政治問題で語られるコンピューター

 田原総一朗さんが、テレビ番組やコラムなどで「コボル」と叫んでいる。確かに社会保険庁のコンピューターは古いコンピューター言語で書かれたプログラムが使われているかもしれないが、言語が悪いというのは「フランス語は国際語に向かない」と語った石原都知事と同じレベルになってしまう。何でもJavaにすれば済むわけではない。「今はC言語という(のを使う)らしいですよ」などとテレビで言っていたが、誰に聞いたのだろうか。まあ、システムが古いことをわかりやすく説明しようとしてくれているのだと好意的に解釈しておこう。
 社会保険庁のコンピューターの問題は別のところにあると思うが、細かく書くときりがないのでやめておく。しかし、コンピューターの業界にいる人ならたいていわかる話らしい。
 報道におけるコンピューターの解説は、先日の「シンクライアント端末*1」も含め、あまり正確ではない。ところが、コンピューターの専門家もわかりやすく説明することができない。結局、誰も正しく説明してくれない。最近はバラエティー番組が科学や数学をわかりやすく説明しようと試みるテレビ番組が増えてきた*2が、コンピューターについてはNHK教育テレビでパソコンの使い方を教えてくれるくらいだ*3。大企業や官庁、研究所で使われている業務用・研究用のコンピューターがどういう仕組みかを説明してくれるメディアが存在しない。コンピューターはコンピューターの業界の人にしかわからないというのが現状だ。
 大多数の市民には関心がなく、そんな知識には需要がないと言われればそれまでだが、政界・財界のトップには、知るべきところはきっちりつかんでもらいたいものだ。
 しかし、官僚を頼るくらいしかできていない。「レガシー」なんて言葉が討論番組でさかんに用いられるのは、彼らの説明を鵜呑みにしている証拠だ。レガシーが何を意味するのか説明できる政治家はいるのだろうか。公明党の斉藤幹事長が「分散システムにしなければならない」と言っていたが、分散か汎用機かという議論は1990年代で終わっているのである。今は、相互に接続をしやすいシステムにして、必要なときに必要なだけ機能を足せるようにするというのが流れである。もっとも、政府は未だに「レガシーからオープンへ」が好きであるが、オープンだから「無料」だとか「安い」だとか「品質がよい」だとか、そういうことはないので、いい加減に改めてほしいものだ。オープンという言葉を今最も好んで使うのはMicrosoftだ。
 ところで、政治家は政府の調達のあり方なども含めてシステムの計画を語ってもらいたい。「今、社会保険事務所で出るコンピューターの出力を包んで送るだけだ。すぐにやれ」という声も聞かれるが、包んで送る封筒が1億枚にもなれば一般競争入札が必要である。封入作業をする人だってすぐには雇えない。松下電器が全家庭にはがきを送るのよりははるかに時間がかかるだろう。役所の仕事というのはそういうものである。名寄せするプログラムうんぬんという与野党の議論は正直よくわからないが、とりあえず「今すぐ年金の明細を全加入者に発行する」なんて「ただやれ」と指示してもできない。
 こんなことを言うと野党を攻撃していると思われても困るので与党についても言うと、現在、コンピューターを直そうとしているときに組織改編・6分割なんて、ますますコンピューター・プログラムの改修内容が複雑になるだけだ。民営化と事業分割を同時にやろうとしている郵政も同じだが、銀行に続いて、今後は政府システムのトラブル多発を警戒した方がよい。もちろん、

突貫工事によるシステム移行失敗である

 このことから思うに、例えば建設業の入札改革とか、地球温暖化防止対策とか、防衛予算の適正化とか、食の安全対策とか、表向きはまともに取り組んでいるようでも、専門家や関係業界から見たらたぶん、間違った知識をもとにいい加減に行われているように見えるんだろうなと想像がつく。

*1:http://d.hatena.ne.jp/o1y/20070706#1183719903

*2:あるある大辞典になっては困るが、教育番組のようにためになる情報を楽しく教えてくれるなら悪くない。

*3:最近はhoumupeiji=ホームページをWebサイトと正しく表現してくれるのでちゃんとした人が監修して作っているみたい