駅の案内表示

2008年6月22日の東京新聞より。副都心線の遅れの原因のひとつは小竹向原駅での乗り換えにあり、プラットホームの案内表示が混乱に拍車をかけたという記事が出ていた。

象徴的だったのが最も大きなトラブルの起きた小竹向原駅ホームの行き先表示板。同駅では上りの一、二番線双方から有楽町線副都心線が出発するが、表示は副都心線は一番線、有楽町線は二番線と固定化されている印象を与えた。

 どちらの電車に乗ればいいか迷う利用者でホームはごった返し、十六日の大幅な遅延につながった。このため、東京メトロは十九日から新しい表示板に切り替えた。

2008年6月20日の読売新聞にもある。

 朝のラッシュ時に慢性的な遅れが生じている大きな要因が、乗換駅の小竹向原(こたけむかいはら)駅(東京・練馬区)の複雑な乗り入れ構造や紛らわしい案内表示だ。
(中略)
19日には小竹向原駅の案内表示を改修、ホームの係員も増強している。

 東京地下鉄のWebサイトによれば、新しいサインは売りのひとつになっていたと思われる。http://www.tokyometro.jp/fukutoshin/#/dataには、次のようにふれられている。

東京メトロのサインシステムは、
東京に初めていらした方、ご高齢の方、
お仕事でお急ぎの方、小さなお子様をお連れの方、
メトロに乗り慣れていない方にも、
わかりやすいデザインを目指しました。

ところが、新聞報道によれば、デザインが優先して読み手の役に立っていなかったということになる。
 この会社の看板は画一的だ。多品種生産をする製造業であれば標準化が進んでいることをほめてもいいが、どうも実地調査を行わず、机上で作っているような感じがする。http://d.hatena.ne.jp/o1y/20071005#1191586519でふれた日比谷駅の道のり表示は未だ訂正されていない。民営化したのに典型的なお役所仕事だ。
 どの案内表示を見ても、千代田線の綾瀬-北綾瀬が別路線であることがわからない。丸ノ内線には俗に支線と呼ばれている区間があるが、同じ表記方法を採っている。池袋-中野富士見町間は直通運転があるのでまだいいだろう。ところが北綾瀬の場合、都心に乗り入れる便の始発駅だと思って住む物件を決める人もいるという。
 東西線東葉高速鉄道はほぼ一体運用なのに、東葉快速の案内が不足気味だ。
 黄色は出口方面という色の使い方は悪くないが、「出口」という文字が異様に小さい*1

改札口案内には中国語表記まで入れて目立つようにした一方でアンバランスだ。
 だいたい、多くの駅で見られる「JR線」という表記は何だ。路線名も書いたらいいではないか。私鉄は路線名入りで、JRは社名だけというのは、東京駅や新宿駅ですべて書き切れないからだろうか*2。結局わかりやすさよりも全駅統一フォーマットにこだわることを選んだようだ。国鉄線と表記していた昔から変わっていない。
 標準デザインに欠陥がある。問題点は2つ。

  1. グルーピングができていない
  2. 徹底した他社線排除

 ホームや通路に設置されている出口周辺施設案内では、異なる方向への案内を1枚で表現するときに、薄い境界線を使うか、入れていない。


柱の乗換路線案内では、左方向の階段は有楽町線、右方向の階段は銀座線・丸ノ内線と書いてあるとき、この境界にも線を入れない。ぱっと見ではどの線が左でどの線が右なのかわからない可能性もある。
 小竹向原の混乱も、デザイナーは「線を入れていないのだから、1番線=有楽町線及び副都心線、2番線=有楽町線及び副都心線というつもりで書いた」と言いたいのだろうが、東京地下鉄の標準デザインは、線が入っていない場合は左寄りに書いてあるものは左側に関する案内、右寄りに書いてあるものは右側に関する案内なのである。乗客は標準デザインどおりに解釈したのに、それが誤りだったということだ。他の駅のように「1・2 有楽町線新木場方面 副都心線渋谷方面」と書くか、1番線2番線両方に「有楽町線新木場方面 副都心線渋谷方面」と表記するべきだった。
 グルーピングの方法がよろしくない。枠で囲むのが理想だが、文字スペースが減ってしまうので、せめてくっきりとした境界線を入れるべきだ。
 先にふれた「JR線」もそうだが、東京地下鉄以外の情報が乏しい。営団時代の旧デザインでは、地下鉄以外への乗り換え案内の表示は地下鉄線と同様に白地だったが、新デザインでは、背景が黄色になった。これは出口と同じである。フォントも小さく細いものが使われている。地下鉄以外に乗り換える客は、出口から外にでる客といっしょという扱いである。
 白金台駅都営三田線の駅でもあるのに、南北線の案内が中心だ。
 押上駅のホーム方向案内で、「東武伊勢崎線方面」というのはいかがなものか。東急に移管された半蔵門線渋谷駅で「押上方面」のかわりに「半蔵門線方面」と書かれるのと同じで不自然である。適切な主要駅名を表示すべきである。
 PASMOSuicaで自由に乗り換えられるようになった今、どの路線がどの会社かどうかはあまり関係ない。他社線の情報も積極的に掲示してほしい。
 これらのことが全部見られるのが、千代田線北千住駅。JRで北千住に行き、常磐線ホームの「常磐線各駅停車」の案内に従って通路を歩くと、JRの敷地から地下鉄の敷地に入ったとたん、公式の看板から常磐線の文字が消える。「この通路を進むと千代田線のようだが、常磐線各駅停車はどこ?」とさまよっている人がときどきいるという。駅員が手作りした表示があちこちにあって、綾瀬方面の電車に乗れば常磐線各駅停車としても利用できることがかろうじてわかる。
 路線図では北綾瀬が終点になっているが、ホームの案内には北綾瀬方面の案内がない。たまたま綾瀬方面と書いてあり、名前が似ているから、代々木上原方面の電車に乗る人はいないだろうが、偶然に救われるデザインではいけない。
 柱には、


日比谷線
東武
           →
JR線
つくばエクスプレス

と書かれた乗換案内がある。旧デザインよりも若干改善されたが、←と→との間に境界線がない。文字では表現しにくいが、右矢印が右の方にあるので、柱の右側に誰かが立っていたら、


日比谷線
東武

JR線
つくばエクス・・・

と見える。
 乗換案内は乗車系看板なので、紺の背景が基調となっているが、東武線とJR線は、他社なので、黄色背景に黒い文字、日比谷線は地下鉄なので紺の背景に白い文字になっている。この区別によって、自社の日比谷線だけ周りの背景色に溶け込んで目立たなくなっているのが皮肉である。黄色と黒という理想のコントラストで書かれた他社線が非常に目立つ。
 路線記号や駅ナンバリングはよい施策だったが、それだけで改善した気分になってもらっては困る。
 東京地下鉄に合わせて駅番号表示を採用して規格統一を行った都営地下鉄には、東京地下鉄のようなひどい看板が少ないと思う。都営新宿線は、京王線笹塚から本八幡までの運用を主体としている。路線案内図では、「笹塚-本八幡間が主体だが、新宿-本八幡間が都営新宿線である」ということがはっきりわかるように工夫されている。駅員による手作り表示も少ない。客からの苦情が少ない証拠だろう。デザイン面だけ見れば、東京地下鉄都営地下鉄に吸収された方がよい。
 副都心線では、「西武線内快速」と車両側面行先表示に出してみたり、若干改善した余地が見られる。でも、全社デザインが小竹向原プラットフォームに象徴されるように、できが悪いので、ローカルでがんばっても限界がある。デザインを手がけた会社は責任を感じているだろうか。

 東京都にだってできるのだから、メトロだってできるはず。

*1:なぜか「改札」は大きな文字で書かれる。どうして使い分けるのかがわからない

*2:その東京駅では、JR線の他に「新幹線」という表示も見られた。新幹線はJR線に含めないらしい