家族割引

 自動車の任意保険は、ひとつの契約で、契約者の家族が自動車に乗っても、契約者が自家用車以外の車に乗っても保証される。

  •  車は保有するものだから、レンタカーを使う機会は限られている。
  • 車はたくさん持てないから、本人と家族が同時に車を運転する機会は限られている。
  • 運転者が多い家族で、普段使いが多い場合は複数台の自動車を保有することが多い

 運転目的と走行距離に合わせて、保有する自動車ごとに保険料を設定していれば、家計に対しては実際に運転する量に応じた課金ができると考えられてきた。

 しかし、家族の形も変わってきたし、保有の形も揺らいできた。

 代理店が紙で契約していた時代は、1件の契約をするのにそれなりの事務量と費用をかけていたが、今はスマートフォンもあるし、センサーで運転状況を捕捉することも可能。運転の都度契約する仕組みがあってもいいだろう。

 1家族1契約という仕組みはやがてなくなっていくのだと思われる。タクシーのように移動の都度サービス料を払うようになっていけば、そのサービス料に保険が含まれるようになる。そもそも人が運転しなくなる。

 

家族は優遇されるのか

 単身世帯でも3世代世帯でも保険料が大きく変わらない。むしろこれまでは家族限定特約が提供され、本人限定と同じように割引が行われてきた。家族限定特約は廃止の方向だということなので特約がなくなったら数パーセントの値上げになるが、逆に言うと数パーセント余計に払うだけで何人でも保証されることになる。運転者が複数いても、あまり距離が伸びなければ人数に対して比例で保険料が伸びることはない。

  契約者が変わらなければ等級を引き継げる。親が積み重ねてきた無事故の実績を子に引き継ぐことが可能である。

 これは一種の長期割引で、過去契約がある人に対して優遇していきましょうという政策であるが、本人の交通安全意識にかかわらず、勝手に割引が受けられる人と受けられない人がいるので不公平である。

 電気水道ガス、テレビ、電話やインターネット回線の契約は世帯単位になっている。しかし、携帯電話や情報サービスの契約は個人単位になっている。テレビであってもネットサービスは個人単位になっている。

 今後新しく作られるサービスは個人単位が採用されていく。自動車と同じように、家族の形や保有の形が変わっていくからだ。

 携帯電話の家族割引は家族優遇ではなく、販売促進、シェア獲得、他社接続通話の削減のための方策である。別居の家族、婚姻制度に拠らないパートナーでも、同一住所の他人(ルームメイト)でも割引対象になっている。

 また、サービスがネットを通じて提供されるようになっていくので、契約がある人がサービスにアクセスしようとしているのか確認する必要がある。

 そのための認証情報は契約者に渡すのであるが、契約者が誰かと共有することを防ぐことは工夫が必要だ。家族には共有してもいいが、ネットの掲示板に書いてはいけないとするようなことはなかなか難しい。

 これまで使われてきたいわゆるID・パスワード認証はwhat you know、すなわち秘密を共有ことで正規の利用者かどうかを確認する仕組みだが、ここに、携帯電話のショートメールにコードを送るなどの二段階認証はwhat you have、すなわち持っていることで正規の利用者化どうかを確認する仕組みを加える。

 すると、家族と認証情報を共有する仕組みは困難である。1契約で複数の認証情報を発行することは技術的に可能であるが、ITシステムの仕組み、契約の管理、家族であるかを確認するための手段が複雑になるので料金が高くなってしまう。

 利用規約には、認証情報を譲渡、貸与していけないことがたいてい書かれている。

 複数契約割引

 家族割引と類似したものに複数契約割引がある。携帯電話については、個人複数回線でも家族割が適用されると案内される。自動車保険などは複数台で割引となる。

 別荘は複数保有だが、電気水道ガスにおいて複数契約割引はない。これらは維持管理費用がかかるインフラで、使わなくても基本料金をとらなければ採算が合わない。インフラがないNHKやスカパーには割引がある。これまでは地域によって選べる事業者に制約があるものの、自由化によって完全従量制のサービスを選べる場合もあるので基本料金を節約することが可能なサービスもある。

 

家族を標的としたマーケティングはなくならない

 新規契約者を獲得する上で今後なくならないのは子供。生まれたときから契約している人はひとりもないので、少子化とは言え必ず少なくない需要が見込まれる。

 家族の形が変わろうが、今のところ大人の女性と男性から子供が生まれる仕組みには変化がない。

 子供に助言するのは身の回りの大人なので、大人に向けてマーケティングをする必要があるので家族というキーワードは今後も使われ続ける。

 生命保険では大学卒業直前まで勧誘するものが見られていたが、会社勤めであれば就職してもなお不要とするような情報が回っていて、親が子供の保険を心配するという時代ではなさそう。

 クレジットカードはもともと個人に対する信用から出発しているが、家族会員という仕組みもある。クレジットが借金であることを踏まえると子供の勧誘について金融機関としての自制が効いているが、Fintechがこの後どういう動きに出るのか注目である。