NASをセットアップする

2017〜2018年の日本は大寒波に見舞われているが、異常気象で夏も猛暑になりそうな気がなんとなくした。写真などをためている家庭用NASは大丈夫だろうか。運用を開始してしばらく経つが、ハードディスクが暑さで突然死しないだろうか。
発売からしばらく時間が経っているため、ファームウェアの更新が途絶えている。セキュリティ動向は変化し続けているのに何も脆弱性が生まれていないのだろうか。この点において国内のNASベンダーは何もサポートしない。
家電量販店をいくつかのぞいてみたが、いくつかの店では家庭用NASの売り場が激減している。クラウドストレージの普及、PCの大容量化、そしてそもそもPCを使わないでスマートフォンだけですます人が増えてきたのだろう。
しかし、かつてなら家族の写真を大事にアルバムにはさんで暗い所に保存していた作業を、アメリカの業者任せにしてよいのだろうか。スマホでパシャッとやりました、何もしなくてもクラウドに送られます、というのは便利ではあるが、本当に全部残っているのかと不安になる。世の中ではシェアリングエコノミーがはやっているが、本当に大事なものは自分がコントロールできるところで管理するということが望ましい。最悪の事態を迎えたときに、誰かのせいでだめになったというのは後悔するもとであり、自分でも最大限やったがそれでもだめだったというならあきらめもつくだろう。
ただし、誰の助けも借りずに自分で全部管理するのも非常にやっかいだ。どんどんデータ容量は増えている。Windows 95時代から遡ると、OSの容量が増えてOSのセットアップが長時間化する一方、個人で作成したデータは外部媒体で保管するというのが一般的だった。外部媒体はフロッピーディスクに始まり、Zip、MD、CD-R、DVD-R、USBメモリーと変わってきたが、デジタルカメラや動画編集が普及すると外付けハードディスクやNASも主流になってきた。しかし寿命が短いこれらは長期保管媒体とは言いがたい。
やがてOSの導入は自動化が進み、利用者の負担は減ってきた。一方でプライベートデータの保管に関する悩みはつきない。媒体の劣化を防ぐ方法をメーカーは教えてくれないし、いつまで読み取り機器が発売され続けるかわからない。新しい媒体が登場するために移し替えを行うが、本当にきちんとデータが複製されているかどうか確認しきれない。そう考えると紙というのは意外と優れた記録媒体である。
考えてもきりがないので、とりあえず今どきの方法を取り入れてみよう。

NASを買う

昔は日本メーカーのBaffaloとI-O DATAの2択だったが、海外メーカーの個人・SOHOメーカーのQNAPとSynologyが台頭してきた。これらは次のような特徴がある。

ただし、テレビ録画に必要な著作権対応(DTCP機能)は不十分である。
I-O DATAの拡張ボリューム機能は魅力的ではあるが、ハードディスクが壊れた時にデータを守ってくれる保証がない。本当にデータを守れるのか壊してみるわけにもいかないし、試すのも面倒である。データが守れるかどうかを確かめるには別のメディアにコピーして、どちらも読めることを確かめるというのが個人利用者としては最も手っ取り早い。業務用のストレージで実装している可用性向上技術を個人向けに採用してくれても個人的にはうれしくない。
わたしはSynologyを選択した。

初期設定

梱包を開けて、電源とLANケーブルを指し、電源を入れる。通常はPCのブラウザからアクセスをしてセットアップを開始する。昔と違って、初期のIPアドレス設定を意識する必要はない。設定画面が表示されたら、ホスト名やドライブの定義などを行っていく。ファームウェアは最新のものに更新しよう。それでも30分もすれば使えるようになる。

バックアップの検討

使えるようになったからといって、持っているデータのコピーを始めてはいけない。データのバックアップの方法を検討しよう。今時はクラウドサービスをメインに使って、NASにバックアップを取るという方法もある。 外から個人データを利用したい場合はクラウドをメインにすると便利ではある。家庭に設置したNASをインターネット経由でアクセスすることは可能だしセキュリティ対策もまあまあ取れるが、何か怪しいアクセスがあるのではないかと疑問に思ったときに自分で調査しなければならない。通信記録を参照したときに、通信相手がバックアップの通信だけであれば、通信相手はクラウドサービスだけになる。しかし外出時にあちこちからアクセスしていればIPアドレスの数も増え、どれが自分が使った通信でどれが異なるのかを識別困難、というか面倒くさい。VPNなどを構築してもいいがそれも面倒くさい。
法人であればメインもクラウド、バックアップもクラウドというやり方もあるが、個人でクラウドの利用料を倍払うのはつらい。クラウドの料金は値下げが進んでいるが、写真や動画の大きさもどんどん大きくなるだろう。
ネットのブログなどを見ると、バックアップに実家を検討する人が少なからずいるようだが、もしつながらなくなったら行かなければいけないというのはイマイチな運用である。
バックアップも自宅のNASに取るというのもありだが、火災・水害で自宅が被災した場合の対策にはならない。
わたしは前述の「自分でコントロールする」という発想から、メインをNAS、バックアップをクラウドにすることにした。クラウドサービスをバックアップにすると利用頻度の低いファイルは単価の安いサービスを利用することができる。メインがクラウド、バックアップがNASの場合、バックアップであるNAS側を参照すればいいのだが、Microsoft Officeのファイルは自動保存機能などで、利用者が意識的に上書き保存をしなくてもファイルが書き換わってしまうことがある。バックアップ側だけが更新されてしまうのは具合が良くない。それを避けるためにはバックアップのファイルをいったんPCにダウンロードして使うなどの配慮が必要だが面倒かもしれない。
外で使いたいファイルというのはあまり数が多くないのであれば、そのファイルだけクラウドメインにして、その他はNASメインにするのがよいだろう。
予算があれば、同じNASを2台買って、NAS-NAS-クラウドのバックアップをするのが一番安全だと思う。2台購入は後述のリストアテストにも役立つ。ただ、通常個人でNAS2を買う場合は始めて買う機種であることがほとんどだろう。使い勝手を試す前にいきなり数万の投資を2台行うのはかなりの勇気がいる。

バックアップを検証する

実際にクラウドサービスに加入し、セットアップを行う。この時クラウドサービスによってはファイルを暗号化することができるが、暗号化するとその鍵をきちんと保存しておかなければいけないので、忘れないところに鍵を保管するようにしたい。バックアップの方法はたいてい解説記事やヘルプがネットに掲載されているのでそれに従って設定を行うだけである。最初はテスト用のファイルを2, 3用意してそれをバックアップしてみる。
クラウドサービスによっては、アクセス回数が課金に影響される場合もある。一方で同期ソフトウェアは10秒に1回のような高頻度で同期確認を行うものもあるので、そのまま使うとかなりの高額請求になってしまう。その場合はバックアップ専用のソフトウェアを使用することが重要である。
大容量のバックアップの場合、アーカイブ用のサービスを使うか、容量無制限のサービスを使うか、どちらでもいいが意識的に使用するクラウドサービスを使い分ける必要がある。

リストアしてみる

バックアップができたからといって安心してはいけない。まだ、データをコピーしてはいけない。先にバックアップを検証したが、そのNASがなくなったり壊れたとして、一から作り直すことができなければバックアップ機能の意味がない。本格的に使い始めてから「壊れたけれど復元できなかった」という事態を避けるため、本格運用する前に防災訓練を実施しよう。
同じNASが2台あれば、もう1台のNASを買い替えたNASに見立ててオリジナルと同じものを作り直すための手順を確認しよう。1台しなければその1台を初期化、リセットして、できればハードディスクも初期化し、RAID構成になっていたらそれも解除した上で、同じものが復元できるか確認する。
ところがバックアップやアーカイブとは異なり、復元に対する情報はかなり少ない。バックアップは画面コピーつきの詳細解説があっても、復元については文字でさらっと機能があることが紹介されている程度だったりすることがある。メーカーのヘルプがもしそうであれば、バックアップについて真面目に取り組んでいるとは言い難い。
リストアの確実性に欠けるという観点から、日本メーカーのRAID機能はおすすめしない。RAID機能の信頼性がないのではなく、復元を行う自分を信頼してはいけないのである。数十年分の写真が消滅してしまうかもしれないというリスクに直面した時、人は冷静に行動できない。なので、「ハードディスクが1本生きていれば、稼働中にもう1本を交換できる」なんて機能に頼るのは棄権である。せめて誰でもできるのはネットワーク越しに他の機械にコピーすることくらいではないか。独立した2台を並行運用して定期複製するという運用が最も安全であり、もし壊れたら新しいNASをもう1台買ってきて、壊れたNASは復旧を試みないで捨てるというのが最も簡単である。
リストア作業の訓練を通じて、技術的にできるかできないかだけでなく、もし気が動転している状態でもなんとか成功させることができるくらい簡単かどうかも確認していきたい。

クラウドの利用料を確認する

リストアのやり方も検証できたら本格的に使い始めてもよいだろう。ただ、クラウドサービスを利用する場合は最初の請求書が来るまでは大容量での運用を始めないほうがいいかもしれない。設定を間違えて高額の請求が来てからでは遅い。

まとめ

初期設定→バックアップ→リストア→課金確認。