携帯電話4割値下げは余計なお世話

高止まりしているとされる携帯電話料金の話題。菅官房長官の4割発言や、総務省有識者会議をNHKが逐一取り上げてこまめに報道する。
安倍総理の政策は、拉致問題憲法改正も進みが遅い上、どちらかと言うと中立を装う報道機関としてはイデオロギーを感じやすいようで取り上げにくい。一方、菅さんの政策は政権の力を背景に進みそうという期待感があるからなのか、報道機関は好んで報じたがる。安倍総理は第4次改造で、進みが遅い政策のひとつである拉致問題を菅さんに預けた。菅さんがやれば変化があるかもしれない。
わたしは、菅さんの政策である、ふるさと納税は評価しているが、大手携帯電話への圧力は民主党政権のようで好きになれない。
これまでの与党は、誰もが傷つかないように配慮して、補助金をばらまいてきた。しかし日本の国力に限界が見え始めたためか、小泉改革以降は誰かを悪者に仕立て上げる手法が多用されてきた。仮想敵を作るのは政治的にはわかりやすい。政策をやり遂げる信念があるならばある程度仕方がないのかもしれない。大手携帯3社は利益も出ている。3社は多少いじめられても生き抜くだろう。しかし、本当に設定すべき仮想敵は大手3社なのか。

スマホで一番儲けているのはGAFA

ソフトバンクは通信インフラの整備で情報革命を起こそうとしたが、NTTのような土管産業になりつつある。プラットフォーマーとして安定した収益を得ることはできたが、永遠に巨額の投資を続けながらサービスの品質を維持する使命を負うことになった。
この絶え間ない努力に対してさほど受益者負担を負わずにインフラを最大活用しているのがIT企業と言われているが、具体的にはIT企業の中の一部の勝ち組である。コンテンツ産業であるGoogleFacebook。ネット高級ブランド産業であるApple。そしてディスラプター企業であるAmazon。国内にもソフトバンクグループ、楽天、ZOZOがいるが、規模としては米国企業が圧倒している。
公正取引委員会はIT企業による周辺業者いじめに対して調査をかけるようで、標的はAmazonであると噂されているが、日本の社会インフラを安く買いたたいているのは誰なのかということを考えたい。特にAmazonは通信回線だけでなく、物流インフラである宅配業者も疲弊させている。

なぜ米国企業を応援するのか

人口減少社会の中で、通信会社は人々の生活の毎月の支払い項目をより多く自社の商流に取り込もうとしている。NTTドコモらでぃっしゅぼーやを買収したときはみんなが疑問に思ったが、通信を核に、電気水道ガスNHK口座振替、通販、生活必需品まで、すべての支払いを自社経由にしようとしたのである。クレジットカードもポイント制度も作ったが、通信会社が思っていたほど進んでいない。通信と親和性の高いコンテンツ産業の分野では、日本のYahoo!がまあまあ成功しているが、利用者から直接有料課金するコンテンツは米国企業の方が上手な印象である。
通信会社が投資を続けているのは、電話や電子メールの時代では想像もしなかった、大量のコンテンツが流れているからなのだが、そのコンテンツの通信量は今のところ消費者が通信会社に払っている。これを、通信会社が負担せよと言っているのが今の総務省である。
大手は高いと言っている人がやたら多いが、その中身を確かめたことがあるか。無料だと思っているYouTube。アルファベット(Google)が広告業を展開するために我々はポチポチさせられている。ニュースサイトを見れば、見たくもない動画の広告が流れる。ニュースのコンテンツはテキストで1本あたり1KBにも満たなかったとしても月に数百GBのパケットが流れる。わたし個人でもあるキュレーションサイトを使うようになってからパケット消費が激増。最初は毎月Windows 95のOSをダウンロード導入しているような感じだったが、今では毎月Windows 2000+Windows Update*1くらいになっている。有料配信コンテンツを避けているつもりでも

実は広告に払っているのである。

ショートメールに加え、せいぜい写メールくらいしかパケットを使っていなかった頃の生活に戻れば、大手との契約でも1Gの従量課金で2,000円未満で済むはずである。
今後、北海道にカジノができて、米国から来たカジノ会社が儲けることになったとして、カジノで遊ぶ客の負担が外国より高いから、各地から北海道に来る交通費を航空会社が負担せよとなったらそれは公平な競争なのだろうか。
日米貿易摩擦の交渉で「経済産業省及びPPT担当大臣としては関税引き上げに同意いたしかねますが、総務省からGAFAへの裏送金にご期待ください」とでも言ってしまっているのかもしれないと思った。冗談ではあるが実態はそうなっている。

大手3社にはきちんと5G投資をしてもらいたい

大手の料金は安いとは言わない。でも、工夫すれば大手とも安く契約できるし、それがわからなければ品質はそれなりでも安い業者と契約すれば良いだけのことだ。いろいろな業者がいて競争している環境があるのだから、高い業者を安くしろと言うのは、安い業者を潰せと言っているのと何も変わらない。大手いじめではなく、MVNOいじめである。競争がなくなり、大手は疲弊して、国内の通信品質は悪くなるかもしれない。
大手にはこれから5Gにしっかり投資してもらって、世界最先端の情報インフラ大国を作ってほしいと思っている。教科書には寡占は良くないと書いてあるが、寡占による悪影響は生じていない。通販を使えば全国どこにいても格安スマホは手に入る。

高級をたたく

高級自動車、高級化粧品、高級家具、高級貴金属。高い値段で売っていますと聞いても「庶民には関係ない」「高い物は高いなりにいい」「安い物と質が変わらないものもあるが、それでも信頼はできる」と素直に考えることができる。しかし、大手通信会社はいつまでも高級回線になることができない。iPhoneは十分高額なのに、どちらかというとiPhoneを安くしろという声が大きいように感じる。
高速道路と一般道路は、高品質高価格と中品質低価格が並立している状態。かつての民主党政権が高速道路の無料化実験を図り、価格差をなくしてしまったことがあった。ところが、実際は価格差はなくなったわけではなくさらに意識させられるものとなった。具体的にはJRや高速バス、フェリーなどの競合がいて、それらとの価格差のバランスを破壊してしまった。高い値段というのは市場での競争の中でバランスをもって保たれているものなのだ。
現在の公衆無線回線は、衛星電話、MNO、サブブランド、MVNO、無料Wifiの5階層になっている。MNOがやたらたたかれていて4割下がるということになっている。衛星電話は基地局がない場所など、特殊用途向けなので除外するとして、MNOを無理矢理引き下げたら、まずサブブランドは存在意義がなくなり、MVNOはMNOとの差別化が難しくなってさらに経営が難しくなる。MNOの混雑緩和のため、業界として無料Wifiは続けてこられたが、5Gが生まれたら規格上性能を下回ることになる。大規模な更新が必要となるが利益が圧迫したら難しくなるかも知れない。

 つまり、何も良いことがない。

競争状態をしっかり保つことが必要で、接続料の計算方式に監視の目をあてるのは悪くないと思うが、競争結果である価格に対して横から口出しするのは正しい政策だとは思えない。

*1:当時はMicrosoft Updateという名前だった