マイナンバーカード懐疑論への考察

 反政府というわけではないが、様々な立場から政策に建設的に異論を唱える人は一定数いて、そのこと自体はいいことだと思う。何でもお上の言う事は正しいという社会は気持ち悪い。
 しかし、とりわけマイナンバーカードに対する懐疑論については、賛同しかねる。もちろん、今後何か悪い予感が的中することがあるかもしれないし、むしろ何か事件が起こると思うが、それはマイナンバーカードを導入したから増えるということではないだろう。紙だったら表にならないので、ばれないだけのことである。特に、郵便局の体力が衰えていく中で、誰が配っているかわからない郵便に任せられない日は遠くないのではないか。

なんで手書きなの

 話は変わるが、銀行の偉い人たちが宿泊施設のフロントで記帳を拒否したというプライベートな話が報道され、会社が謝るという事件があった。
 その偉い人の態度はよくないとは思うが、今時、偉い人は自分で電話をして宿をとるということはない。会社の秘書さんか、法人会員になっているクレジットカードのコンシェルジュが手配してくれる。旅行会社には住所氏名年齢、禁煙喫煙の希望まで全部届けてある。偉い人だって自分で予約する人はいるが、たいていホテル会員アプリか、大手予約サイトを使うだろう。
 どうして、改めて手書きを求めるのか。
 自分の家に帰らない人はお客だとはいえ何か訳ありだと思い込んでいて、近所で事件が起こったら刑事さんに渡して筆跡鑑定してもらうためか。しかし、そもそも犯罪者が宿泊するなら偽名を使うし、次の宿泊地の欄に真実を申告することなどありえない。
 旅館業法の解釈については、厚生労働省がすでに結論を出している。
https://www.mhlw.go.jp/content/000681855.pdf

宿泊者名簿は、宿泊者に実際に記載してもらっているが、ICT代替設備を導入した場合も、宿泊者に記載してもらうべきでしょうか。予約のときに得た情報を営業者が記載することで足りるでしょうか。

宿泊者名簿の記載は、宿泊者の自筆での記載が必須とされるものではありません。ICT代替設備を設け、予約のときに得た情報を営業者が記載した場合は、チェックイン時に、宿泊者が誤り等ないことを確認しチェックボックスへのチェックを行う等の方法で足りると考えられます。

なぜ名寄せできないの

 役所は縦割りだというが、そもそも課内でさえ情報管理が満足にできていない。
 同じ役所の同じ課に、1年の間に3回も似たような書類を出させられたことがある。
 しかも毎回、記入日、氏名ふりがな、住所、電話番号、メールアドレスと繰り返し繰り返し書かされた。
 お前が本人か確認できる能力がないので、お前の属性情報を書き尽くさなければ申請を認めてやらないぞ、というのがその趣旨だと勘繰りたくなる。名前だけだと同姓同名もあるし、公開情報だから、なりすましあどうか不安だと。全部合わせて正確だったらたぶん他人ではないだろうというわけだ。そして申請の不備に備えて、役所側が面倒くさくないように連絡先も聞く。
 3回目なんて、窓口に行ったら前回と同じ人だった。その人に対して、え、また書くの?とつぶやいてしまった。

そこでマイナンバーカードの出番となる

 手書きは面倒、何回も同じことを書かせるなと思っているわたしとしては、早く本人確認のデジタル化が浸透してほしいと思っている。
 ところが、わたしがわざわざ言うまでもないが、世間の人々はマイナンバーに対する不安を払しょくできていないようである。
 よくあると思われる声に対して、いくつかコメントしたいと思う。

カードを落としたら個人情報が根こそぎ奪われる

 パスワードがなければ、誰であっても根こそぎ奪うことはできない。
 カードによって鍵が手元にあることは事実。タイムマシンで未来に行って、高性能量子コンピューターで解析を試みれば現在の情報保護技術は危ういが、その頃には鍵を守る技術も進化する。だから、定期的に役所に行って鍵を交換することになっている。
 そもそも個人情報を集めているのは日本の国家権力というよりは米中とその企業である。マイナンバーカードが怖いなら、まずはスマートフォンの電源を切った方がいい。今すぐ。

マイナポータルに個人情報が溜まる

 利用者が見たいときに取りに行く仕組みになっているので、ポータルに一方的に溜るものではない。閲覧期間が過ぎたら削除される。

デジタルになったら公権力に個人情報を丸裸にされる

 もともと、公権力が持っている情報なので、今は秘密裏に見られているのではないですか。なぜ紙がデジタルになると丸裸に変わるのか。

デジタルになったらハッキングされる

 マイナンバーカードだろうがなかろうが、今時、役所、民間を問わず、中大規模の組織はITに情報を入れて管理している。
 「デジタルになる」のではなく、数十年前からデジタルになっている。

デジタル庁に個人情報を預けることになる

 新たに預けた情報は金融機関口座くらいではないのか。しかも確定申告の還付申告をしたことがあれば書いたことがあるはずだ。

口座残高が覗き見される

 今でも税務署には調査権限がある。あるいは捜査当局が住所と名前がわかれば裁判所の令状を取ってみることができる。マイナンバーシステムが追加で与える権限はない。他の役所は勝手に口座残高を見ることはない。
 口座に還付や補助金を振り込む公共機関は、国民が開示許可を出せば口座番号を入手することができる。口座番号は開示するので、補助金は無申請で振り込んでほしい。
 そもそも覗き見が嫌なら銀行口座を持つべきではない。銀行のシステムはアクセスログが残るようになっているが、懲戒覚悟であれば銀行員は覗き放題である。

医療情報まで入れる必要があるのか

 ある。e-Taxになっても、医療費控除の申請は未だにExcelで作成させられる。
 こんなものは健康保険組合から勝手に送っておいてほしい。

手続きが面倒くさい

 電話番号を覚えるのが大変とか、メールアドレスは呪文みたいとか、みんな言っていたよ。
 住民票取得のために住民課で待たされることがなくなったので、面倒でなくなったものもたくさんある。
 ある役所に行くと、郵送でも結構ですよと何度も言われたことがある。封筒を買って、切手を買って、ポストに行く方が最高に面倒くさい。かつてはこれに捺印もあった。何が面倒くさいかは人によって異なるが、10年に一度写真を撮り、5年に一度鍵を交換することくらいなんでもない。

落としたら手続きが面倒

 健康保険証や運転免許証も落としたら面倒だよね。せめて1枚にしてほしいよね。

何も得することがない

 紙を止めれば、役所の運営コストが下がる。市町村合併のときに残された元の村役場が今は支所というものになっているが、あれは全部いらなくなる。
 そして、紙とExcel方眼紙からの脱却、繰り返し似たような情報を書かされる手間からは解放される。

諸外国では国民総背番号制度の企みが打ち砕かれている

 日本も「総背番号制」だとして打ち砕かれた歴史を持つ。
 国会で野党に妨害された反省として、国民が鍵を渡していいよと指示したときに役所間の連携が成立する仕組みになっている。コストはかかるが安全を重視した設計だと思う。
 市民のマイナンバーを取得した行政機関が、他の役所に行って自由に情報を覗き見に行く仕組みにはなっていない。
 ただし、役所は業務上許された範囲で、渡すことはできるようになっている。国民が一つの目的のためにいろいろな役所を巡回しなければならない場面は確実に減る。

身分証と個人認証を同じカードに入れるな

 一部の公務員は、マイナンバーカードが役所内の身分証明書を兼ねている。この懸念はわからないでもないが、身分証機能と個人認証機能は一応独立して運営されているので、単に物理的にそばにあるだけという状態ではある。

懐疑論を取り上げたらきりがないが、慣れないものは怖いと言っているだけにしか聞こえない。ワクチン信者がワクチン慎重派に言うことと似ているかもしれないが、もう少し具体的にどういうことが不安なのか説明してみてほしい。