健康保険組合の業務改革の話。
集団健康診断において、
採血や採尿は診断会場で集めるが、検便については自宅で検体を採集してもらっていた。
会場で採集するのが難しい人が少なくないから、昔からこれは変わらない。
とはいえ、改善する余地はないか。
これまでは、事前に問診票と検便容器を自宅に郵送していた。
在宅勤務や遠隔勤務の人がいると、事務所で配布するのが難しい。
事務所で受け取りますか?誰が郵送ですか?と個別に確認する手間ももったいなかったので、一律郵送にしていたのだ。
そして、当日それらを持ってきてもらっていた。
問診票をデジタル化し、健康診断の会場から紙をなくした。
これに合わせて、検便を健康診断会場で渡すことにしたのである。
検便容器は後日郵送してもらう。
- 紙の問診票、「事前郵送+当日持参」
- デジタル問診票、「当日配布+事後郵送」
さて、これで何が変わったか。
まず、郵送関係。
1.
郵送回数は変わらないが、問診票の類は折りたたまれていると会場で扱いにくいのでA4の定形外封筒に紙と検便容器を入れていた。
容器には厚みがあるので、発送の際にかさばっていた。
事後郵送であれば容器だけなので定型郵便となり、郵便代が安くなった。
2.
当日、検診容器をひとりずつ会場で受け取る手間がなくなった。
受診者が通る場所の近くで検便容器を溜める必要がないので、清潔である。
検便容器は郵便局がまとめて持ってきてくれるので扱いやすくなった。
検便容器には当日配布の際にバーコードを貼る。
これは当日作業として多少手間ではあるが、受診者は名前を容器に書く必要がない。
3.
当日の持ち物を大幅に削減することができた。
事前に紙などを配布していないし、問診票はインターネットの画面に記入することで完結しているからである。
現代であればほとんどの人が持ち合わせているスマートフォン。これだけあれば受診できるようになった。
当日の持ち物は、これとこれとこれです!忘れないでください!!という念押しがいらなくなった。
ほとんどの人は、言われなくたってスマートフォンを持ってくる。
忘れ物の後日提出を依頼するなどの追加対応をする手間が激減した。
4.
紙で案内をすると、紙をなくし、さらには予約したことも忘れてしまう人がいる。
印刷が不要になったかわりに、事前の案内をメールで出すことにした。
予約忘れを減らすことができたし、問診票を直前に書かせることもできるようになった。
さらに、デジタル化の効果についてもみてみよう。
5.
スマートフォンを本人認証を行うツールにした。
画面にQRコードを表示させる方式を採用したため、機種やOSが限られることはない。
読み取り側もスマートフォンで十分である。特殊な機器を導入する必要がない。
6.
検査結果は、リアルタイムでコンピューターシステムに蓄積される。
これまでも検査結果を電子カルテと連携するシステムは存在したが、例えば受診者に貸与したICカードに記録させるような仕組みならばあったかもしれない。
受診者個人の進捗も管理し、会場全体の受診者の状況も収集することにした。
どこの検査項目がすいているのかが常に把握でき、機械が混雑していない項目を先に済ませるよう誘導することができる。
これまでは、人が紙を見て判断し「次は採血に行ってください」のように指示していた。
検査項目はひとりずつ異なる。
検査漏れが発生することはこれまでもまれだったが、間違えないように慎重に時間をかけて確認していた。確認のために文字などを記入していた。
機械は間違えずに、瞬時に判断ができる。
各検査項目の端末で、自動的に指示出しが出るようになったので、検査の担当者がそれを伝えるだけになった。
これまではすべての項目が終わったか最終確認をするためだけの確認担当者を複数人配置していたが不要になった*1。
7.
会場側で紙に記録を書き、それを受診者に持って回らせ、その結果をまた紙からコンピューターに打ち込む手間がない。
検診機器から直接登録されるようになったので間違いも起こりにくくなった。
血液検査や尿検査の結果を待つ必要はあるが、以前よりも早く結果を通知できるようになった。
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電子化は、
紙をコンピューターに置き換えること。
紙を減らすこと。
それは正しいが、それだけだとお金がかけた割に満足度が高くない。
例えば、事前郵送を事後郵送に切り替える。
コンピューターに入れられない部分もうまく工夫することで、みんなが楽になる。
手間が減れば、作業時間が短くて済み、受診者の待ち時間も減る。
人間の体を扱う以上、完全にデジタルの中で行うわけにはいかない。
デジタルと人間の接点をどうするのかまで考えることで、ストレスの少ない業務が実現する。
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医療DXがようやく進んできた。
ただ、相変わらず「マイナ保険証はトラブルが多いので保険証を持ってきてください」「予約は電話でお願いします」など、中途半端である。
デジタル化して、待ち時間やストレスを軽減している医療機関、健康保険組合を格付けする仕組みができないだろうか。
無駄に待ち時間が長いクリニックは、診療診察に時間をかけられないクリニックでもあると思う。
*1:例外対応するための案内係だけ残した