外注さんの使い方

 ITエンジニアとか、コンサルタントとか、アナリストとか、デザイナーとかいるじゃないですか。
 社内にノウハウがない、人手が足りないといって専門的な作業を外部委託する企業が少なからずあります。
 きょうは、受託する側がどう思っているのか、という話を聞いてきたのでまとめてみようと思います。

 外注を「使う」と言いますよね。まず、ここからが間違っているのです。
 確かに、お金は委託元から受託先に払うんです。
 委託元というのは自分たちでできないからお金を払って外の人にやってもらうんです。
 掃除や配達を頼んだのであれば、「つかう」という言葉が合っているのかもしれません。
 ところが、自分たちができないプロフェッショナルの仕事を外に頼む場合は、使ってはいけないのです。
 「使う」と発想した時点で、委託元のできる範囲しかものを頼めなくなってしまうんです。
 例えば、委託元の組織に染みついている慣習を覚えさせる。それは本当に必要ですか。
 きっと、最先端のことを教えてもらったらうれしいな、とか、自分たちだけに特別なサービスを提供してほしいな、とか、教科書や雑誌に書いてあるような通り一遍とではない判断を求めたいな、とか、自分たちの想像には及ばないような絵を描いてほしいな、とか、思うこともあるでしょう。
 でも、そういうことではなくて、自分たちのことを覚えさせるって、おかしくないですか。自分と同じ人を作るだけですよ。
 使われる側からしても、相手のことを知って勉強にはなったっていう気分にはなります。
 でも、それが価値だというのは本来おかしいです。
 資料をA3で作って左上にホッチキス止めしないと受け取ってもらえないことを知るとか。
 勉強になったというのは、それさえすればあまり考えなくても金がもらえるということなんです。
 他社が同じ仕事を受注しても同じことの勉強から始まるので、客のしきたりを知っている自分たちの方が先に行っている。
 だからそれだけで喜んでもらえる、よって楽であると。
 人間の能力、時間、生産高はどんなに効率化しても限界があるんです。どうでもいいことにそれらを使うということは、高い金を払って大したことをしてもらえないということなんですね。
 うちのやり方なんてどうでもいいから、思いっきりいいもの作ってよ、何か必要だったら聞いてよ、とまずは言うべきではないですか。
 すると、専門家はこんなのはどうでしょうか、とか、こうやるといいですよ、とか、べらべらしゃべってくれますよ。
 それを聞いて、おもしろそうなことをしてくれそうだとか、自分たちでやるより早いなとか、その外注さんと付き合う感触がつかめたら、後はのびのび働きやすい環境を作ってあげる。
 誰でもできるようなことは委託先からできるだけ取り上げて自分たちでやる。
 すると、そのためにはあれが必要、これもよろしく、と、なぜか雇った相手からいろいろ言われます。

使う、というよりは、使われている、という感覚になる

 と思うし、そうでなければおかしいのです。
 外部に頼んだのだから、多少振り回される感覚があったとしても楽しまなければなりません。
 専門家の時間単価は若い人で1万数千とか、2万円とか、5万円とかです。
 IT業界で炎上プロジェクトと呼ばれる大規模プロジェクトでは、なかなか進まないのに、発注者は毎月数百万もお金を払い続けます。
 「毎月、俺のところにカローラが納車されるはずなのだが、どこにあるんだ」とうまいことを言った方がいるそうです。
 カローラではなく、あなたの前をうつろな目でうろついている過労で倒れそうな方々にその数百万円は使われました。前の月も、今月も、そして来月もです。
 ちなみに、そういう案件は受託側にとっても赤字なので、過労でも残業代は出ていないんですよ。
 そんな誰も幸せになれないプロジェクトはやめるべきなのです。
 正確には、世の中にはやらなければならないプロジェクトもあるのかもしれませんが、そこに大量にいる過労人材はいったんゼロから見直すことが必要です。
 さて、「何でもやってくれて便利だ」という話を聞きます。
 しかし、プロフェッショナルには何でもやらせてはいけないのです。自社の若手よりも単価が高いのですから、人手不足だからといって雑用まで頼むのは変です。
 先ほどと似たような話ですが、受託側も潤沢に予算があるわけではなく、作業者本人に潤沢に残業代が出ているわけではありません。
 だから、夜な夜なコピーをさせても、休日に資料整理をさせてもそれがすべて有償というわけではないのではありますが、もしそういう時間があったら考えることにお金を使ってほしいと思いませんか。
 プロフェッショナルを雇うのであったら、若手でもいいからその人につけて、仕事を覚えさせるということをするべきだと思うんです。

いけない使い方チェックリスト

Excel方眼紙

 プロフェッショナルには、思いついたことを自由に表現させてあげるべきです。
 しかし、会議で使う書類の書式が決まっているからこれに埋めてといってシートを渡す人は要注意です。
 Excel方眼紙は、記入項目が決まっている。記入面積が決まっている。前の仕事のシートを使い回すから非表示やら隠しフィールドやらに情報が残っている。
 セルの大きさが広がると拡大率が変わり、印刷すると罫線に字が重なる。プリンターが変わると印刷可能範囲が変わってずれる。
 これらを修正するのは全く価値のない仕事です。
 どうしても会社が古くてExcelから脱却できないのであれば「テキストでください、こちらでシートは埋めます」という頼み方が正しい。

会議のセッティング

 隣のチームと話しているんだろうから、あなたが会議の日程決めておいて、と。言ってくれたら出るから、とかいう。
 いやいや、そもそもアウトプットするために会議はいらないですから。
 しかも、そのセッティングまでさせるってなんですか。
 あと、他のプロジェクトもあって忙しいでしょうから、ご都合には合わせますよ、というのも実はよくありません。
 こっちがいったん引いたんだから自分の都合が悪いときには当然合わせてくれますよね、という雰囲気になります。
 しかし、一番パフォーマンスを出してもらいたいならば、「会議はslackでやりましょう」とか、「水曜固定。予備は金曜だけれどできるだけ使わない」とか、契約前に言ってもらったほうが断然いいです。
 そういうお客をプロフェッショナルは優先します。だって、例えば水曜固定とあらかじめわかっていれば、前日の火曜日にじっくり準備の時間をとっておけばいい。でも、木曜なのかもしれないし、月曜かもしれない、たまに土曜日も駆り出されるなんてことであれば、まあその日の朝考えればいいか、となってしまいます。
 会議室探しも結構おっくうです。
 会議をやりたいなら、定例化固定化してしまい、会議室も遠い先まで取ってしまいましょう。あとは常駐させる場合でも自席からリモート会議ツールにすれば会議室予約がいりません。

会議にたくさんの人を呼んで外注さんをとり囲む

 人をたくさん呼ぶので、全員の都合が合う日にしなければならず、ちょっとした相談事も1週間後とか2週間後とかになってしまいます。
 プロフェッショナルを雇う最大の効果は時間です。
 時間と言っても、難しいことを自分でやるために勉強する時間だったり、社内を説得する手間をかける時間だったりいろいろあります。どれでもいいですが、
 頼んで3日で作ってもらったけれど、課長が読むのが1週間後、部長が読むのが2週間後で、予算承認が1ヶ月後だったら、3日で作ってもらう意味がありません。
 5日かかる作業を3日に短縮したら40%減なのですが、トータルで30日かかる作業を3日短縮するだけなら10%なんです。大企業であれば勉強熱心な新入社員にやらせた方が効率が高くなりますし、ノウハウが社内に残ります。
 キックオフミーティングをやりますと言ったときにずらずら人が来る会社は、その時点で「あ、だめだな」と思うのだそうです。
 誰の顔を見て話したらいいんだろう、それがわかってもその人を向いて話をしたら別の人が嫉妬するんだろうな、とかとか、呼ばれていった人は仕事の内容と関係ないことをあれこれ心配しなければなりません。
 それに誰も決めてくれないという可能性が高いです。
 プロフェッショナルだって人間ですから、大勢に囲まれたらアウェイ感を感じます。国会に証人喚問というイベントがありますが、自分の味方は胸につけている花だけで、周りの人がみんな敵だったとしたら、私だって「記憶にございません」っていいたくなりますわ。プロフェッショナルを囲んじゃいけません。
 袋だたきにするなら、まだましです。そのときはつらくても、少し経って振り返ってみれば、ああ、私たちに期待してくださっていたんだな、厳しいけれど成長しているなと思えるのです。しかし、10数人出ているのに、2人くらいしか発言しないことがある。会議に出ているのに内職している人もいる。外注さん側から見たらとても不気味な光景です。そして「お金返すからあいつらにやらせろよ」と思っています。
 最近はテレワークが普及したので人が囲む圧迫感は薄れましたが、それでもテレビ会議ツール(zoomなど)の画面に人のアイコンがたくさん並んでいたらちょっとはびびります。営業だったら燃えると思うのですが、プロフェッショナルはその分野の専門家であって、しゃべりの名人とは限りません。

聞く耳を持たない人が邪魔をする

 プロジェクトのコンセプトにそもそも共感していない人を会議に呼んでしまうことがあります。
 すると、まずはその人を説き伏せることが必要になってしまいます。
 コンサルタントと呼ばれる人たちが最も避けたい人種、それが聞かない人です。
 どうやって説得すべきかを教えてもらうために人を雇うということはあるかもしれません。
 ただし、本来、コンサルタントは仕事を加速させることを得意としています。
 コーチングやカウンセリングのような要素を含むのであれば、仕事を推し進める人とは違うスキルを持った人に支援を求めるべきだと思います。
 また、自分たちだけでは、お金や時間を使ってもどうしても説得しきれないような人は外部の人が来たからといって変わりません。
 しょせん、世の中はこうなっているからとか、御社はこんなに遅れているからとかしか言ってあげることができません。
 「よそはよそ、うちはうち」「お前に当社の何がわかる」と言われたら、ああ、そうですか、というしかありません。
 その頑固者が会社の投資予算の半分を握っている、あるいは、反対意見に億円単位の価値があるというのであれば、そもそもプロジェクト自体が間違っています。
 一方で、数年経てば滅びる運命だったり、大した根拠がない反対だったりすることも多いです。
 大したことがないものへの説得がうまくいかないときは、論理は通用しないものです。
 そんなとき、外注さんの仕事ぶりを見せてあげれば、やがては変わってくれるだろうという期待を持つのはやめた方がいいです。
 どうしても社内の文化や空気を変えることを含めて依頼したいなら、その課題の対処も契約書に書いて正式に依頼すべきです。
 社内で会話ができていないために意見の対立を生んでいる場合は、お互いの考え方を可視化し、ディスカッションを盛り上げるためのイベントや仕掛けを考えてくれるはずですが、これは手間がかかるのできちんと対価を払った方がいいでしょう。

あなたは進める人、私は止める人

 気になることがあるから言うから、あなたは進めて、と委託側にレビューアーを買って出る人がいる。
 協力的なのかと思いきや、否定的な意見ばかり言う。
 確かに、考慮しなければならないことというのはどのような仕事にも存在します。
 しかし、そんなに勘所がわかるなら自分でやればいいじゃないですか。なぜそれを外注さんに任せようとするのですか。
 

やたら長い文章を書かせる

 考えることに時間を使わせるべきであって、作文そのものに時間を使わせるのはもったいない。
 大きな仕事の場合は文書のページ数は増えると思うんですよ。それはわかるんです。
 ただ、文章でつらつら書かせることを強いるのは、たまたま文書技術がしっかりした人がくれば問題ないのですが、ある分野の専門家が作文の名人とは限らないんです。そして、文章は別の人がレビューをしないといけないんですね。
 まだ2021年ですと、AIが自動添削をしてくれる時代にはなっていません。すると、内容よりも作文作業そのものに時間単価数万円の人を使うことになるんですね。
 それだったら、専門家をインタビューしてその結果を若手に作文させたほうがいいのではないかと思います。

印刷

 印刷作業そのものは、印刷のプロに専従させたり、いわゆる印刷屋さんに頼んだりして分業ができつつあると思うんですね。
 しかし、このお客さんは右肩に斜めにホッチキス、とか、章の間には中敷きをいれる、とか、意外と指示するのも面倒だったりします。これも冒頭で書いた自分たちの慣習を覚えさせるの弊害なんですが。
 そして何が最もいけないかと言えば、電子ファイルであれば提出の10秒前まで修正できたり、あるいは、執筆に時間をかけたりすることができるんですね。
 しかし印刷は前の日に締め切りが来てしまう。あるいはプロフェッショナル本人を深夜早朝に駆り出すことになる。
 小さいフォント、長い文章、A3書式などは、プロフェッショナルのパフォーマンスを半分に下げます。その場合、請求金額が倍になるのではなくて、品質が落ちるということです。
 プロジェクターも意外と設営に手間がかかるので、各自端末持参。これが一番。

マイクロ管理

 毎日の作業記録を提出しなさい、日報を出しなさい、作業時間をシステムに入力しなさい。
 それは管理のための管理であり、誰も幸せにならない。
 報告したところで、過労状態の是正に役立てた話は聞いたことがないし、作業実績データを使いこなしている人を見かけたことがない。
 管理のための時間はどこに課金したらいいんですか、というのがよくある笑い話で、「法律があるんだから管理は必要」と言っておきながら法律違反のサービス残業は問題にしない。
 そもそも外注さんを使っているという発想になるから管理が発生するのであって、使われている人は管理なんかする余裕がない。

メール

 メールは、PPAP*1、誤操作、ウィルス、宛先欄からの情報漏えいなどなど、もはやプロジェクトで使うにはあまりにもリスクが高いツールになりました。
 そして、情報漏えい等を防ぐために、たくさんの手間をかけていることがあります。添付ファイルを貼るときは隣の人と指差し確認とか聞くたびにメールなんかビジネスの現場からなくなってしまえ、と思ってしまいます。
 ファイル共有ツールや、コンテンツ共有システム、グループウェアを活用するべきです。

*1:添付ファイルを暗号化して送り、その前後にパスワードを平文で送る慣習