深夜タクシーの金品供与

 とんでもない不祥事が発覚したかのように騒ぎ立てる一部メディア。役所が強制捜査におびえるかのような記事もあるが、この問題で誰が困っているのか。民主党も、国民が直面している重要懸案を棚上げすることがないようにしていただきたい。
 民間企業の多くが経費削減を進める中、深夜残業が経常的に予算化されている業種の代表は役所だ。大都市の大規模事業所であれば、終電が過ぎるとタクシーが、アイドリング禁止条例無視で集会を行っている。いくつかの場所があるが、たとえば都内の役所だと、高層ビルゆえピンポイントなのは新宿西口(東京都庁)で、エリアが広いのは霞ヶ関(中央官庁街)ということになる。
 深夜にタクシーに乗ってもビールなんかもらったことがないという人がほとんどだろうが、途中駅までで電車がなくなった客は数駅分しか乗らない。繁華街の客はほとんどが乗車前に酔っ払いになっている。車内で缶ビールをちびちび飲む需要がない。
 伝統的な企業・役場の大きなビルの前で乗る客は、ほとんど酔っ払いではない。熟年の客をつかめれば、バブル期に買った家がある、遠くのベットタウンまで乗ってくれる*1。だから、ビールでもということになる。別に役人が乗るからビールを出したわけではなく、どこの会社の前のタクシーでもあることだ。
 話はそれるが、大新聞の本社に勤める記者だって、深夜帰りにビールをもらったことがあるのではないか。そうだとすれば今回の問題はすぐに立ち消えになる。ただ、記者は仕事柄、便利な場所に住んでいると思われるので遠くまで乗らないかもしれない。深夜でも取材で移動かもしれないので供与を受ける立場にはなかったかもしれない。
 役所の場合は、付き合い残業もあるし、議会を抱えているため、持ち帰り残業ができないという悪条件が重なる。想像するに、

国会待機で漫画を読んで待っていたら、22時ごろになって店屋物のメニューが回覧された。出前を平らげて一服すると「そろそろ帰ってよい」という雰囲気が漂ってきた。電車もなくなったのでそろそろ帰ろう・・・

というような感じだろうか。
 終電前後に雰囲気が変わるというのは、激務業界ではほかでもあることのようだが、ハイになっているだけで、深夜族に見られる幻覚の一種かもしれない。ただし、いまどきは「そんなこと言っていないで、頼むから予算節約のため終電で帰れ」と上司に水をさされてしまうのが普通ではないか。どうしても楽に帰りたい、睡眠時間を30分でも増やしたいということであれば、サービス残業なのに自腹乗車にもなりかねない。そこで「調子が出てきたところで申し訳ないが、家が遠いのでお先に失礼します」となり、朝よりも混んでいる電車で、さらにへとへとになって帰る。
 2008年6月6日の報道ステーションは「悪いのは公務員個人ではない」という論調だった。国会が「官僚を家庭教師に使う」と政治批判をする古館さんは、何でもかんでも巨悪は官僚と政治とアメリカと投機筋なのだとして徹底的にこきおろす姿勢が最近煙たくも感じるが、単なる役人いじめではなく国会待機まで含めて幅広く取材していたという意味ではよい報道だった。
 国土交通省は15億円以上もタクシー予算があるとのことで、実は運転手から役人へバックがあったというよりは、指導官庁である国土交通省から、タクシー業界へ補助金が出ていたということだ。ただし「では近いところに官舎を建てて住まわせよう」とか「霞ヶ関を移転しよう」ということになれば、供与先が建設業界に移るだけ。これも旧建設省で、どうやっても国土交通省の利権が残るということであった。思い切ってICTを活用した在宅勤務に切り替えれば総務省になるが。

 1回1万円のタクシー料金のうち、個人にバックされた数百円のビールやカードに目くじらを立てるのではなく、1万円全体をなくさなければならない。
 労働基準監督署が立ち入り検査をすればいいのだ。ぜひ、厚生労働省本省(タクシー予算2位)から。

*1:新しい会社の、若い従業員は便利なところに住むから、長距離狙いの運転手が六本木ヒルズで客待ちをすることはない