電話帳

 でんわちょうと言うと、今ではスマートフォンの電話ソフトに登録された電話番号のリストを思い浮かべるが、かつては家の電話台に備え付けられていたものをさしていた。材質は紙である。
 ひとつは、文房具店で買ってくるもので、五十音別に自分の知り合い、もしくは会社や学校などの電話番号を書き留めておくもの。あるいはNTTが作っている分厚い冊子。呼び分けなくても誤解することはなかったように思うが、どちらも今ではほとんど見かけない。
 先月、NTT東日本・西日本が発行するタウンページが届いた。

  • 最近では(地域にもよるだろうが)都市部でも郵便ポストに入る薄いものになっている。そもそもポストに入らないと集合住宅に配ることができない*1
  • 最後のページを見たら「ハローページは、2021年に発行する(次の版)を最後に終了する」と書いてあった。
  • そもそも、ハローページは2001年頃より希望者のみにしか配布されていない。
  • 街にはわずかに公衆電話が残されているが、よく見るとかなり以前から電話帳が置かれていない。
  • 前回のタウンページに比べて、ページ数が2割削減されている。
  • 目立つのは、家の設備の工事業者か、病院の広告。ただし全部を網羅していないのは明らかだ。

絶滅寸前である。
 iタウンページは月間2億のページビューがあるそうだが、誰が見ているのだろうか。トップページを見ると、広告ビジネスの現在を想像しやすい。

  • お困りごとから探す
    • 歯の矯正・口臭
    • 動物病院
    • 鍵トラブル
    • 水道トラブル
    • 学習塾・進学塾
    • クリスマス
    • お歳暮
    • 年末年始
    • 大掃除
    • 冬の健康

紙のハローページと似たような内容である。ただし、鍵のトラブルで建物に入れないときに、どうやって電話帳を使うのだろうか。スマートフォンで検索する以外に考えられない。
 掲載している企業はよほどお金が余っているか、インターネットが使えない世代を相手にしているように感じてしまい、進んで選ぼうという気にはならない。選んではいけない業者のリストが届いている気がしてしまう。
 病院については、地域の地図に病院の位置を示したものが掲載されているが、Googleなどで地図検索するよりも明らかに数が少ない。Googleは無料で何でも掲載するが、NTTは広告主だけを目立たせたり表示したりする。広告の大きさはNTTへの貢献を示しているが、ネットの情報であれば地図や、口コミなども調べられる。どちらが優れているかは言うまでもない。
 NTTは、Googleの繁栄を黙って見過ごしていたのだろうか。
 日本の商用インターネット黎明期における検索エンジンで、圧倒的に指示を得たのはYahoo!であった。当時のYahoo!はサイトの保有者が掲載を申し込み、人が追加していた。
 その後、コンピューターがインターネットのサイトを自動で収集するサービスがいくつか現れる。Googleは今日においてこの分野で最も成功したポータルサービスであるが、日本においては「グーグル」の前に「ぐー」というのがすごい、という噂になったと記憶している。NTTレゾナントが1997年に運営を開始した「goo」である。
 ただ、NTTはgooが電話帳の代わりにする姿勢を見せなかった。gooよりも早い1996年にiタウンページの前身を開設している。iタウンページの前はエンジェルラインというサービスがあり、その流れを引き継ぐものであった。gooの中に、gooタウンページというサイトもあるものの、今日でも電話帳と検索エンジンは別のものとして存続している。
 Googleは当初、3種類ある日本語コードの使い分けがうまくできずにしばしば文字化けしていたが、すぐに不具合が減り*2、gooにアクセスする頻度は急激に下がっていった。現在のユーザーインターフェースYahoo!と似ていて、どちらがオリジナルかわからないような状態になっている。
 これを踏まえ、映像コンテンツはどうなるかも考えてみたい。
 YoutubeNetflixが伸びているが、NHK+、TVer、Abemaなどの国内勢も生き残っている。今のところ日本の大手新聞社およびその系列のテレビ局は既得権益に守られて生き延びているが、確実に本業での売上を落としている。安泰かと思われたNHKも風当たりが強い。
 新聞社については、時の政権が株譲渡制限解除に動けばあっという間である。NHKはすでに受信料値下げ圧力が現実のものとなっている。本来は成長する新しいメディアは国産を優遇し、成熟した古いメディアは外資に引き取ってもらうべきであったが、現実は逆の方向になっている。気がついたらグローバルプラットフォーマーだけになる日が来るのだろうか。

*1:昭和時代は玄関先まで自由に入れたので軒先に勝手に置かれていた。今はセキュリティが厳しいし高層化が進んでいるので難しい

*2:Googleが改善したことよりも、HTMLエディターが汚いHTMLを作らなくなったことが大きいと思われる