終電車

 都会の近郊。終電の終点で電車を降りると、他の時間とは違う光景がいくつか見られる。
 電車を降りてすぐ電話をかけ始めた人は、たぶん「ごめん、車で迎えに来て」なんて言っているんだろう。雨の日ならば夕方以降いつでも見られる光景だが、終電車だと天候に限らずいつも多い。
 ベンチに座って寝ている人がいる。電車が到着するはるか前からそこにいたようだ。なぜ駅に来たのかと言いたくもなるが、もし酔っぱらっているならしょうがない。
 改札に近づくと、精算機の前には長蛇の列ができている。定期券を持って並んでいるのは、きっと乗り過ごしたのだろう。プリペイドカードと2枚重ねて改札機を通せば精算機を使う必要はないのだが知らないのだろうか。
 昨日入場した乗車券を日付が変わってから通しても、扉が閉まることはないので不思議に思いながら改札口を通る。
 改札を出ると、使用休止の状態になっている自動券売機に一所懸命お金を入れようとしている酔っぱらいを発見。たとえ買えたとしても、翌朝には無効なのだが。
 外に出ると、タクシーの待ち行列がすごいことになっている。終電車の時刻表を車内に持ち込んでいる運転手は見たことがないので、たぶん終電客のにおいをかぎつけて集まってきたのだろう。
 しかし、タクシー乗り場には見向きもせず、深夜なのにやけに背筋を伸ばして歩き出す人がいる。あれはたぶん、

遠い自宅まで歩いて帰る決心をした人

に違いない。がんばってくれ。