将棋観戦の形が変わる

名人戦終わる

2023年6月1日。藤井聡太竜王が名人位獲得に成功。
タイトルの独占が進んで、うれしいやら悲しいやら。

将棋の世界ではすでにAIが人間を凌駕したとも言われているが、AIは並列処理ができるから最終成果が人間を上回っているのであって、藤井竜王は瞬間ではAIよりもいい手を選ぶ場合がある。時間をかけて考慮すればAIもついてくるのだが、将棋は持ち時間が有限のゲームなので、同じ時間内での勝負ではまだまだ人間の勝負も見応えがある。
藤井さんは史上最年少名人ではあるが、必ず歳をとる。藤井さんが羽生さんたちを倒したように、藤井さんが後進に倒される時が来るだろう。その時はどんな風景なのだろうか。

ABEMAを見る贅沢

先日は有給休暇を取って、1日中ABEMAで将棋観戦をした。
あまりお金はかからないが、時間の使い方としては最高の贅沢である。
NHKeテレ以外でも観戦できる将棋チャンネルを普及させたのはABEMAの功績である。
早指しをエンターテインメントに仕上げたのは見事だと思うが、伝統的なタイトル戦の実況には課題がある。
考慮時間には大盤で2名が解説するスタイルが一般的であるが、間が持たないのである。
同じ検討を何度もするわけにはいかず、雑談やおやつの話でつなごうとするが、聞いている方も飽きてしまう。

将棋解説YouTuberの台頭

そんな長時間の対局をYouTubeで見ると20分くらいで終わるので効率的である。
昔は新聞を数日分読まなければいけなかったものが、YouTuberが棋譜の利用許諾を得て動画を作っている。
見る側は動画広告を見るかYouTubeに課金すれば当日に見られる。
対局を見て、実況で観戦者の検討を聞いて、感想戦における対局者同士の会話もすべて取り寄せる。そして手元でAIを駆使する。
全部集めて動画を作っているので、実況解説よりもはるかに高品質である。
解説の正確性においては、実況解説者はYouTuberに完敗である。
解説といえば、プロ野球やプロサッカーの解説も、有名な解説者が生で見解を述べるという意味では共通している。
解説者の語り口が物真似されるなどして、おもしろおかしく取り上げられたりすることはあるが、解説内容自体が検証されることはあまりない。
しかし、将棋の場合は指し手の案が数字でスコアリングされてしまう。解説者が「こんな手もおもしろいんじゃないかな」と言ったその手が悪手と判定されることがある。とても厳しい時代である。
時間のハンディキャップをうまく使えるYouTuberが実況解説のプロを上回ることはもはや確実である。
ただ、そのYouTuber自身も他のYouTuber同士の競争がある。
将棋解説チャネルは複数あり、アクセス数やいいねの数はリアルで視聴者の画面に出てくる。さらにはリコメンドもされてしまう。
情報とAIを駆使したから楽勝とはいかないようである。
このようなAIの活用実態は、将棋に限らず世間のビジネスの将来を見ているような感覚になる。

YouTubeへの対抗策

在来放送局、ネット放送局に対抗策はあるのか。
新企画、新ルールのエンターテインメントを打ち出すしかないのかなと。
早指しでもなく、NHK杯よりはやや長めではあるが、半日もかからない程度の試合が見たい。
AIプロンプトエンジニア同士の対局とか、F1のようにマシンスペックのレギュレーション(性能規制)をかけたうえでのAI勝負、人間は制限時間1時間、AIは制限時間10分での対局とか。
人間の早指し対決では、持ち時間が切れても補充するルールが一般的であるが、AIに対して持ち時間が切れたら負けという条件を課したら、開発者のチューニング能力が試されておもしろそうである。終盤まで時間を取っておくのか、中盤で時間をかけるのか。

団体戦は、対局者をひとりずつ出すのではなく、ひとつの対局で複数の棋士が別室で検討しながら指す方式でできないものか。