IT業界の転換

 コンピューターシステムの開発は、今も多くの人手がかかる。かつては人件費が安い中国に委託する「オフショア開発」というものが広まっていた。ところが、東西分断により、情報漏洩や盗用が不安になってきた。そして、ついには中国の都市部の人件費が国内を上回るようになってしまった。中国からの離脱の動きがあるが、より人件費の安い地域を求めたところで日本の人件費がさらに割安になるかもしれない。他国は成長しているから昇給する一方で、今年2022年の日本は急激な円安が進んでいる。
 ただ、日本の場合は技術者に適度な報酬が払われないから安いのであって、日本の方が人件費が安いとは言っても優秀な人材を集められない。扱うコンピューターやデータは正しく扱わないと企業を倒産に追い込みかねないので、モラルの高い人を選ばなければならない。雇った人を信じないならば、コンピューターに工夫を入れておかしなことをさせないようにしておかなければならないため、そのコンピューターにお金がかかってしまう。日本で適切なチームが組めるかどうかはプロジェクトにとって悩みの種である。
 クラウドコンピューティングによって、コンピューターの機器や、機器を大量に設置する「データセンター」と呼ばれる建物は外資企業の寡占化が進んでいる。日本の大手IT企業の技術者も営業もこぞって外資企業に転職している。クラウドサービスは従量課金になっていて、外資企業はドル建てで価格を決めるから日本に住んでいると値上げが進んでいるように見える。機器の世界でも東西分断とコロナ禍の影響で、資源が高騰し、半導体が不足している。製造業者からの仕入れ値の段階ですでに価格が高騰していると思われる。
 技術の向上により、機器の性能は価格性能比でどんどん安くなってきたし、寡占化によって大量仕入れを実現していたのでクラウドサービスは例年値下げを繰り返してきた。しかしドル建てでも値上げが始まるかもしれない。円建てにするとますます負担感が強い。
 日本には、値下げ前提でクラウドサービスをまとめ買いし、顧客に再販する業者があるが、このビジネスモデルを続けるのは難しくなりそうである。
 気づけば、日本回帰の条件が整った開発受託も戻せないし、機器は外資に乗っ取られている。
 日本のIT業界は自動車産業に代わる産業に育たなかった。自動車産業も中国欧州が推進するEVの圧力により、政治力で屈しようとしているが、それより前にIT業界は自滅してしまった。