旅行代理店

 プロ野球に興味がある経営者がやっているWebサイトで温泉を探した。
 よさげな候補は見つかるが、宣伝文句を信用するための何かが欠けている。施設の写真だって大学のシラバスに掲載されている講師の「若い」顔写真を思いだしてしまう*1。料理の写真を出している旅館はきっと何も写すものがなかったのだろう*2。宿泊者の投稿を載せて双方向コミュニケーションを実現しているサイトもあるが、くだらないクレームか、やらせよいしょ投稿のどちらかにしか分類されないものばかりのように感じる*3。このような邪念が入ると申込の途中で躊躇してしまう。
 ひとり旅なら、目的を宿以外に設定するか、インターネットができる宿など変わった特徴で探すのが好きなのだが、今回は複数人で行くので、みんなにいいと思わせなければならないし、雨が降って何も遊べない最悪の事態を想定すると宿にはある程度プレミアムを用意しなければならなかった。
 こんな逡巡をのべ5回2週間も続けたものだから、アクセスログから顧客動向を分析している担当者がいたとしたらさぞ不思議に思うことだろう。
 ここで、人づてに紹介してもらうという方法も浮かんだが、満室など条件に合わないと紹介してくれた人に悪いかなと思った。
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 発想を改め、旅行代理店に出かけた。
 番が来てカウンターの前に座ると、まず最初に電話番号を聞かれる。プロファイルが自社に登録されているかされていないかで対応が変わる。
 隣の窓口のおねえさんの方がいいと思ったりもしたが、今回はベテランの社員さんで大成功。
 日付と目的(温泉)以外の条件があまり決まっていなかった。「何か勉強して来られましたか」と聞かれたが、「モニターの前で2週間」は恥ずかしくて言えない。いいえと答えると、ちょっと店員さんも困った雰囲気だった。
 それでも資料を持ってくるとぽんぽん宿を紹介してくれる。そのとき、「ここはお勧めですよ」「**がいいですよ」と具体的に言ってくれるのがいい。しかも、どれもいいなんて言わない。あなたにはここがいいと言ってくれているような気がしてくる。Webサイトはこういうことを言ってくれない。旅行というジャンルにこだわらずにあえて言うと、心地よい助言をくれるWebサイトはAll About(オールアバウト)くらいだろうか。
 代理店の使命としては、いい商品も悪い商品もまんべんなく売らなければならない。だから、自分が悪い商品をつかまされている客になっているかもしれない。不動産屋に行くときはその考えが優先すると本当に疑い深くなってしまう。でも、長期間賃貸する住宅や駐車場とは異なり、旅行なんて短時間の話だ。その短期間だけ、ここはすばらしい、よかったと思い込んだ方が勝ちなのだ。その意味では、「お勧めです」と言ってくれた方が良性の思い込みを助長してくれる。嘘でもいいから「あなたの選択は最適でした」という雰囲気をかもし出してほしいのだ。
 それに、マイカーや不動産屋の場合は契約と引渡しが完了してしまえば、簡単には乗り換えられない。初期費用が高いし、契約に伴う諸手続きに手間と時間がかかるからだ。そんな契約者の立場を知ってか、契約後の態度を豹変させる者に出くわすと失望させられる*4。しかし旅行代理店は1回の取引が短期だし、他二者よりも短周期で次の需要も見込めることが少なくない。そんな中、一度信頼を失ったら繰り返し来てもらえなくなる。だから、まじめな店員は必死になる・・・不動産屋のような裏切られ方はしないだろうとよい方向に考えることができる。
 あの社員さんは接客の才能があるか、かなり訓練を受けているかに違いない。客の心理がよくわかっている。
 話をWebに戻すと、Webサイトの予約サイトは、ホテルや旅館とは付き合いがあるが、エンドユーザーの顔を見ようという努力はしていない可能性がある。エンドユーザーを意識的に蒸していることはないだろうが、結果として向き合うことに気づいていないのだろう。「そういうビジネスモデルなのです」と言われればこちらとしてもあきらめるしかない。
 旅行代理店という業種は、Web予約サイトの台頭で、接客商売から電子取引に移行していくのかと思っていたが、

「お勧めですよ」と言ってくれることに今なお価値がある

ことがわかった。ネットではない代理店に今後とも期待する。

でも、不動産屋は気軽に使うな。あなた方はうそ臭い。

*1:何十年前に撮ったのかとつっこみたくなる

*2:本当は料理自体を自慢できる場合もあるのだが、強力なルートがない限り、宣伝文を載せた通りに配膳できなかったらクレームが来るからに決まっているだろう、と自分に突っ込み

*3:個人的感想であって確証ある見解ではない。冷静に考えれば多くは好意の投稿なのだろう

*4:いつか、不動産業者好感度実名ランキングをやって、契約後に豹変する営業を駆逐したいが、ランキングが完成するほど引越ししないなあ