つながりにくくなっています

情報システムで、システム障害が起こったときに使うせりふである。本当につながりにくいこともありうるが、ここでの議論の対象外とする。全然つながらないときにもとりあえず「つながりにくくなっています」と周知されている疑いがあることについてふれる。
「つながりにくい」という言い方は伝統的には電話の輻輳に用いられた。電話の仕組みは信頼性が高く、いつでも使えるが、想定よりも1箇所にかける人が多く、発信規制がかかるなどして電話がつながらない…そんな状態を想像するが、実はどこにも「つながりにくい」という言葉に対する定義はない。
携帯電話が個人に普及し、元日にも「おめでとうコール」で輻輳が発生するようになった。チケット電話予約のような一点集中や、災害でなくても電話交換機が混雑することを、電話会社は必死にアピールした。テレビなどのメディアに広告を出すとともに報道もしてもらった。その結果、つながらないことがあるということは認知されるようになった。
情報システムの管理者は、この努力にただ乗りしている。今時の情報システムは、多少の機械故障に対しては正常な部分に回路を切り替えてサービスが止まらないように工夫されている。それなのに処理が追いつかなくて「つながりにくくなる」という状況はあまり考えにくい。

  • つながりにくいの原因
    • 想定を超える接続があって処理しきれなかった。
  • つながりにくいの真の原因として疑いがもたれる要素
    • 本来行うべき処理に耐えうるような性能が出るように投資をしなかった。
    • いざというときのためにきちんと投資しなかった。
    • 間違えて止めてしまったような人為的なミスをした。
    • きちんと設計しなかった。きちんとプログラミングしなかった。
    • 想定しない故障が発生した。

真の原因については「接続量が減れば直る」で済まされるような軽い問題ではない。しかし、極端に接続量が増えたわけではないのに、とりあえず

つながりにくくなっています

とWebに掲載してみる。障害が起こったとき、利用者は必ず再接続を試みる。毎分100人が同時に使うWebシステムの場合、その100人が全員「あれ、つながらないな」と思うと、ブラウザの更新ボタンをほとんどの場合、押す。1回押すと、毎分100人がさらに100人分の接続要求を行うようになる。累計で毎分200人に相当する量が来る。それまでに障害が直っていないと、何度も更新ボタンを押す人もいるし、障害発生後に新たに接続しようとする人もいるので、ますます増える。サービスがうまくいかないと、通信途中の別の機械に負担をかけてしまう。「つながりにくくなっています」は、これを防ぐものだという説明がなされる。
ところが、利用者は、そのような意味だとは知らされていない。そして、おめでとうコールのような状況を勝手に想像している。原因は上記に書いたようなものだとしても、とりあえずちょっと待てば大丈夫だと思うのだろう。ちょっとが10分なのか、30分なのか、1時間なのかはみんながどう考えているかどうかわからないが、各自でそれなりの時間観を持っていることだろう。しかし、重大な故障であれば、よほど投資していれば直ることもありうる*1が、たいがいは直らない。そのようなとき、システム管理者は接続を切って調べたり、コンピューターを再起動させたりしなければならない。つながりにくいではなく、つながらないはずだ。
きちんと説明されないのは、システム停止が責任問題になるからだろうか。完全につながっていないわけではないのですよ、ということをにおわせる。ただ、どこにもそんなことは書いていない。

つながりにくくなっています

説明はこれだけである。政治家や役人の常套句である「対応は極めて困難であります」と同じかもしれない。
つながらないことに対して、損害請求が発生することはあるが、インターネットやWebの仕組みを使用していると、「つながりにくいこと」は免責になっている。通信経路がベストエフォートなので、きちんとシステムを動かしていても利用者の通信が届かないことは起こりうることなので免責は仕方がないが、「つながりにくい」はその免責に悪のりしていないだろうか。

「つながりにくくなっています」は疑ってかかった方がよい。

*1:きちんと事前にテストをしていてバグがなくて、全く同じ性能の待機系システムを持っていれば、障害が発生しているシステムを切り離して待機系を起動すれば、重大障害でも復旧することがある。ただ、データを管理している部分が壊れてしまったら致命傷である