新型決済サービスが欠けているもの

QRコード決済が乱立して、決済業界に対して破壊的創造がもたらされた。
PayPayは100億円・20%還元で話題を集めた。ソフトバンクグループの決算発表を見ると、爆発的な利用者数増加があったと解説している。決済に関する利用者体験を塗り替えたとか、劇的に間接費用が削減されたということではなく、とりあえず利用者を集めましたということ。
しかしこれはこれから始まる破壊の下準備に過ぎない。加盟店の決済手数料0円というのもあるが、これも期間限定なので「シェアを取ったら巻き上げるつもりなのでは」という疑問が残る。しかし、これからひとつずつ、既存の業界の特徴をひとつずつ塗り替えていく。
期間限定ではない施策が始まった。
(プレスリリース)支払いのたびにもらえる利用特典の付与率が従来の6倍となる3%にアップ! – PayPayからのお知らせ
利用者還元率を3%とし、クレジットカードの還元率に比べて競争力ある水準を確保した。通常0.5%、優遇策で1%、高還元のカードで2%弱で、3%台は期間限定、商品限定でないと難しい。2019年4月でいうと、ビューカードApple PayでのSuicaチャージで、0.5%を7倍にするキャンペーンをやっているが、Suicaはチャージ上限があり、期間限定で、新たなデバイスにチャージを始めてもらえれば抜け出すのが面倒なので拘束力も高く、効果が期待できるために実現できる還元率である。一方、今回のPayPayの施策は期間限定ではなく、商品限定もない。
今後も、使い勝手や特典で、既存の電子マネーやクレジットカードのサービスを若干上回るところをひとつずつ突いていけば利用者を多く獲得でき、それによって加盟店も多く集めることができる。従来型の決済サービスは利用できる加盟店が少ないところから危うくなっていく。図書カードやグルメカードはいつまで生き残るだろうか。
決済とポイント処理が一体になっているので、ポイント処理を単体で行わなければならないポイント業界も危うくなっていく。ポイント業界はこれまでクレジットカードとのジョイントによる一体化を進めるだけで、スマホFelicaによる一括処理をまじめに取り組んでこなかった。モバイルポンタ+電子マネーなど、やりようはあるのだが、利用者が進んで一体化を進めてもその利用者に「カードをお持ちですか」と聞いてしまう、いわゆる「お餅攻撃」によって満足度を著しく下げている。Tカードは他ポイント制度併用禁止によって最近離反を招いているとされているが、受け皿となるドコモや楽天のオープン化が正解かといえば、例えばマクドナルドのアプリでは、ドコモか楽天かを選ぶボタンが使いやすい場所においてあって、競合がキャンペーンを打てばいつでも乗り換えられてしまう状況にあり、消耗戦に突入している様相。

Fintech APIを早く実装してほしい

しかし、わたしは家計簿アプリとつなげられないPayPayはメインの決済手段として使う気にはなれない。収支管理を行っていくにあたって、外部のサービスを使って管理をしていくことは必須である。現金は、あるだけしか使えないので一見管理が容易なようにもみえるが、実は使途不明金が多い。日々の収支を記録して見える化するのが一番効率的な管理が可能である。
ところが、Fintechアプリと連携しているのはLINE Payくらいで、QRコードを利用する多くの新型決済サービスが未対応である。PayPayの場合、銀行チャージされた日付と金額は銀行の残高によって捕捉できるが、チャージした後、どこで何をいくらで買ったのかを捕捉することができない。捕捉するためには、

  • 手入力で支出を登録する
  • 飲み代にしか使わない、など、PayPayの利用用途を限定する

という対策が考えられるが、手入力するのは手書きの家計簿と同じだし、利用用途の限定は用途別に財布を分けたり、封筒に分けていれて持ち歩くのと同じ。これでは現金時代の管理と同じになってしまう。
キャッシュレスを使おうとするなら、無駄な収支を減らすために家計簿をつけていくことは必須である。手元の残高が見えないから無駄遣いしそうという現金派の主張がそのまま当てはまってしまう。ポイント還元でばらまいておきながら、利用者に浪費癖をつけてしまうアプリは消費者の敵かもしれない。
そもそも決済サービスを導入する各社は、プリペイドカードのように死蔵益・退蔵益を狙っているのではなく、決済の通り道を確保し、その流れを観察することで利用者の行動をデータで把握しようとすることを目的としている。それゆえポイント還元を投資として行っているのである。自分たちは利用者のデータを集めておきながら、利用者には自分たちが提供するアプリ画面でしか支出結果を開示しないのはデータの搾取である。
銀行は金融庁の指導でオープンAPIを構築していて、今やほとんどの金融機関は家計簿アプリで残高の捕捉が可能である。しかしFintechアプリ同志はあまり仲が良くないようだ。

消費者教育は誰の役割か

現金時代は貯金残高を毎月見るだけでだいたい家計の流れは把握できたが、貯金をしても資産形成はできないので給与所得者でもお金の流れを意識しなければならなくなった。そんな中、お金の管理をしっかりしましょうと教えてくれるのは誰なのか。例えば上記のように還元がいいからといって今のPayPayばかり使ってしまっては収支はブラックボックスになってしまう。飲み代にはPayPay、コンビニにはLINE Payなどとしてしまうと管理対象が増えて、何かツールを使わないと手間ばかり増えてしまう。
自営の人は事業収支と個人収支があって、どうやって管理すればいいのやらという状態だろう。
決済と収支管理のサービスは個別に発展してきたが、決済して、分析して、管理して、教育まで行うところまで一体で行えるサービスが生き残ると思う。
今のところ銀行やクレジットカード会社が家計簿サービスとの連携を進めているが、家計簿サービスが収支を表示するだけで終わってしまっている。金融機関はデータに基づいて投資型商品などの新たな送客を狙っているかもしれないが、ユーザーが求めているのは儲からなさそうな教育だと思う。「余裕資金は投資信託へ」だけでなく「コンビニ通いをやめましょう」「○年後に○万円をめざしましょう」「毎月の収支を黒字まであといくら」と助言してくれるサービスが最後は勝つ。利用者にとって、より収支分析の精度を上げるためには、使途不明金を減らし、収支の連携する決済サービスに固めようというインセンティブが働く。

クレジットカードはコト消費へ

既存のクレジットカードは、今や還元率では勝てない。クレジットカード会社のITシステムは近代化を進めてはいるが、システム規模が大きくなりすぎていて機動性に欠ける。そしてQRコード陣営のように頻度を高く、また話題性の強いキャンペーンを打つことができない。既存のスポンサーが提供するキャンペーンを昨年と同じように実施するが、抽選なので応募してもたぶん当たらないだろうな、と思われてしまう。
換金できるような汎用的なポイントは、航空会社のマイルくらいしか魅力を維持できない。カードを持っているとラウンジに入れる、会員限定のイベントに参加できるなどの特典を示せないクレジットカードは競争に生き残れない。
誕生日の月に還元率を上げるサービスもありきたりになっている。誕生日月の前にリマインドをしないと、ライバルも同じように送っているメールに埋没してしまう。運営としては期間限定でできる限りの還元を提供しているつもりではいるが、もうすでに魅力を失ってしまっている。