常磐線迷惑乗り入れ訴訟、割高運賃は経営判断の範囲内

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迷惑乗り入れ訴訟に判決

東京の亀有、金町の住民が、JRや東京メトロを訴えていたが、東京地裁は請求を棄却した。

●まとめ

  • 西日暮里乗り換えの客からは二重運賃を厳密に徴収
  • 後発の複々線化路線には割高運賃問題がない
  • 原告は、割高にしたことではなく、西日暮里乗り換えのみ厳密に徴収していることを争点にすべきだった
  • 鉄道会社は、運賃制度をシンプルにしてほしい

 


営団地下鉄(現東京メトロ)千代田線が乗り入れを開始するまで、常磐線各駅停車に乗れば上野まで乗り換えがなかった。
千代田線開通により千代田線経由で都心方面に乗り入れることが「迷惑乗り入れ」と批判されたが、その中身は以下のようなことである。

  • 開通当時の車両には冷房がなく、抵抗制御で、トンネルに入ると満員電車が酷暑状態になった
  • 国鉄(現JR)は千代田線開通に合わせて減車を行ったが、国鉄だけで都心に行けなくなった客、地下鉄を不快と感じる客が快速電車に乗り換え、混雑率が高まった
  • 当時はストが多発していて、営団がストをすると松戸まで戻らないと東京に行けなかった
  • その後、国鉄は冷房車を導入したが、営団地下鉄は駅冷房およびトンネル冷房を推進するとしていたため、営団地下鉄線内に入ると冷房を止めた
  • 千代田線を経由するとこれまでより運賃が高い

快速電車は15両編成になり、冷房車になり、ストは発生しなくなったが、運賃問題だけは解決されず、割高だとして裁判になった。

国鉄のみで都心に出るには乗り換えが必要になった。また、地元に来る電車にそのまま乗っていると営団地下鉄(現東京メトロ)に乗り入れて初乗り運賃を二重で徴収する。これらが不当だとしていた。
途中の北千住で乗り換えることはできるのだが、階段が多く、今でこそエレベーターがあるものの不便である。

綾瀬-北千住間は、他のJR線から乗る場合に、JRで発券された切符で、JRの運賃計算で乗ることができる*1
この区間を伸ばして、千代田線が山手線に接続する西日暮里までを二重籍にすればよいのだが、当時はバス路線の共同運行のような規則がなかった。
バスは、自社保有の車輛でそれぞれが運行しているが、鉄道は自社保有の車輛を乗り入れ先に貸し出しているという扱いにしている。
道路は国や自治体が造るが、当時の鉄道に上下分離の発想はない。
綾瀬-北千住間の複々線は、営団地下鉄が建設したが、現在でもJRは自社の路線図で自社線扱いしている。しかし、線路がない北千住-西日暮里間も二重籍にするという発想がなかった。

この千代田線迷惑乗り入れ問題を契機に、複々線化事業における後発路線では迷惑乗り入れが発生しないような工夫がされてきた。東京の場合、

解がひとつではなく、異なる方式が用いられているところが興味深い。
東急と東京メトロは3か所、東武東京メトロは2か所に改札なしの境界駅がある。乗客がどこからどう通ったのか、鉄道会社としてあまり気にしないことにしましょうという運用になっている。

JRについては、東京メトロとの境界が3か所あるが、西船橋には乗り換え通路に改札を設置し、経路判定を厳密にしたいという姿勢を見せているかのようであるが、実はJR総武線東京メトロ東西線も朝夕に直通運転を行っているので、経路の判別は不完全である。そして残る2か所は「中野」と、今回問題になっている「北千住・綾瀬」。2つはちょっと離れているが、JRのみで乗り通したとみなすことになっている。

  • 北千住については、中央線-山手線-常磐線-東武線を経由する客と、中央線-東西線-日比谷線-東武線を経由する客の区別はしなくていいよね、というルールになっている*2
  • 綾瀬については、中央線-山手線-常磐線を経由する客と、中央線-東西線-千代田線-常磐線を経由する客の区別はしなくてもいいよね、というルールになっている。

これは、上記の東武スカイツリーライン東京メトロ、東急と東京メトロの運用と同じなのだが、
一方で、千代田線迷惑乗り入れ区間においては、厳密に識別し、厳密に割高運賃を取る。

なぜここだけって思うのはとても理解できる。経営合理化というなら、千代田線西日暮里駅構内の仰々しい連絡きっぷ販売窓口や乗り換え改札を全部とっぱらって「どっち経由で乗ったか特に気にしなくていいよね」の東武、東急方式に合わせたらいいんじゃないと思う。

この訴えは認めにくい

JRは中野-綾瀬間でみなしを採用しているのだから、西日暮里-綾瀬間でもみなしを採用すればいいじゃないか、と訴えるのかと思っていた。
しかし、原告は千代田線開通の際に運賃を割高に設定したことを争点とした。

気持ちとしては理解できるが、綾瀬-北千住間の運営主体が営団地下鉄に変わったときに、利便性も運賃もすべて維持しなければならないならば、民間会社としては経営は成り立たない。
裁判所としては、原告の訴えを認めてしまうと、整備新幹線が開業する際の並行在来線など、JR路線を第三セクターに譲渡するときにも、今までの利便性も運賃も全部維持しなければならないという前例になる。これが許されたら鉄道業界は経営改善ができない。
これから、鉄道だけではなく、バスもタクシーも、公共交通機関、そして2024年問題を抱える輸送も含めて、あらゆる運輸が立ち行かなくなる。
自動運転や、シェアライドの制度設計が、既得権益の反対に遭って間に合わない。新幹線に貨物を積む貨客混載がかろうじて始まった程度である。
新しいサービスに置き換わるときは、利便性も運賃も変動することは当たり前として受け入れていかなければならないのに、今まで通りやれという地元の意見を通していたら、現在の業者が撤退してなくなるだけという最悪の結果を招く。

だから、全国に波及する問題ではなく、日本に2箇所しかない「中野-北千住・綾瀬」「西日暮里-綾瀬」だけの問題として訴えるべきだった。

JRに乗った時に、間に他社線を経由した可能性がある場合でも、その区間ではJRを通して乗ったとみなせばいいのではないですか。
他ではもれなくそうしていますよね。中野-北千住も中野-綾瀬も。
どうして西日暮里だけ違うのですか。

原告団はそれを検討したのだろうか。
一部住民が、上野方面に用事があるみたいで、そこに焦点を当ててしまったのかもしれない。北千住乗換における動線の話にまで発散し、争点がぼやけた印象である。

東京メトロ南北線都営三田線の二重籍は、お互いが延伸区間であって、たまたまうまくいったようなもので、伝統ある常磐線においては、新宿-笹塚を京王に帰属させたのと同じように、建設時から西日暮里を起点にしなければならなかった。西日暮里起点だと、綾瀬車庫まで遠いが、半蔵門線は東急の鷺沼車庫を譲り受けて車庫にしていることから、営業路線から遠くても特に問題はない。営団地下鉄国鉄保有だったので国鉄がやる気ならできたのだが、慢性赤字の国鉄が新線を造ることはできなかった。運輸省の審議会が綾瀬で接続と決めたから、それに従ったまでである。経営難なのに初乗り運賃を1回しか取らないことが許されたのだろうか。こういった背景があるにもかかわらず、二重籍にしなかった責任を認めさせて賠償をさせようとした原告は作戦ミスだったように思う。

裁判所は「経営判断の範囲内」とした。
現行運賃のまま利用する方法を完全に封じたわけではないので、地下鉄に乗り入れるかどうかは経営判断とされても仕方がないだろう。
控訴審では、経営判断の範囲内という判決には同意したらいい。そのうえで「御社の判断にぶれがあります」とすればよい。「あ」で始まる駅は高いとか、5文字以上の駅は安いとか、ふざけたルールを作っても、経営判断ですかね。我々にとってはふざけたルールでほんろうされたようなものだと主張していく。

制度を簡便にできないか

JRと東京メトロは主張を認められた。
ただ、西日暮里において厳密に割高運賃を採る方式を取り続けるなら、JRも覚悟をしてほしいものである。
開業当時は紙の切符と紙の定期券であったが、ICカード乗車券および定期券が普及したため、発券コストも下がっている。
ICカードで乗車した場合の特別ルールも西日暮里のために設けた。
www.jreast.co.jp

西日暮里乗り換えにだけここまで厳密にルール変更にこだわるのであれば、今後運行形態などが変わったときにも厳密にルールを適用してほしい。
これまでの利便性、運賃体系の維持へのこだわりをやめて、運賃制度をシンプルにしてほしい。
前述の西日暮里IC乗り換え割引ルール(100円引き)も、範囲が微妙に設定されている。

※上記の範囲を超えてJR東日本線をご利用の場合には、割引を適用いたしません。

新宿を一駅超えて大久保まで乗ると100円加算。赤羽を一駅超えると100円加算。
こういうのはやめて、全部100円引きにするか、100円引きをやめるか、どちらかにしたらいいと思う。

綾瀬-北千住間のみ乗車したい場合、JR北千住駅では発券できず、東京メトロの券売機だけできっぷを買うことができる。
しかし、東京メトロの初乗り運賃は適用されず、国鉄時代からのルールでJRの初乗り運賃が適用される。
こういう複雑なルールをやめる。亀有、金町に差別してよいのであれば、綾瀬-北千住間だけの乗客にも優遇はしない。ルールを同じにする。
複々線分は国鉄が建設できなかったのだから、ここは常磐線ではなくて千代田線。料金も東京メトロのルールにする。
しなの鉄道青い森鉄道と同じように、常磐線の各駅停車は経営分離したという扱いにする。

今後、他地方でJRの経営分離などが加速すれば、どんどんどんどん制度が複雑になる。
複雑になってもICカードの計算は機械がやるのかもしれないが、計算ミスが発生したり、計算ミスを発生させないために検証する作業が発生したりして、めぐりめぐって乗客の負担になる。
JRでは、新線開通や新駅開業のみならず、駅名変更でもJR各社は億円、数十億円単位のコストをかける。
近年、これらは地元のお願いで実施し、地元がお金を出す慣習になっているが、運賃改定はさすがに自社負担でやるしかない。運賃改定作業が大変なので運賃改定させていただきますってことにならなければいいが。
交通系ICカードは、在来線において他地方との相互接続をやりたがらないが、SuicaPASMOと相互接続している。
JR東日本と私鉄、どちらかが何かを変えれば、お互いにお金を払って検証をお願いしなければならない。

東京近郊区間が長野県にまで広がっているなど、これまでのルールを無理やり残している。途中下車できない区間を広げるのではなく「もう途中下車制度はやめます」とすればいいのではないか。

国鉄を分割した弊害が出ている。会社をまたぐきっぷがあるために、ルールを勝手になくせない。そしてきっぷもなくせない。

新幹線が解決の糸口になるか

実は、会社にまたいだ新ルールが適用されている路線がすでにある。
東海道・山陽・九州新幹線と、北陸新幹線である。
いずれもICカードサービスを利用すると、在来線との運賃計算が分断されるかわりに、新幹線に乗っているうちに会社が変わっても問題ないし、予約システムも共通になっている。
JR西日本が始めたe5489の新幹線eチケットサービスが最強で、東海道・山陽・九州・北陸の各新幹線に対応している。具体的には、紙のチケット発券がこれらの各駅で可能である*3
JR東日本えきねっと北陸新幹線JR西日本区間には対応しているが、東海道山陽新幹線に乗るには紙の乗車券がある。
北陸新幹線東海道新幹線区間まで延伸したら、JR東日本のサービスで北陸新幹線に乗った人もそのまま東海道・山陽新幹線に乗り換えられるのだろうか。
現状、唯一の接点である東京駅ではチケットレスで中間改札を通過できない。関西に設けられる接点でも中間を設けて永遠につなげませんと宣言することもできるだろうが、できればなくしてほしい。

会社またぎでチケットレスが使えるようになる

会社またぎのきっぷのルールを廃止できるようになる

運賃制度がシンプルになってわかりやすくなる

運賃システムがシンプルになる

北陸新幹線は大阪延伸に向けて経路選定も進んでいないので遠い未来の話になってしまう。
リニア中央新幹線静岡県の妨害で工事が進んでいないが、どちらかと言えばリニアの開業が早いと思われる。

JR東海は独自の改札システムを構築するとしているが、予約システムはEX予約をそのまま使うのだろう。東京-名古屋の客に対して、東海道新幹線のEX予約と、新予約システムを使い分けてくれなんて言わないと思われる。東京-名古屋であれば、リニアに誘導したいから新予約システムを強制するとしても、東京-名古屋乗り換え-新大阪の客はシステムが分かれてしまう。

新幹線やリニアが伸びるまで、問題はそのままなのだろうか。
JR東海は、EX予約を、JR西日本JR九州に対して提供し、2023年10月からは各社のポイントがたまるように改善した。
これを弾みとして、予約システム、発券システムを一元化してもらいたい。
やらなければ海外のディスラプタープラットフォーマーに乗っ取られる。
各社がポイントサービスで囲い込みとかしている場合ではない。

亀有・金町の話が、ディスラプターの話にまで及んでしまったが、日本の鉄道は日本の会社に運営してもらいたい。インフラだから。

*1:綾瀬-北千住のみの場合はJRの切符を購入することができない

*2:JR経由で計算される。https://www.jreast.co.jp/suica/use/auto_pay/others/sf.html#anchor-3

*3:JR西日本のサービスでは東日本の新幹線も買えるが、現地で発券できる駅がわずかである。JR西日本のサービスを利用する人はJR西日本管内に住んでいる人が多いだろうが、その場合は旅行開始時に帰りのきっぷも発券しておく