家を買うときの損得計算

 借家に住んでいる人が一戸建てやマンションを買うときに、現在の家賃と住宅ローンの支払額を比べたりする。しかし、比べるもの同士が間違っている。借家に住み続けるべきか迷ったときの正しい計算方法を考えてみる。
 結論から書くと、次の式を用いて「保守的に」計算し、購入前後を比べる。

購入前住宅費用 = 家賃 + 契約更新料(月割り) + 雑費
購入後住宅費用 = ローンの支払利息 + 購入住宅の減価償却額 + 雑費

オーナーは、これまで大家さんから受けていた不動産賃借サービスの代わりに、金融機関からの融資サービスを受けることになる。このサービスに対して利息で対価を支払う。また、持っている資産は目減りするが、これは自分の資産に自分の住む場所を提供してもらうかわりとして、資産価値がすり減るという風に考える。すり減る分が対価に相当する。ローンを組んで持ち家に住む費用というのは、このふたつの対価を足し合わせた金額ということになる。
 以下の条件で例題を解いてみよう。

新築価格: 4,500万円
頭金: 500万円 + 諸経費
住宅ローン借入額: 4,000万円
住宅ローン金利: 3%/年 (月支払額: 約15万円、ボーナス支払額: 0円)
駐車場、管理費等: 4万円

ローンの支払利息

 家賃と比べやすくするため、月額で計算してみよう。借入金は4,000万円で金利が年3%だから、初年度の年間支払利息は4,000×3%=120(万円)だ。実はローンを支払うと元金も返済するためきちんと払えばこの数字を下回るのだが、いつ事故が起こって元金返済が滞るかどうかわからない。だから、借入金額が1円も減らないという前提で最大の利息を出しておこう。これが「保守的に」と書いている意味である。また、きちんと払えた場合の計算方法を散文で説明するのは難しすぎる。よって、単純に掛け算1本で求めよう。月の利息はその10分の1、10万円となる。この数字は、ローン返済総額より5万円以上安い。

購入住宅の減価償却

 減価償却というのは、簿記を勉強したことがある人ならば誰でも知っている。資産を持ったときに、一度はその価値を帳簿に記しておいて、時が経ったらだんだんその価値を減らしていくというものだ。
 自分の家を買うときには、たとえ新築を狙っているとしても、周辺の中古相場がわかる資料を用意する。例えば首都圏に住んでいてマンションを狙っているなら、通勤駅で住宅情報マンションズ(無料)をもらうだけではなくて、住宅情報タウンズももらっておこう。2006年8月30日号は「中古マンション エリア別最新事情」が特集でちょうどよい。
 購入候補の物件と、「築年数以外の」条件が似ている物件を探す。例えば、

駅からの徒歩所要時間はほぼ同じ
広さもほぼ同じ
築8年
3,300万円〜3,600万円

という物件が見つかったとする。次に購入候補の物件の新築価額を確認する。ここでは4,500万円(+諸経費)である。
 今後、地価などの不動産価格は上昇するかもしれないが、欲張らずに「自分が8年後に売るときも同じ条件」だとして保守的に見積もる。すると、4,500万円のマンションが8年後に3,300万円*1まで下落するということになる。転売時の不動産取引手数料や、修繕積立金も考慮したいなら、資産価値がさらに減ると考えるのもよいし、購入時の諸経費*2も住宅価額に含むと考えるのもよいが、今回はそれは省く。
 単純な計算方法をとるならば、1,200(万円)を、8(年)で割る。150(万円/年)、あるいは12万5千(円/月)ということになる。毎回定額で減っていくので「定額法」という。
 しかし、この方法は欠点がある。定額法で30年償却すると、住宅の価値が0になってしまう。地震大国であるし、日本の家屋の耐用年数は30年程度とも言われているが、さすがに0ということはない。少なくても定期借地権でなければ土地の価値はめったになくならない。よって「もし取り壊すはめになって費用まで負担させられたら」というところまで考える人以外は向かない方法である。配管はがたがた、大規模補修が必要とはいえ、住めなくなることはないと考える場合は、毎回一定割合で減っていく「定率法」という方法が向いている*3
 定率法では一定割合しか減らないから、永遠に0にはならない。そして新築当時の方が償却額が高くなるようにできていて、保守的である。
 具体的な数字は次のようになる。8年で1,200万円減るということは、価値の低下率は1/4くらい。詳しい算数の説明は省くが、毎年3.5%/年ずつ減らしていけばこの水準になる。ただし家賃と比較する場合は毎月の割合が必要。0.3%程度だろうか。こういう計算は電卓だと大変なのでパソコンの表計算ソフトにやらせるのがよいであろう。ローン完済までの資産価値を毎月分出してくれる。

雑費

 これらに加えて、マンションの場合は駐車場代や管理費を払う必要がある。修繕積立金も忘れてはならない。都心の場合は駐輪場代も安くない。例題では4万円としている。

合計

 すべて足すと、10 + 12.5 + 4 = 26.5(万円) ということになる。高価な資産を持つ代わりに、毎月の負担はかなりのものになるといえる。これまでも20万円の家賃を払っていた人ならば大したジャンプではないが、ローン支払額と同じ15万ちょっとの家賃だった人にとっては少し重荷である。住宅展示場に行くと「家賃相当ですよ」とそそのかされることがあるが、決してだまされてはいけない。
 計画通りであれば、コストの半分は家の価値の減少という形で支払われるから現金が毎月必要というわけではない。ところが転勤があったり、天災があったりした場合は、資産がコスト負担してくれなくなる。これがいわゆるダブル家賃状態。早めに繰り上げ返済をして金利負担を減らさなければきついことになる。
 かつてのデフレの時代には、減価償却の積み増しが必要ということになる。バブルのときに家を買った人は大変だったろうと思う。今後予想される金利上昇も住宅費増加ということになる。まあ、これは有名な話だが。
 家賃との差額は何か。これは言うまでもない。満足感と優越感だ。そして今はなにより

短期的な不動産上昇メリットの享受*4
家賃上昇リスクの回避

の2点が非常に大きい。ただし「ローンを支払い終えたら資産が残る」というのは古い考え方だ。耐用年数の過ぎた住宅は費用ばっかりかかるマイナスの資産だ。

さあ、それでも買いますか。

*1:保守的にするため、低い方の物件の価格を採用する

*2:ローン保証料など

*3:事業用不動産の減価償却は、残存価額10%の定額法で行うことが決まっている。定率法だと税金計算には使えない点には注意

*4:数年後に転売しなければならない場合、もしかしたら値上がりしているかもしれない、という程度だが