都圏では間引き運転になりやすい路線というのが決まっている。例えば京葉線。風が吹いたら止まることで有名で、天候が悪化すると早々に間引きを決める代名詞になっている。高架線における海風対策が進んだ今では天候のせいではなく人繰りがつかないのだと思われる。待避線が少ないし、東京から出た電車が蘇我方面に行ったり西船橋方面に行ったりと、運用が複雑である。
可能であれば、もう少し待避線・引き込み線の建設、人員配置、乗務員向け仮眠施設に余裕をもった方がいいと思う。

*1:今回もやめていましたね