災害時の終夜運転

地震当日の夕方、枝野官房長官は首都圏を中心とした帰宅困難者に対して無理な帰宅を試みずに事業所などにとどまるように呼びかけた。
ワンセグはラジオがわりとなり、メディアとして大変有効であった。都内でわたしはテレビアナウンサーが読み上げる原稿を通じてそのことを知った。
ただし、週末だから早く帰りたいし、居場所がないので無理やり電車で帰ることにした。満員電車に押しつぶされそうになりながら「長官の言うことは正しかったな」と思った。

終夜運転の英断

このブログで、わたしは東京地下鉄を何回か皮肉った。薄情な鉄道会社だとも思っていた。この鉄道会社はすぐに客を降ろす。終電間近に日比谷線や千代田線のダイヤが乱れると、車庫に戻すことだけにこだわり、直通電車の運転を打ち切る。日比谷線北千住駅には、伊勢崎線各駅停車のホームに満員電車を入れて「えー、この電車は北千住止まりとなりました」としらっと言って客を降ろす。すでに伊勢崎線下り電車を待つ客でごったがえしているが、運転手の人繰りがつかないらしい。乗客へのアナウンスでは「えー、次も次も北千住行きで、各駅停車はその後です」という。それならば早く「次の次の次」の電車を入線させればいいのに、なかなか当駅止まりの電車は発車しない。電車を観察していると寝過したわずか数名の客をたたき起しているようである。秋葉原辺りから信号待ちの車両が滞っている。数名のために後続車両の数千人が押しつぶされそうになっているが、車庫に回送する電車に客が残らないことだけが重要なようだ*1。ようやく発車したと思ったら、北千住駅そばの留置線ではなく、竹ノ塚に向かっている。

それなら竹ノ塚行きにしろよ

乗客は怒ってもいいのではないか。千代田線も同様。乗客が降ろせないとわかると運転を打ち切る。2011年3月12日は綾瀬にも行かれず、北千住で打ち切ったようだ。
さて、今回はJRや私鉄が止まっていたので家には帰らず、地下鉄で千葉方面の友人宅に向かうことにした。日本橋駅で東西線ホームに向かう通路にはロープが引かれ、たくさんの乗客が座り込んで発車を待っていた。わたしはいつものように薄情な鉄道会社であるならば、このまま混乱を避けるために営業再開をあきらめるのだろうと思った。そして、並ぶのは無意味だとも思った。都営新宿線に乗ろうと思った。浅草線に乗る時点で、新宿線が21時45分に新宿-本八幡間で運転再開するというアナウンスを聞いた。やはり東西線よりは都営の方が頼りになると思ったものだ。
ところが、実際は運転再開していなかった。東日本橋駅から馬喰横山駅へ乗り換えたときにまもなく新宿三丁目-本八幡間で運転再開というアナウンスだった。どちらが正しかったのかは確認できないが、実際の電車の動きから見ると、再開タイミングは馬喰横山での情報が正しかったように思う*2。やがて、岩本町から出発した電車が馬喰横山に到着した。行先は本八幡行きだった。電車は安全確保のために25km/h制限で運行された。ここまでは的確な運営である。
問題はこの後である。この本八幡行きが大島行きに変更された。これはひどすぎる。すぐに思い浮かべたのがいつもの日比谷線や千代田線である。終電間近でもないのに、どうやら間引き運転をするらしい。あちこちから、どうしてこういうときこそ増便してくれないのかという声が上がった。まさにその通りである。安全確保は速度制限だけで十分である。余震を気にしているのかもしれないが、ホームにはおびただしい数の乗客が滞留している。あふれる客がホームで被災する方がよほど危険ではないか。駅間で被災したときに次の駅が空いていれば十分である。ところが、大島行きに変更された電車の前後にはかなり空きがあった。なぜ乗客だったわたしが前の電車のことを知っているのか。大島駅に着いたとき、すでに先行電車が大島に客を置き去りにしていて、他の駅よりも人が多かったからである。
以前、新宿線が止まった時に、無理して新大橋通りを歩いたら再開した電車に乗るよりも時間がかかった経験があるので、今回は待つことにした。なかなか電車はこない。本八幡方面から来た電車も大島で打ち切りになった。ますますやりたいことがわからない。

終電の時間になったら延長せずに終わりにするつもりなんだ

と思った。周りの人もみんなそう思ったに違いない。運転士や車掌を深夜労働させるわけにはいかないもんね。客はしょうがないから歩いて帰らされる。
結局わたしは最徐行区間で15km/hまで制限する本八幡行きで押しつぶされそうになりながら目的地に着いた*3が、実は東西線はその後に運転を再開し、終夜運転したことを知った。西船橋まで行かずに折り返し運転していたためか、深夜帯の混雑率は通常の夜と同じ程度だったという。
終電延長では、いつまで延長するかわからない。4時ぐらいに1時間小休止があったとしても「終夜運転」という言葉の方がいい。最後まで面倒みます、という印象を受ける言葉だ。
少し、東京メトロの対応に好感を持った。

行政ができる帰宅難民対策

枝野長官は正しかった。帰宅者が幹線道路に集中し、歩道がお祭りや花火大会の帰り道のように混雑する。暗闇の中では危ない。車も多い。食糧もトイレもなく、二次災害を引き起こす可能性がある。だから、とどまりなさい、と。
しかし、間違っていなければ何を言ってもいいというわけではない。そんな正論ばかりでは市民を説得できない。首都圏の場合、2011年3月の地震では震源が遠く離れていたが、もし震源が都市直下型だったら誰もとどまりたいとは思わない。しかし、今回の地震でもビルからはコンクリートのかけらが落ちていた。直下型だったらビルに隣接する歩道を歩くだけでも危険である。どのように帰宅強行を思いとどまらせるのか。
会見で発表すべきことは3つ。
(以下は今後の想定です。過去や今回の地震について述べたものではありません)

  • 信頼できる情報の提供
    • 「民放テレビ・ラジオを1局ずつ、鉄道・道路交通情報専用チャンネルにさせます。Ustreamなどでも配信します。ワンセグやネットで一次情報をつかんでください。みなさんは噂を増幅したり根拠のない情報を信じないでください。」
  • 運転再開情報の精緻化
    • 「現在ほとんどの路線が運転を見合わせていますが、点検が済み次第再開できるのか、工事が必要なために復旧が長引くのかの識別を鉄道各社にさせます。みなさんにはいつ頃再開するのかをわかるようにします。」
  • 終夜運転の実施
    • 「そのうち、再開が見込める路線については終夜運転の実施を要請します。電車は何本でも来ますからあわてて帰る必要はありません。避難先で体力を取り戻し、冷静になってから駅に向かってください。折り返し運転となっている場合、折り返し駅では帰宅困難者が滞留しています。目的地に行けることを確認してから移動することをお勧めします」

(想定おわり)
ここまで言えば、ようやく「電車が動くまで待ってみようかな」という気になる。

本当にとどまることができるか

今回の震災では都心におけるインフラ被災は少なかった。一時的に輸送と物資は不足したが、余震の恐怖で建物に押しつぶされる恐怖は東北ほどではなかったと思う。少しは念頭にあったが一刻も早く首都圏を脱出しなければならないという切迫感はなかった。
今回は帰宅を強行せずとどまった人も多く見られた。今後、前項のような適切な周知が徹底できたとしても、もし都心が被災したら本当にとどまることが可能だろうか。予測困難である。
都心の駅では床にビニールシートが貼られて、朝まで座り込む人も見られた。しかし、駅が余震でつぶれるかもしれないと思ったら朝までいようとは思わないだろう。駅は避難所ではない。今回の都心は雨は降っていなかった。強風や雪だったら人々がどう判断するかわからない。

*1:他の駅で寝過した客は起こされないのに、終点だけ起こす必要はない。寝ているのだから車庫に入れてしまえばいいのだ

*2:運転区間については、馬喰横山の駅員が自ら「新宿」に修正していた

*3:とても遅いので、いつ着くのか読めずに大変苦しい