航空マイレージやポイントは会社のものか

 わたしは今、会社の経費で出張したり、購買したりする立場ではないが、会社に帰属するものではないと思う。
 法律や税制の観点で言えば、会社に帰属すると考える方が整理がしやすいようである。Webでいくつか検索してみると、「明確なきまりはないが、」と前置きは付くものの、会社に帰属するという見解の方が多いように見える。弁護士さんや税理士さんのうち、士業として独立心の高い人たちから見れば、サラリーマンが会社の金で小売店のポイントやマイレージをためることが「自分たちにはないサラリーマンの特権」に見えるのであろうか、若干ひがみを感じる論調もある*1。ぜひサラリーマン弁護士で出張マイルをためている方の意見も聞いてみたいものだ。
 論点は3つ。

  1. 航空会社や小売店マイレージ、ポイントを誰に支給しているのか。
  2. 出張や買い物のとき、個人の人格は全く存在しないのか。
  3. 不公平か。

マイレージ、ポイントを誰に支給しているのか。

 法律では「誰のものか」から論議を始めるが、これが混乱のもとになっている。航空会社がマイレージを払っているのは、スポンサーではなくて、航空会社を選択してくれた旅行者本人である。航空料金を払ってくれたことではなく、継続的に同じ会社を選んでくれたことに航空会社は価値を見いだしている。よって、マイレージ数は、航空料金や付帯費用に完全比例しているわけではない。小売店のポイントも同様である。小売店では、来店に対してポイントをつけるところもある。これをひっくるめて「値引き」と解釈するのは無理がある。空港や店舗入り口で配っているうちわや、おしぼりと同じ類のものである。
 税金が原資の出張であることから、マイレージ収集を禁止している役所があるというが、税金はきちんと航空会社に支払われているのであるから問題はないと思う。
 調達業務で、一担当者が業者から接待を受けたり、高めの金額で契約して一部をキャッシュバックしてもらったりするのは犯罪である。これらの行為は癒着があったり、調達金額の無駄が発生したりすることに問題があるのであって、役人がいい思いをするというところに経済的損失が発生しているわけではない(道義的な問題は当然あるが)。ただ、マイレージやポイントは世間で認められている制度である。航空会社や小売店の選択に癒着や、特定の調達品に限って店頭価格のつり上げがあるわけではない。

出張や買い物のとき、個人の人格は全く存在しないのか。

 専門家たちが問題にしているのは、金額が大きいことと、現金や私物利用に還元することである。
 金額が大きいことについては、景品のうちわは会社に申告しなくてよくて、マイレージやポイントは会社に申告しなければならないという境界はどこにあるのだろうかと言いたくなる。ただし、この議論はうまく進まない。
 これよりも「個人として待遇を受けることにどうしてけちをつけるのか」ということを考えたい。

仕事で移動中、道に財布が落ちていたので拾って届けたら、謝礼をもらいました。
財布の中身は1,000万円で、謝礼は高額でした。

勤務中だから、会社に還元しなければならないだろうか。財布が落ちていた場所から交番まで行った時間は有給休暇を申請しなければならないのだろうか。勤務中は、完全に法人として行動し、一民間人の人格は捨て去らなければならないという発想に貧困さを感じる。
 出張中の行為が業務に影響を及ぼしている*2ならば問題だが、出張ついでにマイレージのカードにポイントを登録する程度の個人行動が認められてもいい。

 旅行者、来店者へのサービスに、会社が介入するのはどのような権利なのか。

不公平か

課には、2年目の社員であるAとBがいます。
2人は、ほぼ同じような業務を担当しています。
課長は、Aにだけ「昼休みのついでに電池を買ってきて」など、購買を指示します。
Aは、個人的に作った量販店のポイントカードを使い、10%以上の還元を受けていました。
いつもは少額ですが、ある時にはプロジェクターを購入するなど、一度に数千円単位でポイント還元を受けたということもありました。
Aは、ためたポイントで、自分の携帯電話を買いました。Bはうらやましいと思いました。

いくつかの解説を読むと、Aに対して「こそこそポイントなんてためるな」とし、その根拠として「ポイントはおまけだ。ポイントなんてあてにせず、本業をがんばって給料を上げる努力をしろ」というような整理になっている。
 でもわたしは、Bに対して「ポイントなんて気にするな」と言いたいし、その根拠として「ポイントはおまけだ。どうしてもほしいなら「自分が買い物に行きたい」と課長に言え。買い物や経費精算なんかに時間をかけている奴より仕事をして給料を上げる努力をしろ」というような整理としたい。
 役得というのは業務のあらゆるところにあるわけで、役得が不公平だからやめろという話になると、仕事の工夫やおもしろみは全くいらないという議論になる。ならば会社という組織形態や正社員としての労働契約なんてやめて、個人労働者が労働成果を持ち寄ってビジネスを進める仕方にすればよい。隣の人のポイントやマイレージを気にするような人がいるならば、昇級や昇進に完全平等が成立しない今時の会社で働くこと自体に矛盾を感じるべきである。
 役得はあるのだというところから始まって、周りの人と仲良くやりたいならば、Aが自発的に分配すればいいではないか。なぜ会社が受け取って利害関係者に分配しなければならないのだろうか。小口決済の努力まで株主に吸い上げられる必要はない。そもそも少額値引きの積み重ねであるマイレージやポイントを会社が管理するということで、会社はどれだけ利益が上がるのだろうか。もっと全体観を持って議論すべきである。

会社の経費節約努力を阻害してはならない。

 ただ、会社が大口法人契約を結んでいたり、一括購入をして経費節約をしているのに、それに逆らってマイレージやポイントをためるのはよろしくない。それは会社に対して損害を与えているというよりは、会社の施策*3を妨害していることになるから、従業員は協力しなければならない。

*1:自分たちは何でも経費で損金控除をしているくせに

*2:出張先で業務が終わったのになかなか帰ってこないとか、おみやげを買い込んで書類が入ったかばんを忘れてきたとか

*3:例えば、経費精算の効率向上