3年前に見た景色

押し入れから、ノート・パソコン用のハードディスクが出てきた。
パソコンに差し込んでスイッチを入れたら、Windows 2000が起動した。

 おお、2000だ。久しぶり

と思った。
昔使っていたことのあるパスワードがなぜか直感でひらめいて、ログオンできた。
マイ・コンピュータを開いたら、いくつかファイルが出てきた。自分で作ったファイルがたくさん入っていなかったので予備のパソコンとして使っていたようだ。推量の形で書いているが、何のために使っていたパソコンなのか思い出せない。
聞いた記憶のない音楽ファイルや、見た記憶のないソフトウェアのインストーラーがある。なぜかインストーラーだけ。
Windows 2000なのに、オープンオフィス.orgのベータ版が入っている。Windows 2000の発売時期とは時代が違うなと思って、いくつかのファイルの更新日付を見てみると、2005年の物が見つかる。今は2008年だから、3年前に使っていたハードディスクだとわかった。
実際に使っていたパソコンとは違うハードウェアに入れたので、ドライバーが合わない。なんとかキーボードとマウスは使えたが、ネットワークはつながらなかった。それでも、Webブラウザを起動してみる。オフラインでも十分ヒントがわかる。ある地方の情報がブックマークされていた。長期旅行のとき現地で使おうと思って、使い古しのパソコンのOSを入れ直したものだと思い出した。入れ直した時点で古いパソコンだったから、古いOSを入れたのだ。

  • 21世紀初頭、Windows 98-2000-XPの時代は、比較的高いハードウェア互換性を保ってきたが、今後はこのようなことができないかもしれない。昔のソフトウェアをいったん保存して後で動かすときには、ソフトウェアは腐ったりしないがそれを動かすためのハードウェアは古くなってしまうし、かわりのはーどうぇ店で見つけることが難しい。パソコンのハードウェアをソフトウェアが仮想的に作れるようになってきているが、昔の思い出のパソコンを復活させることに貢献できるのだろうか。
  • 1年前見た場所、3年前まで使っていたビデオデッキの操作方法、5年前まで乗っていた車から見える景色というのは覚えているつもりでいるが、わたしは3年前に使っていたパソコンの中身が思い出せなかった。更新日付など、情報と結びつけて気づくことはできたが、目で見た色や耳で聞いた音だけで昔の記憶を呼び起こすことができなかった。パソコンの中身には情報が多すぎて、過去の記憶と完全一致しなかっただけなのか、それとも昔見聞きしたものについて「覚えている」というのは案外おぼろげなものなのだろうか。
  • パソコンというのは、いくら壁紙を変えたり、周辺機器をつなげたりしたところで、それ自体には実は興味がないのである。また、自分の脳は、パソコンに情報を出したり、パソコンを通じて情報を入れることにエネルギーを使っている。すると、ずっとパソコンに向かい合っているつもりで、実はパソコン自体はまったく見ていないことになる。