販売応援員を見て大型量販店を憂う

 東京のターミナル駅にあるような大規模量販店に行くと、明らかに社員ではないとすぐにわかる店員が売り場にうようよしている。以前の倍の人数がいる印象である。
 以前は落ち着いて品定めができた店でも、最近ではすぐに声をかけてくる。あ、この人は誰に声をかけたらいいのかわからないのだな、あるいはノルマがあって無理にでも声をかけざるを得ないのだな、と思う。
 普段だったら追いやるのであるが、何を語るのだろうと興味がわいて耳を傾けてみることにしたが、よほど運が悪かったのだと自分に言い聞かせるしかなかった。
 客の希望をそこそこ聞いたと思ったら、すぐに自分の売りたい商品の前に誘導。おすすめ商品については饒舌にアピールしてくるが、「それではうちの使い方に合わない」というと急に元気がなくなる。あ、この人、この商品にインセンティブ(販売奨励金)がついていたんだ、かわいそうに・・・と思ったが、こっちはもっとかわいそうだ。なんで「しょうがないなー、こいつは俺の客じゃないな」と目で語っている人とこれから商談を進めなければならないんだ。
 その店のポイントがほしかったのと、歩き疲れたので、自分の好みの機種を見つけてその店で購入を決めたが、在庫があるかと聞くと、しばらく目の前から消えて帰ってこない。ひどくマイナーな商品を選んだわけではないので、できれば開店前に在庫量くらい暗記しておいて欲しかった。それだけではない。店のポイント制度の説明ができない。こちらから質問したわけでなく、勝手に説明を始めたのに途中で口ごもる。途中でわからなくて社員に聞いたりしている。将来、この店に修理品を持ち込んだときに同じことが起こるだろうと思うと「メーカー保証だけで結構です」と言わざるをえない。言うしかない。
 保証書の所在の説明をしない。駐車券のことを聞かない。わたしがアシストしないと必要な消耗品の型番も知らない。客と必要なコミュニケーションが取れない。
 そして最後に包装。重たい商品を買った場合は、2枚重ねの紙袋や取っ手をつけて持ち帰りやすくしてくれる。優秀な店員なら、包装作業を見ているだけで楽しい。手際が良く、できが美しい。ところが、この日の応援員は自分でできないため、また店の奥に消える。そのまま5分待たされた。忙しい時間帯に人出をさばくために応援員がいるはずなのに、待たされる。別の店員からじろじろ見られる。この人、何をしているのだろうと。

お前のところの素人店員に待たされているんだ!

と叫んで帰りたくもなったが、会計を済ませているのでそうするわけにもいかない。
 もらった商品には取っ手がついていたが、段ボールに描かれた絵柄が上下逆だった。よっぽど売りたくない商品だったらしい。おすすめ商品と同じメーカーの商品を選んだのに、わざわざ逆にして出してくるとは、メーカー社員でもなく「わたしは派遣です」と告白しているようなものだ。思わず笑ってしまった。
 量販店の売り場は、時間によって繁閑の差が激しい。混雑する夕方や休日の人手に合わせて社員を雇うわけにはいかないから、応援員はありがたいのであろう。メーカーは売りたい商品があって、応援員を出すことに意味があるのだろう。しかし、

顧客のためになっていない。

本当は平日の午前中にゆっくり買い物をするのがいいのだが、今回はそれができなくて日曜日の夕方に行ってしまった。自分の戦略ミスもあるが、買い物をする時間を知らない客には適当に売ってよいと思われているようなふしがある。
 郊外型の大規模店に行けば、休日でも駐車場余裕たっぷり、買わなくても駐車料金無料で、店も広く、店員も親切だ。そういうところにまで応援員は来ないから*1店員の質も保てていると言えよう。駅前ターミナルに乱立している大型店は何を狙って出店しているのだろうか。
 ひとつは、平日の会社・学校帰りの寄り道を狙っていると思われる。しかし、授業や部活や仕事で疲れた体で大型テレビを買おうという気にはあまりならない。すると、慎重に買い物をする人よりも衝動買いをする客層を狙っているのではないかという想像が働いてきて、高い接客能力や商品知識よりも、多少不正確でも、甘い宣伝文句をぺらぺらしゃべれるような店員が向いている。わたしはあまりそういう店員の言うことを鵜呑みにはしない。
 ビックカメラ新宿西口、ビックカメラ有楽町、ヨドバシカメラ マルチメディアAkihabara、ヤマダ電機池袋、ヨドバシカメラ マルチメディア吉祥寺・・・23区内では大型店の出店ラッシュである。心配なのは優秀な店員が分散し、接客能力が極端に薄まるのではないかということ。そのうち、

  • 他の商品との比較や、販売傾向に関する話ができない
  • 安い安いとしか言えない*2
  • 値引き交渉には応じられない
  • 客よりも商品のことを知らない
  • 会計に10分待たせる

という店員ばかりの店があちこちにできる。今のままではこの予言は間違いない。大量の仕入れ能力、プライス・リーダーとしての地位、アフターサービスやポイント制度など、店としての総合力は揺るぎないだろうが、一部優良店のプロの接客については駅前量販店ではもう望めない。今の巨漢店の一部は、日が経って物珍しさがなくなれば秋葉原駅西側のやや元気のない大型店と同じような目で見られるような日は近い。
 これからは安さと便利さと、配達日を自由に決められる優位性とを兼ね備えた通販や直販が圧倒的に強くなる。それがわかっているから大型店も通販サイトを開いているが、販売チャネルが多様化すれば、コストを振り分ける先も多様化し、店員教育はおろそかになる。そのうち販売員の下手でいい加減なトークなんて誰も聞かなくなる。聞いた人は不愉快な思いをする。説明が適切ではなかった、言うことを聞かなければよかったとあとで後悔する。

いない方がいい!

 労働者の質が落ちているのはどこの業界も同じだから、まじめにやっている社員には同情しないでもない。わたしが店舗マネージャーだったら、カンペを配るだろう。接客中に読んではいけない。でも、客が来るまでは一所懸命読んで勉強しろ、と。あるいは客と一緒に読めるような資料を作って持たせるのでもいい。商品の選び方とか、動向とか。
 一部の携帯電話の代理店など、本当によく教育しているし、店員の質も高いし、がんばっていると思う。上戸彩が、仕事に疲れて掛布雅之さんの声になっているテレビ・コマーシャルを見て「あれ、いつもの私と同じ」と思っている店員は多いと思う。派遣が悪いわけではない。要はやり方である。単なる応援員よりは、多少コストをかけることも必要だろう。
 それと、明らかにいやがっている客には社員が応対を代わればよい。その人のノルマがあるからと黙ってやらせるのは、店自体の信用にかかわる。

*1:携帯電話とブロードバンドの勧誘スペースは別だけどね

*2:薄型テレビのコーナーによくいる