日本を二分する論争

国難には国の総力をあげて取り組まなければならない。
日本で緊急に取り組まなければならない問題は2つ。

菅首相の居座りや官僚主導も議論されるし、被災者支援も重要だが、いずれも国にお金があればそれほど問題ではないのだと思う。政府の動きが遅いのはお金がないからであり、財政問題にいきつくのだと思う。麻生内閣は迷走していたが、結局年間4度も予算を通してエコポイントは経済活性化に貢献したとされる。後で振り返って、問題発言は旺盛だったけれど何か成果を残したと認められるのだろうか。財源がないから何もできないと思う。お金を出せないから民主党内はまとまらないし、いろいろな問題が国民を直撃するのである。
領土問題、沖縄の米軍基地のような問題は解決の糸口を探るのが難しいと思うが、財政と原子力については論点が極めて明快であるし、民間だけで結論が出せそうである。
ところが、専門家同士が互いに自分たちの常識をひけらかし、平行線の議論を続けている。学会は、経済学者、原子力工学者だけに任せていないで、あらゆる学問の観点から議論を進めてほしいと思う。7月の朝まで生テレビ!は原子力の専門家ばかり呼んで討論を試みた。田原さんは結論を出すことを狙ったようだが、無理だった。この先も無理だと思う。

財政再建と経済成長

中長期的な財政再建のために増税を主張する勢力と、短期的な震災対策のために国債増発による需要拡大を主張する勢力がある。両者とも、マーケットは誰にも制御できないことを前提として理解している。政府にできるのは口先介入くらいである。
財政再建派は、制御できないことを重視し、マーケットを直接刺激する政策は危険だと訴えている。すなわち、国債日本銀行が引き受けて政府の歳入を増やすと、ハイパーインフレを引き起こし、その影響は日本経済を救いがたいところまで痛めるという。増税が唯一の策であることは明確であり、確実に財政再建に貢献するとしている。
需要拡大派は、制御できなくても過去の教訓に基づいてある程度の制御は可能だと訴えている。すなわち、インフレターゲットは経済成長を妨げるデフレと円高を克服し、経済循環を好転することができるという。一方、増税は税収を減らし、デフレを増長し、確実に財政に悪影響を与えるとしている。

原子力エネルギー

中長期的な電力供給確保のために新エネルギーへの投資を主張する勢力と、震災により短期的な落ち込んだ供給力を安定的に維持するために原子力の推進を主張する勢力がある。両者とも、核分裂は誰にも制御できないことを前提として理解している。制御棒は核分裂を制御しているわけではない。
新エネルギー派は、制御できないことを重視し、原子力の継続利用は危険だと訴えている。すなわち、どんなに安全対策を強化したところで事故の可能性を完全になくすことができず、いったん暴走すると放射性物質がまきちらされ、その影響は福島で現在経験していることか、それ以上だという。化石燃料は高騰していることから、自然エネルギーへの転換が唯一の策であり、一時的にはコスト高になっても確実に将来の日本の安定なエネルギー供給に貢献するとしている。
原子力推進派は、制御できなくても福島の事故を教訓として最新型の炉への転換を進めて電源経路の多重化を進めれば制御は可能だと訴えている。原子力は経済成長を妨げるエネルギー供給不安を克服し、世界秩序が不安定な中で安定的な電力供給を実現し、輸入依存から核燃料サイクルを通じた自給へ転じることが出来るという。一方、太陽光や風力は不安定であり、供給不安を増幅し、確実に日本工業の経済力に悪影響を与えるとしている。

議論の構造は似ている

  • 人間には今の技術では克服できないことがある
  • しかし、人間はこれまで不可能を可能にしてきた
  • 取り組まなければずっと克服できないし、克服しようとすれば犠牲がある
  • 何もしないわけにはいかず、何かを決めなければならない

上げ潮派は、原発推進派といっしょにするなと思うかもしれない。確かに、インフレターゲットは試してみる価値があるが、原発は止めた方がいいとか、逆に、消費税はやった方がいいかもしれないが、原発をやった方がいいとか、結論は反対である可能性がある。例えば東大の学閥は財政は増税派、原子力は推進派とされていて、ねじれが鮮明である。
しかし、これを克服を試みようとしている人たちと止めさせようとしている人たちだけで勝手に議論させていいものかと思う。やりたい人が勝手にやる、それでこの重要な問題は片付くのか。もしくは何も決められないまま破綻する、それでいいのか。
今取り組むべきかどうかは、哲学の問題でもあり倫理の問題でもある。こういうことは医学や遺伝子工学では論じられてきた。学会は、正しいかどうかは別として学者の意見をまとめて結論を出す能力を持っている。しかし金融工学原子力工学の人たちにはまだ意見をまとめる能力すらないようである。言うまでもなく日本の政治も結論を出すことが出来ず、行政もまた最近では結論を出す能力を失っている。

あきらめるべきか

錬金術はかつて盛んに研究されたが、結論としてはあきらめて正解だった。地動説はあきらめてしまっていたら天文科学の進展はなかった。
スーパーコンピューター、宇宙探索は、事業仕分け民主党政権に見放されたが成果を出した。あきらめなくてよかった。これらは、成功するための設計がきちんとできていた。一方、マーケットを操る術とか、再臨界を止める術というのは確立されていない。
インフレ・ターゲットはまだ日本で試されたことはない。しかし原子力開発は長年試されてきた。1回くらい金融の実験をやらせてあげたい気もする。しかし、福島の犠牲はとてつもなかった。1回でもやらせるべきではないのか。安全に実験する方法はないのか。原発はストレステストをするというが、不十分だという声もある。

複雑すぎて、すぐには結論が出ない

もう少し考えてみる。