情報システムの災害バックアップ

 停電や災害において、情報システムも被害を被る。被害を防ぐには別の場所に同じコンピューターを置き、常に両方に同じデータを置いておくことが重要とされる。
 古典的には、たとえば東京と大阪にセンターを置くということが行われた。例えば、東京のセンターが通常時に使われ、東京が被災したら大阪のセンターで即時に業務処理を引き継ぐという仕組みにする。
 ところが、遠隔地にデータを送るというのは意外と大変なこと。バックアップ用のシステムも、通常時からバックアップデータの受け取り処理などを行うから、通常時無人というわけにはいかず、遠くの運用担当者と常時コミュニケーションを取るのは大変なことだ。
 情報システムが複雑になると、運用員の数も増える。常時稼働の情報システムに対して、メインセンターは20人、バックアップセンターは5人で運用しているとする。昼夜交代制になるだろうし、休暇中の要員もいるから、バックアップセンターには2人か3人しか出勤していない計算になる。いざ災害になったときに、20人で回しているメインセンターの業務が2,3人で作業計画を立て、実行に移せるだろうか。
 メインセンターの人間が出張すればいいのだが、バックアップセンターを持てるくらいだから、メインセンターは耐震も非常用電源もばっちりの施設だろう。そこが動かないほどの災害ならば、新幹線も高速道路も飛行機もあきらめた方がいい。やはり、業務処理再開まで時間がかかってしまうような気がする。
 そこで注目されたのが、中距離バックアップ。中距離の利点は、データの転送が高速でできるので、大量の処理をしていても、比較的リアルでセンター間の同期ができること。そして何より、少し遠いがなんとかメインセンターの運用員が駆けつけられる距離にあるということだ。中越地震があったときには、数十キロ離れると被害規模がかなり変わることがわかったため、地震対策という観点で言えば、同じ都市圏にメインとバックアップがあっても、両方の施設が同時に壊れることはないということがわかってきた*1
 ただし、上流高圧線障害という新たに判明した災害リスクを考えると、中距離バックアップは見直しが必要となってくる。
 高級なデータセンターでも、電源バックアップ体制は、中規模変電所2系統 + 自家発電 + 非常用電源装置*2という組み合わせだ。

  • 中規模変電所2系統・・・今回は中規模変電所より上流で障害が起きた。複数変電所で同時に送電がストップした。つまり、効果的なバックアップ体制ではない。
  • 自家発電・・・今回は最長3時間で復旧したが、しょせん自家発電というのは変電所回復までのつなぎ、もしくはバックアップセンターに最新データを送って力つきるまでの猶予と考えられてきた。日経平均株価が午後に入って正常に計算されなかった事件を見ても、普段の実績がない自家発電はあまり信用できるものではない。
  • 非常用電源装置・・・これも、復旧するまで絶えしのぐためのものではなく、コンピューターの電源を安全に切るまでの世話をする装置である。稼働を開始した時点でコンピューターに対して、ソフトウェアを終了させるための命令を下し、終了処理をしている間だけの電気を供給する。電池というものは経年劣化するものだから、そのとききちんと使えるかどうかはわからない。

本当のテロや広域震災だったら、接続先の通信会社の自家発電まで考えるとデータセンター単体で災害耐性を高めても意味がない。
 通常のデータセンターだと、中規模変電所1系統で、変電所-センター間だけ2系統ということもありうる。そのようなデータセンターを2つ借りて中距離バックアップをしても、実はもとをたどれば同じ中規模変電所だったという可能性も出てくる。「大規模変電所2系統にする」「停電の波及を防ぐため、同じ都市圏に置かない」「電力会社(つまり、地域)を分ける」といった判断が出てくるのだろうか。すると、

中途半端に遠いところにバックアップセンターを造る

ということになろう。

*1:もちろん、両方が設計や建築に手抜きがない耐震施設であることが条件

*2:バッテリーの固まり。UPSまたはCVCF