修学旅行の危機

修学旅行のために定期便を休止したバス会社があらわれた
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そしてこの度、修学旅行の予約を受け付けた側にもかかわらずキャンセルしたバス会社もあらわれた
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政情不安で海外渡航できずに中止することはこれまでもあった。
ところが、人がいないからごめんなさいとなっている。

バスがキャンセルになれば、生徒を受け入れるはずだった宿泊なども全部キャンセルになりかねない。
機会損失を受けるのが自分たちだけではない、広範囲に迷惑をかけまくるとわかっていてもキャンセルせざるを得ない。

事態は深刻である。

ビジネスモデルの観点から、修学旅行が崩壊するとは思っていた。
ただ、直接の引き金がバスの運転手不足だとまでは想像が及ばなかった。
この背景には、日本の国力の低下があると思う。

修学旅行以前に、旅行全体が二極化している。

貧乏でも世界中に行かれる時代になった。ただし、それはネットを利用したバーチャル旅行である。
いくらでも情報は取り放題だし、誰かが撮影をした範囲においては空からでも地上からでも世界中見たい放題だ。
万能さでは世界有数である日本国のパスポートを持ってしても行けない場所でも、バーチャルであれば覗き見ることができる。

いくらバーチャル旅行が進化しても、リアルな旅行自体はなくならないだろう。
カメラが入れないところはあるし、五感全体で体感するには実際に行くしかない。
ところが、リアルな貧乏旅行は厳しい。
JRの青春18きっぷはまだ残っているが使いにくい。
普通列車の本数が減り、系統分離が進んでいる。
長距離の18きっぷ利用者の選択肢は少なく、限られた便に客が集中する。
路線バスは地方だけでなく都会でも崩壊が始まっている。駅にはタクシーが来ない。
長距離バス、夜行バスも減っている。席数を減らして単価を上げる会社もある。
格安レンタカーもあるが、そもそも若者が運転免許を取りたいと思うのか、その費用を出せるのか怪しい。

各地でオーバーツーリズムが発生しているのだから、リッチなリアル旅行は好況だろう。少なくてもコロナ禍よりは復活している。
インバウンドを中心にリアルな旅行全体の需要は伸び続ける一方なので、客単価は上がっていく。
国内の団体を確保しなくても、個人客と訪日ツアー客でホテルやバス運転手の稼働は確保できる。
タクシーは稼働が高まるように定額輸送や貸し切りにシフトするだろう。
JRも着席サービスの有料化を推し進めている。

そんな市場環境で修学旅行が続けられるのか。
保護者の経済負担を抑えるために、旅行・運輸業界として単価の安い団体の予約を取ることがいいことなのか。
個人がネットに流れたから、旅行代理店にとってはまだ必要なビジネスなのかもしれない。
超早期の予約なので、インフレに伴う運賃値上げや航空便の燃料サーチャージの変動リスクがあるが、仕方がない。

問題は受け入れ側である。バス会社やホテルにとっては取りたくない仕事になっていくのではなかろうか。
運転手や従業員が補充できずに辞めていくので、未来の約束をすることができない。

長距離輸送を、観光バスから鉄道に切り替える動きはあるかもしれない。
鉄道は生徒が遅刻してもあまり待ってもらえないが、バスに比べると運転手が確保しやすい。バスに比べればというだけで今後はわからないけれど。
生徒が自由行動で観光タクシーを貸し切っていたという話は、未来の生徒たちに話しても信じてもらえなくなるかもしれない。

金持ちは学校を休んでバカンスに行け、貧乏人は図書館かネットカフェに行け。
特に公立の学校において、金持ちも貧乏人も一緒に旅行に行く文化は間もなく終わるかもしれない。