話題のJRE BANKにイライラ

2024年5月、楽天銀行JRE BANKのサービスを開始。JR東日本グループのビューカードが銀行代理業者となって、JRのブランドでサービスを運営している。
YouTubeでは、株主優待よりもお得だとしてインフルエンサーが張り切って宣伝している。
さっそく口座を開設してみたがいろいろ気になった。というか、イライラした。

優待はいつまで続くのか

確かに優待券の乱発などはすごいと思う。
近年、クレジットカード会社が還元サービスを改悪することに慣れてきたところだ。
JRもいつまで続けるのかなと思っているところではある。
口座開設が完了したところでログイン後の初期画面を見たら、2024年5月9日付で「JRE BANK優待割引券(4割引)の条件一部誤記載について」というお知らせを発見。
JRE BANK優待券1枚プレゼントのところが、2枚になっていました、と。
1枚と2枚では全然違う。「すみません、間違っていました、テヘペロ」で済むなら、いくらでも好き勝手に条件改悪できる。

それでも、手数料収入が継続的に見込めるクレジットカードではなく、銀行で豪華特典を実現したのだから本気なのかもしれない。
1枚でも十分である。今後に期待したい。
数年前、銀行の窓口にわざわざ行って口座を作ったときはグループ会社のクレジットカードの申込書しかくれなかった。数千円分の割引効果のあるものがいくつかついてくる。この原資はどこから出ているのか。

楽天とJRでどういうお金のやり取りが行われているのかわからない。楽天がJRのブランドでビジネスを広げようとしているのか、JRが楽天のインフラを変えて金融サービスを広げようとしているのか、あるいはその両方なのか。
JR東日本の経済圏はエキナカに限られるものの首都圏を握っている。エキナカで安く買えるのは入場券と駅そばくらいなもので、コンビニも含めどれも単価高め。それでもこの経済圏に入ってくる消費者は属性高めか旅行好きだと決まっている。楽天ソフトバンク(LINEヤフー、PayPay)、Vポイント連合(三井住友・CCC)の有力経済圏にとっては新たな侵攻先として魅力だ。さらに再編を進めば、ソフトバンク以外の通信会社系*1も取り込まれてすっきりすると思うのだが、楽天JR東日本が接近したのは注目である。

特典が複雑

特典自体の解説はYouTubeを見るのがいい。
逆に言うと、オリジナルのWebサイトの説明は冗長で説明するつもりがないだろうと言わざるを得ない。
ごちゃごちゃしてわかりにくい印象である。
Webの専門家を入れたらどう?

発行に時間がかかる

開業した週は、口座開設の受付を始めたと思ったらすぐ閉めたり、深夜の1時に再開したりと、異例の営業スタイルをとっていた。
大量の口座開設申し込みに対応できなかったのだろうか。
「最短翌営業日開設」と謳いながら、5月中旬時点では1週間程度かかっているようである。
メールが送られない障害が発生しているが、申込が想定を超えたこととの関連はよくわからない。
JRE BANKでは急遽、発信元メールドメインを変更している。システム構築時点では楽天銀行において、JRE BANK用のサーバーは既存の楽天銀行用と分けていた。実際は暫定的に楽天銀行用のサーバーを使っているようで、申込者から見たら連絡がJRE BANKから来たり楽天銀行から来たりする。なりすましメールが紛れ込んだら見極め出来ない。たぶん、隣国の迷惑メール勢力のターゲットにされるだろう。今後、元に戻すのかは不明だ。復旧に向けて頑張っているIT開発現場の方がもしいたら、がんばってください。
JCBデビット機能がついたキャッシュカードの発行も遅れるようである。

どこからログインするのか

JRE BANK」と入れて検索をかけてみる。
Yahoo!では広告が上に来て「【2024年5月】本気おすすめ4社 - カードローン人気ランキング!」と表示される。怪しさ満点である。
「BANK」で終わるからかと思って、試しにJA BANKと入れたら、JA BANKのカードローンが一番上に来た。これはJAが広告を出しているのだろう。
Googleではこのような感じ。

トップはjrebank.jpで、次は楽天銀行だ。
jrebank.jpは、ドメイン名にhttps://だけつけてWebブラウザのURL欄に入れるとエラーになる。トップページのURLはこれだ。
https://www.jrebank.jp/top/
ここでは口座開設の案内が出るだけで、銀行にログインできない。ログイン画面のリンクすら用意していない。
新規勧誘用のサイトと、既契約者用のサイトを分けるのは、金融全般の流行りではあると思う。
しかし、普通は既契約者用のサイトを専用ドメインのトップに使うのではなかろうか。
実際の画面は楽天銀行側にあったとしても、そこに遷移するように仕掛けておけばいいのではないか。
楽天銀行規定一覧」「楽天銀行ディスクロージャー誌」へのリンクは用意するが、ログイン画面には行けない。
駅前の一等地に開いた支店で、口座開設用のパンフレットだけおいて、ATMも窓口も置かないようなものじゃないか。

jrebank.jpサイトの制作はJR側が担当したと思われる。
きれいな今風のデザインのサイトなのに、デザイナーさんから「本当にこれでいいのですか?」と言ってもらえなかったのか。あるいは言われても無視したのか。

メガバンク楽天銀行など、一通り検索してみたが、トップにログイン画面が案内されない金融サービスを日本で見つけるのは難しい。
大企業が金融サービスで一般預金者を集めようとしているのに、SEO(検索エンジン最適化)をしていないというのは驚きである。

ものすごい体制でプロジェクトをやっているはずである。IT子会社もあればコンサルティング会社も入っている。誰も知らなかったはずはない。

楽天銀行よりさらに劣化したアプリ

楽天銀行はもともと楽天イーバンク銀行を買収したもの。
楽天銀行本体の利用者画面はその後モダン化させているが、2024年に新規開業したJRE BANKではどうなっているか。
今回JRE BANKのサイトを見ていたらWebサイトフッターの著作権表示のところに「2001」という文字を発見。
21世紀が始まった年への強いこだわりがあって、あえてそうしているのかもしれないけれど、Webサイトのフッターを生成する機能は四半世紀前から使いまわしなんだなと思った。
取引画面は緑が基調のJRE BANK専用画面を用意されているが、スマートフォン向けの画面をPCにも見せるという大胆な仕様。

全画面

この画像はウィンドウの表示領域全体を切り取ったものである。Webブラウザを全画面にしてもよかったのだが、実際の利用ではOSのタスクバーやWebブラウザのメニューバーは出しっぱなしにしているのでその部分を除いて切り取っている。
Webブラウザのウィンドウを最大化すると、画像が引き伸ばされて使いづらい。
これでもいちおう取引画面である。振込しますか?明細見ますか?と選ぶための画面だが、注意事項だけで埋め尽くされている。Hatena Blogさんは、この画像を読みやすい縮尺で表示してくれるだろうが、わたしはこの画面を大型モニター全画面で開いたので、銀行代理業を説明する画像の文字が縦2cm横2cmである。
スマートフォンのようにウィンドウの横幅を狭くすると使いやすくはなる。URL欄の文字と、取引画面の文字が同じような大きさになっているのが確認できるだろう。

Webブラウザの全画面をウィンドウ表示にし、さらに横幅を狭く変更した画面

JRの人は、楽天のシステムベンダーから何を見せられて何を承諾したのか、そして、これでいいと誰が判断したのか理解に苦しむ。
PCだけでなく、iPadでも使いにくい。

「いやいや、JRE BANKはスマホアプリで使ってほしい」ということであれば、はじめからそう言ってほしい。
ただ、JRE BANK(楽天銀行)から受け取ったメールを見ていると、逆に長い横幅指定のHTMLメールが目立つ。
横スクロールが必要で、スマートフォンでは読みにくい。
PCで作って、確認もせず送っているんだろうなと容易に想像がつく。
PCでメールを受け取って、スマートフォンで口座にアクセスしてほしい、そういうことだろうか。

設計思想が全般的に2000年代にタイムスリップしている。

  • 利用者が設定するパスワードを短すぎないように指定してくるが、長すぎるのもだめだという。
  • パスワードに記号を必ず含めることを要求されるが、使える記号の種類が少ない。「英数字だけではパスワードの複雑性が不十分なので、記号もいくつか足しました」というセキュリティ対策が登場したばかりのときはこんな感じだったな、と思い出した。
  • ひとつずつ処理をするごとにメールを送ってくる。お金を預けるまでに届いたメールの総数が12通である*2。広告は含まれない。すべて、必要な情報だ。間接的にメール遅延の原因になっていないだろうか。サービスや機能を無秩序に継ぎ足しているとこういうことが起こりがちである。また、手続きの進行状況を一覧で提供せずにメールで通知しておけばいいよねという発想だとこうなる。
  • タイムアウト値が短めだ。わたしがむやみに閲覧画面を長時間放置しているつもりはないが「当行所定の時間が経過したか、当行で未対応の操作が行われたため、お取引を続けることができません。再度ログインの上、お取引ください。<616006>」を何度見せられたことか。
  • エラー画面に一度行くと、楽天銀行のトップ画面に戻るしかない。ところが、楽天銀行のトップ画面からはJRE BANKに行けない。
  • スマートフォンアプリの画面から時折Webブラウザに遷移するが、アプリを使っているつもりだったのにアプリのインストールを勧める表示が現れた*3
  • スマートフォンアプリは同時に1台でしか使えない。2台を同時に使わせてくれとは言わないが、2台目で初期設定したら1台目の設定が無効にする意味はないだろう。PCとスマートフォンは同時ログインできてしまう。いずれの端末でも利用者認証をしっかりやればいいだけの話なのに、なぜ1台限定にするのか。スマートフォンが壊れたら銀行取引お断りか。

サービス連携

JRE BANKは楽天銀行の口座であるが、楽天銀行の口座と同じように使えるのだろうか。
明確な違いとして調べてわかったのは、楽天銀行でスポーツくじを買うと楽天ポイントが貯まるが、それがJRE POINTになるということくらい。
JRE BANKと楽天証券とのリンクはできるみたいだが、すでに楽天銀行口座を持っていたら楽天銀行口座との連携を断ち切ってから連携を申し込まなければならない。
他にあるだろうか。FAQを見てもわからない。
楽天銀行の口座を持っていてもJRE BANKの口座を開設できます」だけでは説明不足である。
楽天銀行の口座と機能がかぶるので楽天銀行の口座は解約していいですよ、なのか、あるいは違いがあるから両方持っていてくださいねなのか。

家計簿アプリであるマネーフォワードのサービスから、JRE BANKへの連携を登録することについては、マネーフォワードのFAQに楽天銀行として登録できることが書かれている。

JRE BANK」の自動取得は、弊社サービスでは【楽天銀行】として自動取得に対応しております。

ただ、実際に登録操作に進むと、遷移先の楽天銀行のサイトで

申し訳ございません。お客さまがご利用の支店は、本サービスをご利用いただけません。<616069>

と出る場合があるという。
わたしは正常に連携できたが、謎である。

システムの挙動がかなり不安ではあるが、本来の銀行サービスと特典は大丈夫なんでしょうね。
安心できないと、給与振り込み指定なんて到底無理である。

BaaSブームの終わり

サービス運営側の苦労を知らずに、文句だけを言うのが本稿の趣旨ではない。
言いたいのは、BaaSがこれでいいのかということ。

多角化を目指す企業にとって、銀行業への参入は魅力的ではあるが、免許の取得が大変である。
そこで、お金さえ出せばサービスを丸ごと手に入れられるBanking as a Serviceが数年前から流行っている。
金融庁も銀行業免許よりは敷居の低い「銀行代理業」という許可制度をつくり、銀行をサービスとして手に入れようとするニーズに応えている。
ただ、銀行口座の管理はお金がかかるものであり、この費用を負担しながらそれを上回る収益を得られなければ預金者を集める意味がない。
そこで既存の銀行は普段使いをしてもらおうと苦心し、新たなサービスを提供している。
新規にネット銀行を作るのであれば、単に隣の真似をするだけでは差別化できない。

Banking as a Serviceを提供しているのは日本においてはネット銀行であり、自行のネットサービスよりもいい機能を簡単には他社に渡さない。
既存の金融機関はサービス改善のために継続的に巨額の投資をしている。
その投資をシェアしてくれる相手を探す動きはバブル崩壊、金融ビックバンを経て2000年代から本格化した。
BaaS提供機関と利用企業はお互いWin-Winであるはずだが、実態は過去に投資した枯れた資産と、即席で作った画面を組み合わせて提供されている。
利用企業がこれで満足しているのか、ぜひ利用企業側に聞いてみたいものだ。
ネット銀行には楽天以外で有名な大手がBaaSを展開している。ログイン画面はあちこちのBaaSで作ったユニークな支店名が乱立していて、自分がどこをクリックしたらログインできるのか迷ってしまうことがある。
裏側の仕組みはいくらどんくさくてもいいのだが、利用者に見える部分くらいは今風につくっておかないと、利用者は普段使いしてくれないのではないかと思った。

今回のJRE BANKではどうなのかわからないが、このような不具合のいくつかは、提供機関と利用企業との間での責任があいまいになっていると起こりがちである。

  • A社がB社さんのために作ってあげている
  • B社がA社さん任せになっている
  • 追加の課題が出るたびにどちらが予算を出すかでもめる

利用者のためにどうすべきかという正論が通りずらい環境が日本のあちこちでできている。

BaaSではなくて、次はいよいよ外資がディスラプターとして金融を壊しにかかる。外資大手ITに対してまともに規制をかけられない日本政府では防波堤にならない。そんな未来が想像できる。

*1:ドコモのdポイント、三菱商事KDDI連合のPonta

*2:この12通の中にはJRE BANK発で「JRE BANKデビットお申込受付」、楽天銀行発で「JRE BANKデビット申込受付」という似たメールが含まれている。「お」のついてない方は口座申込完了通知よりも前に届く謎仕様で、「お」がついていない方は申込完了から6日も経っている。システムトラブル絡みの混乱だろうか

*3:わたしは同様の挙動をするアプリをもう一つ知っている。JRE POINTアプリである。JRE POINTアプリと同じところが作っているのだろうか。迷惑なのでやめてほしい