「老後に備えて2,000万円貯めましょう」
「将来はインフレだから5,000万円ないと難しいです」
諸説あるが、そのお金を投資で用意すると、手取りはいくらになるのか。
銀行預金であれば、利子が毎年源泉徴収されるので、出金する直前の残高がほとんど手取りになる。
しかし、長期投資をやっている場合はそうはいかないことを知っておこう。
WealthNaviで、買い直し機能が利用可能になった。
特定口座で運用していた資金を、出金なしで新NISAに買い直してくれる機能である。
WealthNaviでは、自分で出金してしまうと長期割引が解除されてしまう。
特定口座に一定の残高があるにもかかわらず新NISAの枠を使い切れていない場合には有効な機能である。
実際にこの機能を申し込んで初回の買い直しが行われた人を取材した。
特定口座の投資信託が売却され、新NISA枠で投資信託が買い直されたという。
初回7月の取引履歴を見せてもらった*1。
売却: 46,230円
購入: 39,723円
買い直しというからには同額が購入されるのかと思ったら、15%ほど少ない。
金額のそばに
「つみたて投資枠への買い直し」の売却額と購入額についてというヘルプがある。
「つみたて投資枠への買い直し」をしましたが、売却金額と購入金額が違うのはなぜですか? – よくあるご質問|ウェルスナビ
引用する。
なお、相場変動や税金を考慮するため、売却額より少なめに購入します。
そのため、売却額と購入額の差が大きくなる場合があります。
買い直しの結果、現金が残り、現金部分の合計が追加の購入条件を満たした場合は、つみたて投資枠以外で改めて資産を購入します。
あらかじめヘルプ文書を設けておいたということは「買い直しなのに金額が少ないではないか」という苦情が来ることを運営側が想定したものと思われる。
買い直し機能のシステム設計としては、これで問題ない。
わたしはそのように取材先の利用者には伝えた。
買い直しで一時的に残高が減っても、買い直しはした方がよい。
売却の際の税金からは逃れられない。
特定口座で運用が続けられ、将来にわたってキャピタルゲインが増えた場合、
今利益を確定しておかないと税額がさらに膨らむ。
将来も長期・積立・分散の戦略が正しいと信じるのであれば、特定口座の資金は新NISAへ早く退避した方がよい。
わかりましたけれど、こんなに控除されるものなんですね。
利用者はそのようにつぶやいた。
(以下は、WealthNaviではなく、証券投資全般について述べるものであって、特定のサービスを対象とするものではない。)
この買い直し機能が突き付けた15%控除という現実を受け入れる必要がある。
買い直しだけではなく、将来の解約時にも15%は持っていかれると覚悟した方がよい。
ちなみに一切解約しなくても、亡くなった後に相続税が発生する。税金からは逃れられない。
2,000万円貯めることを目標にする場合、証券会社の特定口座を活用するのであれば2,000÷(1-0.15)=2,352.9...であるから、
2,353万円まで残高を積み立てなければ実質2,000万円貯めたことにはならない。
違う例を出そう。
1.
長期にわたって合計2,000万円入金して、将来4,000万円まで残高が増えたとする。
それは値上がりによって元本が倍になったということにはならない。
引き出すときには3,850万円しか手元に残らないから、
利益は92.5%ということだ。
2.
株式投資に成功して1億円貯めたぞ!と思っていたところ、1億円の札束を見てみたいと思って一度に全額引き出したら1千万単位で課税されるということだ。
庶民の財産形成では、少しずつ引き出せば残りの残高の複利効果があるのでここまで痛税感はない。
それでも、将来は金融資産課税の強化が噂されているのでどうなるかはわからない。
証券会社などのサイトで残高照会をすると、いくら残高が増えたか、何%増えたかを表示してくれる。
しかし、長期投資においては頭の中で×0.85するくせをつけておこう。
利払い、配当金は毎年源泉徴収されているのに、さらにそんなに目減りするのか?
そう思う人がいるかもしれない。
金融機関も、投資系YouTuberも、控除については出金時に発生しますと軽く教えてくれるだけである。
10万円くらい?振込手数料は数百円?
甘い、甘い、甘すぎる。
しかし、銀行預金感覚で始めた庶民に、この現実を説明をしているのだろうか。
口座残高は、手取り予定額ではない!
残高は、契約者のお金が利子や配当を稼ぐ力を数字にしたものである。
あなたの手元に返ってくることが保証された額を表すものではない。
金融機関にとっては解約は、お客ではなくなる時である。
長年の取引の終盤にお金をふんだくるチャンスであり、もうお客でなくなる人からクレームをもらおうがどうでもよいことである。
もしクレームの電話が来ても「そういうものなので。規約に書いてあるので。」と言えばよい。
金融機関も税務当局に負けず、様々な控除項目を用意している。
- 取引手数料
- 為替手数料
- 投資信託留保額
- 銀行口座への出金手数料または振込手数料
新NISAでは所得税等が0%になるので、15%よりは軽減されると思われるがそれでもゼロにはならない。
一方、特定口座は将来の金融資産課税強化が噂されている。
iDeCoについては掛金限度額が引き上げられることが決まっているが、長期投資を続けていたら現在の退職金控除額の上限なんて軽く突破してしまう。
退職金控除額は年間40万円×年数で計算される。
勤続年数が20年を超えるとさらに控除が増えるが、言いたいのはそこではなく、
40万円を現在価値で考えてはいけないということである。
現在20代、30代の人が引退世代になる頃には、40万円なんて初任給どころかバイトの給料くらいの貨幣価値になっているかもしれない。
インフレである。
しかし日本の税金の限度額設定は硬直的であり、物価が倍になったので控除額も倍にしましょうということにはならない。
2024年の103万円の壁の議論でよくわかった。
理論値では176万円だと国民民主党が主張しているが、財源がないから無理という理由で与党税調は無視しようとしていた。
なので、現在の常識では「庶民ならほとんど退職金控除で税金がかからない」とされていたが、もはや過去のものとなりつつある。
iDeCoに預けていたのに、数百万円単位で税金が発生する可能性を念頭に置いておかなければならない。
iDeCoのメリットは所得控除などもあるので、証券投資で財産形成することを期待するのであれば、多くの人にとって
iDeCo > 新NISA > 特定口座
の順がよいということには変わらない。
ただし、そこに見えている残高はあなたの手取りではないということを十分認識した方がいい。
*1:ここに書く数字は架空だが、買い直し額は上限があるため、この機能を利用した人はだいたい同じ額になるだろう