不適正意見は幻の宝刀

2015年の電機メーカーの粉飾決算監査法人から不適正意見が出なかったということは、不適正意見は伝家の宝刀ではなく幻の宝刀であると言わざるを得ない。
不適正意見は、上場廃止基準に抵触し、手形不渡りを連想するもので、大変重たい評定である。
日本では集団的自衛権は行使されないことになっていたし、刑法の死刑も制度としては存続するが執行しないのがいいと思っている。だから、行使しない伝家の宝刀というのはあってもいいと思うが、行使する能力がないのは困る。
どうしたら不適正な適正意見をなくせるのだろうか。不適正意見よりも死刑の意味合いが薄い中間的格付を創設しても、使われないだろう。「この会社の会計は信用できませんが、利害関係者のみなさんは引き続き取引しても大丈夫ですよ」と言い切れる会計士がいるのか*1。限定的適正意見も意見差し控えもないのが現状だから、これ以上区分を増やしても意味がない。
期末に利益操作を行っているので、時系列で見れば不自然であることがわかりそうな気もするが、複数部門で複数期に渡って慢性的に行われているにもかかわらず発見できなかった。大企業が日単位もしくは週単位での予測値を管理していないとは思えないので、これは監査手法の問題ではないかと想像してしまう。

現場は苦労しているのだろうけれど

会計士がむやみに適正意見を乱発しているのではなく、実際は黒を白に変えようと懸命に努力してようやく適正意見を出している場合もあるのだろうと思う。報酬をもらう側に意見をするのは大変なことだろう。
かつてIT業界で西暦2000年問題があったときに、結局何も起こらなかったという結論だったが、みんなで努力してようやく社会に影響があるようなシステム障害を防いだし、実際に障害が起こっても徹夜で監視していた人たちが手で止めたりして問題にしなかっただけのことである。
西暦2000年問題以外では防げなかった大規模障害もいくつかあるが、努力を怠ったわけではなく、努力しても肝心なところに気が回らなかったのである。
今回の粉飾も、監査法人が努力していないとは思っていない。ただ、プロの仕事は結果責任だ。

*1:なお、取引に影響がない程度の瑕疵であれば、重要性の原則にてらし、適正意見で問題ない