「他の目的で」

 とある役所から手紙が来た。「何か言われなければならないようなことをしただろうか」と不安になったが、封を開けたらアンケートが入っていた。なーんだ。
 このアンケートが少し怪しい。

*****の普及・拡大の参考とさせていただくため

とあって、アンケート回答欄などをはさんで、脚注には

・・・いただいた内容につきましては、他の目的で使用することはありません。

とある。
 その上にはなんと住所、氏名、電話番号の欄がある。これらより、この機関は、「*****の普及・拡大のために、個人情報を利用する」と言っている。
 国の機関なので行政機関個人情報保護法を読む。

第三条  行政機関は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。

普及・拡大というのは「特定」にあたるとは思えない。

違法ではないか。

「わたしたちは国なんだから変なことはしないでしょう」という言い訳をさせないために、条文には「かつ、」という接続語が入っている。特定というのはいつも行わなければならないのである。
 アンケートなんだから、謝礼を贈るためでしょ、それなら同条第4項の例外規定にある

取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められるとき。

と該当する・・・と思いきや、実はプレゼントをくれるとは書いていない。どこを読んでも、今回のアンケートで個人情報を記入する理由が理解できない。

何のための個人情報収集なのだろうか。

 法令に従って、個人情報取扱事業者や行政機関等は、個人情報の利用目的を明示しなければならない。その上で、「他の目的で使用しない」と言えば問題ない。ところが、明示するという前提を理解せずに「他の目的で使用しない」とさえ書けば許されると勘違いしている人がいるようである。いや、そうに違いない。
 Google先生に「他の目的で and 個人情報」で聞いてみると実にたくさんのサイトがヒットする。いずれも目的を明示しているようだが、役所が間違えることもあるのだなと思った。
 学校で緊急連絡網や同窓会名簿を配れないなど、過剰反応はまだ続いているのだろうか。誤解を解消し、必要な個人情報は収集できるようになればいいが、本当にいいと思えるようになるためには必要最低限度の取得と、利用目的の明示という原則を守ってもらわないと困る。