変わらない銀行

ネット銀行やネット証券は、口座開設時に書類を送ればあとはすべてネットで取引ができる。書類を送るときもどんな書類を送ればいいか丁寧な説明がある。本人確認は求められるが、印鑑がいらない金融機関もある。
これまでの銀行・証券会社はネットのサービスに追いついているだろうか。郵送で手続きができるとはいっても何枚も紙が入っているし、様式はばらばら。「本人確認書類が必要なこともあります」と書いておいて、今回必要か不要かはどこにも書いていない。明らかに直接印刷したものではなく、何回もコピーしましたというような感じの紙が入っていたりする。どの紙にも住所を書かされるのでだんだん殴り書きになってくる。

性別は必要か

本人確認の個人情報4情報は

  • 氏名
  • 住所
  • 性別
  • 生年月日

である。住民基本台帳で確認可能な4情報と呼ばれているものだが、性別はなぜ必要なのだろうか。個人情報は他の人と識別するため、そして実在する人かどうかを確認するために把握したがっていると理解している。同一住所に住んでいる同姓の人というのは、いわゆる家族ということでたくさんいるが、同一住所に住んでいる同姓で、かつ同名、誕生日が同じである男性と女性というのがいるのだろうか。もしかしたら日本にたまたま1組か2組くらいいる*1のかもしれないが、その人のために全国の預金者にどうして性別を尋ねるのだろうか。金融取引が対面ではなくてもできる時代だし、そもそも窓口に来た人を外見だけで男性と女性を区別できるとは限らない時代にどうして金融機関が性別を確認しなければならないのかがわからない。マネーロンダリング防止を目的に制定された本人確認法も性別は含めてない。
もっとわからないのはFAX番号。今時、本当にFAXで連絡をしたいのだろうか。個人情報保護法に基づき、金融機関は個人情報の利用用途を丁寧に書面で交付するが、FAXで連絡をしたいのはどの目的なのだろうか。空欄にすると不備として送り返してくる不安があるので、空欄は埋めておかなければならないから仕方がなく書くが、釈然としない。不要な情報の収集や、収集目的にあたらない情報の収集は個人情報保護法の趣旨に反する。

住所の記入は1回だけにしてほしい。

一度に提出する書類なのに、何度も住所を書かないようにするためにはどうしたらいいか。

  • インターネットの画面でキーボード入力すると、印刷されたものが渡される
  • すでに金融機関が持っている情報に基づいて印刷されたものが渡される
  • 転写式にする
  • 記入欄をひとつにする
キーボード入力

個人的にはこれが一番うれしいが、キーボードが苦手な人もいるのですべての人にとっていいとは限らない。

既存情報

申込時に住所変更があると煩わしい。したがってすべての人にとっていいとは限らない。

転写式

カーボン紙にする。総合口座の申込用紙などに使われているが、記入箇所に制約があるので用紙を決めるのが難しいようだ。また、きちんと転写されない可能性があるし、使用後の紙の再生にも向かない。

記入欄をひとつにする

手続き内容にかかわらず、顧客が書く内容はたいてい同じである。記入日、口座情報、本人確認情報、捺印である。それならば、手続き内容を毎回カスタマイズすればいいのである。銀行の窓口にもプリンターがあるのだから、窓口・郵送に限らずできるはずである。3種類以内の申込・届出であれば毎回申込内容をカスタマイズした用紙を都度作成して印刷すればいい。
各種書類には金融機関使用欄があるため、顧客が記入できる欄に制約があるが、受理した時点で電子化してしまえば良いのである。顧客記入欄と同じ紙にしなければならない理由は特にないはずだ。金融機関使用欄はなくして、2枚の手続きを1枚にまとめるべきだ。
なぜこんな簡単な改善ができず、○○申込書はこの用紙、○○届出書はあの用紙、となるのか。それぞれの書類に記入例と説明文書が付くので紙の料もすさまじい。

解約ができない

大手都市銀行でも、総合口座があればインターネットで円預金以外の取引ができるようになってきているが、外貨預金では通貨別に通帳が送られてくる。郵送であっても本人確認が必要だから受取がおっくうである。そして、解約が窓口でないとできないことがある。

ご相談くださいとは何のことか

ところで最近、支店の窓口に行ったら、通帳かキャッシュカードの情報を読み取るだけの機械が置いてあった。あらかじめ口座番号から取引状況を確認できる仕組みを作っているようだが、新たな商品を提案するためのものであり、来店者の待ち時間を減らすためのものではないようだ。
わたしは大口の顧客ではないので「今回は解約はしなくてもいいですか」とか「そのような取引はインターネットでやってください」というようなことを当たり前に言われる。「解約はしなくてもいいですか」は、預金引き留めのためではない。書類と判子を減らし、お互いの手間と時間を節約するための提案である。休眠口座は会社全体としては管理の手間だが、窓口担当者には休眠口座を減らすノルマがない。インターネットへの誘導もまた、窓口担当者のノルマには全く関係ない。それどころか商品説明もできないことになっている。お互いの時間の節約である。
金融機関は、タレントに「ご相談ください」と言わせるテレビCMを作っているが、テレビが富裕者層ではなく、一般の人向けのものだとしたら、誰に向かって相談を呼びかけているのだろうか。金融機関側にしても、小口の客は書類と判子と手間と時間を増やすだけの邪魔な存在に違いない。「いい商品ないですか」とか「どうしてこんなに利子が低いのですか」とか余計な会話をする客をわざわざテレビで集める必要はないのになと思う。知名度を保つためなのか、マスコミ対策費なのかはわからないが、せめて利用者が喜ぶCMを作ればいいのにと思う。

でもやめられない

そんなに嫌なら古い銀行・証券とつきあわなければいいと言われそうだが、未だにネット銀行に対応しない支払いや口座振替が存在する。それに、古い銀行・証券と訣別しようとすると、解約手続きのために窓口で長々と待たされる。
わたしは古い銀行・証券が嫌な訳ではない。都市銀行の合併で駅前からずいぶんと銀行が減ったが、あれが完全になくなったら全国の駅前はパチンコとコンビニだけになってしまう。郵便局と同じで、窓口というのはあってもいいとは思うが、たまにはネット銀行ではないのにネット銀行より優れているとか、せめてネット銀行と同じように使えるという銀行があってもいいと思う。
銀行は、小口預金者向けには消費者金融を買収して展開している。大手の銀行がカードローンをやっている大手もあるし、ネット銀行をやっている大手もあるが、そういった金融機関の取次を今までの銀行がもっと本格的にやればいいと思う。
ネット銀行の端末を銀行窓口においてもいいと思う。住所の入力もキーボードから郵便番号を入れれば町名までは自動装填にする。どうしても印鑑と署名を残したいなら、紙に出力してそこだけ記名捺印させればいいではないか。図書館や書店に文字入力が可能な端末が設置されていて自由に触ることができるが、機能が限られているので長い時間占有する人や粗末に扱う人は少ない。インターネットのブラウザを使わせるとトラブルが起こるかもしれないが、申込書記入に限定した端末にして、職員に利用を申し出て使わせれば問題ないのではないかと思う。

*1:二卵性双生児が産まれたときに同じ名前を付けることはないだろう。「兄弟姉妹が同じ家に住んでいて、それぞれ別の人と結婚して、同じ日に子どもができて、片方は男、片方は女で、同名同漢字の名前を付ける」ということは理論的には可能だが、誰もしないだろう。ただ、確認したわけではないのでここではいないと断言しない