上手に問い合わせる方法

パソコンや家電のトラブルを人に質問するのはなかなか難しい。
インターネットの掲示板を見ると回答者の多くは不機嫌である。わたしもいくつかの質問者に怒ったことがある。
操作方法を知らない人からの質問だとわかっているにもかかわらず回答者が不愉快になることが我ながら不思議である。そこで回答者の立場から、質問者が効果的支援を引き出すための技術を説明してみたい。
前提として、コミュニケーション手段を電話やメール、チャットを使うものとする。実は解決だけが目的ならば機械を実際に操作してもらうことが一番早い。回答者は質問の要領を得ない質問者と会話するより機械に直接触れる方が効率的である。それがいつもできるのであれば本稿は不要である。しかし現実には離れた場所で解決しなければならないことが多い。
もう一つ、本稿はマナーを説教しようとするものではない。わたしは質問者と回答者がどのような関係かは理解できない。ただし、どのような場面でも共通しているのは回答者は知識を提供する側であり、回答者が心地よく効率よく知識を出せれば素早く解決し、お互いに満足できるということである。回答者の心象と効率は質問者がコントロール可能である。質問者が回答者にへりくだる必要はないが、知識を提供する側を尊敬し、相手に配慮することは悪いことではない。
想定する読者は

  • 質問して怒られやすい人
  • 質問されて怒ってしまう人

起こっていることを焦って伝えない

質問者は目の前で起こっていると感じたことを最初に言ってしまう。実際は起こっていることではなく、起こっていることを目で見たり耳で聞いたりした上で、質問者が現象を想像した可能性がある。熟練した回答者は、そのような話は信用しないし解決には関係ない情報だと思っている。

  • パソコンの電源を入れても画面が真っ暗だ
    • モニターの電源を入れていないだけである
  • 勝手にファイルが消えた
    • 消したのは質問者自身である

決め付けるまではしないが、回答者はこんなことを想像しながら、勝手に

くだらないことで質問してきやがって

とまで思っている。質問者が悪いのではなく、回答者に対して過去に質問した人が、そういう先入観を植え付けてしまったのである。もちろん、過去の質問者があなたと同一人物であれば、あなたも多少責任を感じていただき、質問方法を改善していただきたい。
実際は詳しい人の知識が活用できる何かが起こっているのかもしれない。あるいは、正確に伝えているかもしれない。しかし、効率よく回答を引き出すことには全く貢献していない。

話す順番はとても重要である。

「寝坊した。遅刻しそうである。」というときに、最初に言うべきは何か。「すみません、遅れます」である。「電車が遅れてしまって、それで・・・」と言い始めるのは言い訳にしか聞こえない。「うちの目覚まし時計は古くて、電池も交換していなくて。。。」と言い始めるのは相手の心理を逆なでするだけである。電車も時計も相手には全く関係ないことである。相手の怒りをなるべく静めるには最初に何を言うかが大事である。
質問者は寝坊をしたわけでも遅刻で迷惑をかけるわけでもない。しかし、回答者が親切な人だとしても、回答者にお金を払って依頼していたとしても、相手の心理状態は遅刻された側の心理に似ている。その上、先ほど説明した歪んだ先入観を持ってしまっている。
では、最初に何を言うべきか。

助けてほしいのですが、今聞いていいですか?

だと思う。相手が仕事で質問を受け付けている場合は

助けてほしいのですが、質問先はこちらでいいですか?

というのもよい。相手の都合を聞くということが重要である。当たり前だと感じる人もいるだろうが、見落としがちなのは、相手からの指示で操作をしていたときである。メールを送ったと言われたのに届かない場合、自分が悪い場合と相手が悪い場合がある。しかし、結果どちらだったとしてもその問題切り分けを相手にさせる場合は、相手の時間を使っていいかどうかを尋ねるべきである。今すぐメールを受け取らなければならないのか、後ででもいいのかを最初に伝えることはとても回答者にとって心象がよい。指示通りやってできないのだから、クレームを言っていいのではないかと疑問を持つのは自由である。しかし、結果として相手に頼るのであれば、クレームは解決した後に言った方がいい。

技術的な要素を省いて説明する

相手が質問を受けることを了承したら、続いて質問者は状況を伝えなければならない。「起こっていることを焦って伝えない」と前述したので、そろそろ現象の説明に入るのではないかと思うかもしれない。質問がうまくない人は「ポップアップが出ない」「エラーなんとかが出る」「画面が出ない」「紙が出ない」と現象面を説明しようとするが、この時点でもやはり解決に結びついているとは限らない情報である。現象を伝えることで「ああ、それは解決策があるよ」と言ってもらえそうなら言ってもいい。しかし、特に難航しそうならば現象から伝えるのは勧めない。そもそも現象への対処が、あなたに対する最高の解決策かどうかはわからない。
最初は技術的な要素を一切省いて説明することを心がける。
特にパソコンでは他のソフトウェアが動いていて同時に不具合を起こしていることがあるので、説明した現象と、解決したいことが関係ない可能性がある。信頼できる回答者なら「何か出ているか?」と聞いてくれるので、それまで待ってから説明するのでも遅くない。

2つの説明をする

技術的な要素を省くと何が残るか。

  • 何がしたかったのか
  • 何をしてほしいか

この2点である。なるべくならば、作業の用語で説明することである。機械を使って何が起きたかではなく、機械を使う使わないにかかわらずあなたがどんなことをしたいのかを説明するのである。例えば機械操作を人にやらせている状態を想定しよう。画面が乱れたとか、変なメッセージが出るとか、ボタンを押しても反応しないといった類は操作する人には問題かもしれないが、あなたには関係ないことである。機械を使って何をしたかったのか。印刷した紙がほしいとか、映像を見たいとか、ファイルを相手に送りたいとか、音楽を聴きたいとか、そういうことになると思う。

  • 年賀状を印刷していたが、編集画面に入れたはずの文字が印刷された紙にない。印刷できるようにしてほしい。

ただし、直接機械操作にかかわる質問をしたいこともあるだろう。その場合はやり方を教えてほしいと質問することになる。

  • Windowsを起動した直後に、意味不明なメッセージが出るようになった。出なくしたいがやり方がわからない。出なくするにはどうしたらいいか。

質問が苦手な人は、この2つの事柄を落ち着いて整理してから相手に連絡するようにしたい。「何がしたかったのか」は過去の状態、「何をしてほしいか」は将来の目標である。この順番は崩さない方がいい。「何がしたい」という言い回しは、過去できなかったことなのか、現在したいことなのかがあいまいで、質問の趣旨を回答者が取り違える可能性がある。億劫でも過去「したかった」ことに置き換えて表現するのがよい。わたしは「○○がしたい」と言ってくる人には「何をしようとしたの?」と問い直すことにしている。

メールが受信できない。

これでは「何がしたかったのか」しか説明できていない。メールを受信できなかった過去の情報はわかるが、メール以外の受信方法を知りたいのか、他のアカウントに送ればいいのか、とにかくメールが受信できるようにしてほしいのかがわからない。

メールじゃなくてもファイルを受信できる方法はないのか

これでは「何をしてほしいか」しか説明できていない。メールではない方法を伝授したところで、そもそもパソコンがネットワークにつながっていなかったら目的は達成できないではないか。面倒でも、あるいは似たような情報の繰り返しになっても

  • 何がしたかったのか
  • 何をしてほしいか

これを順番に言うことである。

「メールを受信しようとしたができませんでした。メールを受信できるようにしたいが時間がないので、メール以外でインターネットからファイルを受信できる方法を教えてください。」

これが理想である。ファイルが受信できればいい人に対して、メール受信障害の解決方法を助言しなくてすむ。
回答者は解決できることを喜びに質問に応じる。たとえ喜びでなかったとしても効率のよい解決は、時間と手間のロスという損失を最小化できる。だから、解決のための質問を身につけるべきである。
どんな現象が起こっているか、ということは回答者が追加質問してくれる。「それでさぁ、何があったのさ?」とストレートな会話を求める性格の相手だとしたら多少不機嫌になるかもしれないが、これは最低限のコストだと思って質問者が我慢するしかない。質問されたら説明するようにしよう。
「エラーメッセージが出ている」のような現在の現象は、過去と将来を説明してからゆっくり説明すればよい。焦って最初に説明しない方がよい。

いつもと違うことがあれば伝える

きょうは家の回線ではなくてモバイル回線から接続しているなど、正常稼働していたときと違う部分があればそれは伝えるべきである。以前の状態であればいつも成功するのに、状態を変えたことで失敗するのであれば、変えたことが原因となっている可能性がある。ただし、いつもと違いがないと思ったとしても、そのことは断言してはいけない。いつもと違いがないかどうかは回答者が判断することであり「特に何も変わったことはしていないと思う」と推量にとどめるべきである。

どこまでできたのかを伝える

ビデオデッキの電源が入らないという質問であれば気にする必要がないが、ひとつの作業に3ステップ以上ある場合は、何ができたかを確実に伝える必要がある。すでにできたことは質問者にとってはどうでもいい情報かもしれないが、回答者にとっては不可欠な情報である。ある作業を終えるのに5つの手順があったとして、それぞれ手順がうまくいかない原因が4つずつあったとする。最後までにいかないときに考えられる原因は4×5=20通りである。これらの可能性をひとつひとつ絞りながら遠隔から説明するのは疲れる。しかし、最初の手順でつまずいているのならば4つの原因に絞れるし、3つ目の手順でつまずいているならば、4×3=12で最大12の原因に絞れる。多くの可能性を絞るのは回答者にとってとてもいいことである。

修飾語は省略しない

メールが来ない、画面が出ない、と悩みを短く言い切りたい気持ちはわかるが、昨日のメールが来ない、確認の画面が出ない、と主語を説明する語を付けた方がいい。詳しい人はいつもいろいろな作業をしているので、違うものを対象と認識してしまうかもしれない。

自分の機械の状態を知らせる

特にパソコンの場合は、インストールされているソフトウェアのバージョンなどを伝えるとよい。

質問者は時に焦っているかもしれないし、時に不安かもしれないし、時に回答者の反応に不満を持っているかもしれない。しかし、それらの感情を回答者にぶつけても仕方がない。解決するまでは、型に従って、効率的に情報を伝えることに徹するべきである。