パソコン操作の教え方

 部屋の掃除をしていたら、IT講習会の資料が出てきた。ああ、そういうの、あったなあ。
 国の補助金で全国の自治体にパソコンが配られた。それを使って全国各地で公営カルチャースクールのようなものが行われた。もうすでに耐用年数が過ぎていると思うが、あの当時のパソコンが買い換えられたかどうかで自治体の体力がわかるというものである。
 ところで、パソコンが苦手な人に対してパソコン操作を教えるというのは、自動車教習所の教官なみに忍耐力が必要となる大変な作業である。
 1対1で教えるときに、非常に重要なこつがある。例えば「Webブラウザを開いて、URLを入力をする」程度のことさえできなような人に対しては、「まずは、覚えなくてもいいですから、流れを見ていてください」と言って、自分のしていることを説明しながら全部の手順を教える側が操作してあげるのがいい。
 理解の妨げを取り除いてあげるには、教わる側の心理状態を理解しなければならない。1つの作業を成し遂げるのに、複数の作業を、順番通り、かつ一度にすべて覚えなければならないということ、これは大きな焦りを生み出すようである。ここで覚えなければまたしかられる、怒鳴られる、あきれられるという思いがプレッシャーになっている。まずはこれを取り除いてあげる必要がある。
 次に、個々の作業を細切れに理解しようとする傾向がある*1。そこで、流れを理解してもらうということを重視するのだ。ひとつひとつの作業で、シングル・クリックだったか、ダブル・クリックだったか、はたまた右クリックだったかを気にしているとなかなか頭に入らないようだ。それは個々の操作を練習する中で覚えてもらおう。
 そして何より、

教えている側のクールダウン

が何より重要である。「何でこんなこともわからないのだ」というあきれが、相手に対して厳しい態度で当たってしまうことにつながる。相手が操作をしている時間をいったん遮り、自分が正しい操作をしている間に自分を落ち着かせる。教える側が冷静でないと教わる側も安心できない。
 理解度を確認しながら進む必要はない。むしろ、質問されても止めずに流した方がいい。ただし、ホワイトボードや教材ではなく、自分が操作をしている姿を実際に見せながら解説してあげる。1回で流れが理解できないようであれば2回でも3回でもやる。
 古典的な自動車教習みたいに「まずはやってみろ」というのは勧められない。教習者は助手席にもブレーキがついているが、パソコンはない。操作を失敗して、データを消したり、実際に動かなくなったのを見て、「もう二度としないぞ」と思ってくれればいいが、そうはいかない。失敗した瞬間、頭の中は真っ白になっていて、何をしたか忘れてしまいがちである。失敗が教訓にならないのがパソコンの世界。

パソコンは成功しないと身に付かないものである。

1度も成功したことがない人間に成功させるのは大変だが、幸いなことに自動車と違って、隣の人の操作が見えやすい*2。だからこの利点を最大限に活用すべきである。

*1:わたしも自動車の運転操作がうまくならないときはそうだった

*2:ブレーキのタイミングとか、方向指示器の出すタイミングって、教習生が助手席から見ていてもよくわからないんですよね