与党は原発ゼロを決定するくらいがちょうどよい (条件付き)

テレビに出る有識者たちは、原子力に従事する若者を将来にわたって確保しなければならないと遠回しに言うが、脱原発の人々に嫌われたくないから歯切れが悪いのであって、端的に言えば原子力技術は今後も発展させなければいけない。廃炉放射性廃棄物の無害化技術が未熟という後ろ向きな理由だけではない。いまだに制御できていないものの、現代において人類が作り出せる最大の力は原子力なのである。子孫が地球の人口爆発に対処したり、宇宙進出を図るうえで、効率的にエネルギーを生み出す技術や、大きなエネルギーを制御するための技術は不可欠になると考える。それが原子力なのか原子力以外なのかはわからないが、原子力研究によって得られる成果は大きいと考える。
そして、その成果は現在のような大きなリスクを抱える原子力発電所を市場から撤退させるためにも不可欠である。トリウム原発は現在でも実用化されているというし、シビアコントロールが容易であるともいうが、もしそうならそのような原子力発電所に置き換えなければならない。放射性廃棄物の問題が残るが、人類は数百年後には何らかの方法で解決すると思う。無害化技術の開発を待たずとも、宇宙エレベーターを用いて安全に宇宙に投棄することができるかもしれない*1。それまでの間、現在の原発をあわてて廃炉にするよりは環境への影響が小さいかもしれない。耐震化、テロ対策、漏洩防止は喫緊の課題であるが、国土に存在する危険物は放射性物質だけではなく、工業社会全体の課題である。これを理由に原子力だけ非難をするのはフェアではない。ただ、前提として、政府が言う安全な原発ではなく、シビアコントロールが容易な原発があるならばという前提である。ないならば研究炉レベルで細々とやるしかない。
政治が特定の技術を否定することは避けるべきである。その技術がたとえ現代社会に合わないとしても、将来はそうとは限らない。技術を規制するということは、その技術の可能性を否定することになる。政府は0%、15%、20〜25%で世論形成を図ろうとした。政府の目論見は15%にあるという噂が流された。ところが日本人はその国民性を痛感させられる「その他」を選択した。
選挙を意識した民主党原発ゼロを選択するポーズを見せた。

政策調査会役員会は6日、党エネルギー・環境調査会(前原誠司会長)が取りまとめた提言「『原発ゼロ社会』を目ざして」を了承した。
提言では、(1)40年運転制限を厳格に適用する(2)原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働する(3)原発の新設・増設は行わない――
の3つ原則*2を厳格に適用する中で、2030年代に原発稼働数ゼロを可能にするよう、あらゆる政策資源を投入するとしている。

  • 2030年→2030年代 (9年先延ばし)
  • 3原則 (例外は後日設ける)(非核三原則のように、国民に黙っておけば例外が存在してもよい)
  • 厳格に適用 (例外を設けたうえで厳格に例外を適用)
  • 原発稼働数ゼロを可能にするようあらゆる政策資源を投入する (意味不明)

努力目標ですらなく、霞が関文学の真似をして脚色された文章は事実上「ゼロではない」宣言に置き換えられた。3原則が例外なく適用されたら「政策資源を投入」はどうでもいいことであり、自然にゼロになるのである。「政策資源を投入」と書いた時点で「政策資源を投入してがんばってもゼロにならないと思う」という魂胆が明らかである。「ゼロにならないかもしれない」ではない。「ゼロにならないと思う」である。おまけに政調会長は「八ッ場ダム中止」「全原発停止前に再稼働か*3」発言でおなじみの前原議員である。次こそは予想と結果を一致させたいと考えているに違いない。記者会見では決定ではなく、あらゆる政策資源を投入の部分を強調していた。次こそは嘘つきと言われないように手を打っている。いよいよやる気が感じられない。新聞や経済団体が反発しているが、彼らの論調に合わせるのであれば「熟慮の上、賢明な判断をした」と評価すべきところである。きっと現状より少しでも下回れば2012年の提言は達成と評価し、ゼロに向かっていると自画自賛することになる。民主党の残党が残っていればの話であるが。このとき夏季期間前のエアコンを試験運用と称して運転するのと同様、試験運用や実験運用の原子炉が事実上のベース発電となっていながら稼働数に含まれていないかもしれない。
「厳格に適用」とかはどうでもいいことで、「次に事故が起きたら責任者は無限責任及び投獄」とすればいいだけのことだ。何のための提言なのかよくわからない。やる気があるなら、「目ざして」「原則」という言葉を使うべきではなかった。
このままでは堂々と原子力予算をつけてくるだろう。そもそも生命力の強い原子力ムラの人たちは、どんな手を使ってでも原子力予算を勝ち取るであろう。原子力技術の衰退はよくないと思うが、政治が「ゼロを決定」「推進は禁止」と明確に決めておいて、裏で「どうせ罰則まではないだろう」「学問の自由だ」と言いながらこっそりやるくらいがちょうどよいのではないかと思う。今は原子力技術推進ではなく、ウラン型原子力発電所推進に傾きすぎである。

原子力技術を枯れさせないという条件つきで禁止。

*1:ロケットに載せて飛ばすと、打ち上げに失敗した時に大参事となる

*2:原文ママ民主党Webサイトでは「3原則」と掲示

*3:実際は大飯再稼働まで一定の全面停止期間があった