医療費通知情報: 所得税確定申告における医療費控除への連携が始まった つづき

やっぱり、医療費通知情報はそのまま使えないんじゃないかなという思いが強くなった。

lqh.hatenablog.com
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前回書いた通り、諸事情があって確定申告に必要なすべての支出を取り込めないとわかって、まずは手元にある領収書を全部Excelフォームに入れてみた。
そして、検算になるからマイナポータル連携したデータも参照してみた。

1. データを修正できない

マイナポータルから連携した情報は、確定申告をする者が修正できないようになっている。

  • 支払年月
  • 保険者の名称
  • 医療を受けた方の氏名
  • 病院・薬局などの名称
  • A 通知に記載された医療費の額
  • B Aのうち令和4年中に実際に支払った医療費の額
  • C Bのうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額

これらのうち、BとCは空欄になっていて入力ができるが、病院、薬局以外で事後精算した額の修正にすぎない。

修正できない欄は正確だろうか。
調べたところによると、マイナポータルでは期間中に健康保険組合が変わった場合は、すべての明細において「保険者の名称」が「X保険組合 Y保険組合」と併記されるようなのである。
この状態のまま、申告してよいのだろうか。

2. 不一致

その結果。医療費通知情報と手元の領収証が一致しない。
もちろん、誤差が生じる可能性がある科目は取り除いて比較しているのだが、まるで合わない。
マイナポータルから持ってきたデータは使えない。

数円単位でずれている

保険診療の場合、窓口負担金額は、原則として
(保険適用金額)ー(保険負担額)=(窓口負担額)
である。患者負担割は3割なので、0.3を掛け算すると1円未満の端数が生じる。
さらには、窓口の請求額は十円単位である。診療所で一円玉、五円玉を使った記憶のある人はいないはず*1である。
これが、実際の支払額と、マイナポータル連携されたデータとで微妙にずれている。
診療所や薬局の会計では10円単位なのに、マイナポータルのデータは一の位が0になっていない。
しかしまあ、数円の誤差だったら税務署は無視するのだろうか。

保険外負担

保険で支払ったと思っていても、領収書の保険外負担の欄には意外と数字が入っている。
保険外だからといってただちに医療費控除対象外となるわけではないので、これはあとからExcel集計シートに入れなければならない。
しかし、差額だけをきちんと抜き出して金額を決めるのは意外と難しい。
であれば、Excelシートには請求書に書いてある数字をそのまま入れた方が作業が楽である。

あれ?

大きな声で言いたくはないが、あれ、あれあれあれ、
窓口でたいそうな金額を払ったことにはなっているが、手元の領収書を見るとそうはなっていない。
例えば、いくつかの自治体では子供に対して医療費助成を行っている。窓口負担には上限がある。
とても安い薬の処方であれば上限を下回る場合もあるが、診療報酬であれば数百円程度の上限値を窓口で支払うことが多い。
ところが、桁が違うものを発見した。領収書を確認したら確かに上限までしか払っていない。しかも、領収書は1枚しかない。
他の診療所の月次支払額は400円、400円、800円*2のように百円単位なのに、ひとつだけ6,892円だととても目立つ(数字はすべて架空のもの)。

わたしが領収書を紛失しただけだと信じたいところだが、これは、もしかして、診療所の方、やっちゃいましたかね。
大人の事情に深く突っ込むのはやめるが、健康保険組合の財政もそんなに潤沢ではないのでほどほどにした方がよろしいのではないかと。
今年からは税務署の目も入るので、不適切会計がいくつか摘発されるのではないかなと想像している。


ということで、マイナポータルから来る情報は参考でしかなく、そのままe-Taxに突っ込めたものではないということがわかってきた。
わたしは法人相手の商売を自らやっているわけではないので、これまでの添付書類というと、証券会社や保険会社が発行したものだった。
金融機関が数字を間違えたら信用問題に関わるので、1円単位までしっかりやっているところがほとんどだと思う。一方、医療機関は会計時に待合室で長く待たされる仕組みになっていて、その場で1円単位でしっかりレシートを見直すというよりは、早く会計を済ませて帰りたいという思いの方が強くなる。診療所には細かいレセプトにまでしっかり監査が入っているとは思えない。
スーパーが価格情報の登録を完璧にやっているかと言えばそんなことはなく、居酒屋が酔っ払い相手に忙しい中で完璧に請求しているかといえばそんなこともない。
ただ、医療機関は患者と2者の契約ではないし、ここに納税も絡んでくるとなれば、スーパー、居酒屋と同じ扱いにするのは乱暴である。

納税への影響

医療費控除を申請しようとする家庭は、大きな手術などをした場合や、慢性疾患で繰り返し受診しているような場合が多いと思われる。
10万円を引いた額しか所得控除ができないので、年間医療費の合計は十数万円、数十万円、数百万円になっている。
一方で、あれこれ騒いでも誤差は人によっては数百円から数千円程度かもしれない。
もしそうなら過少申告になる可能性はあるが、数百円だとしたらその所得税は数十円なので大きく損をすることはないだろう。
医療機関が何をしているのかはさておき、窓口負担者個人の納税には、このページで述べた範囲で言えば影響は小さい。
細かい誤差は気にしないので、マイナポータルからさくっと連携して煩雑な事務を済ませたいという人にとっては、マイナポータルの数字こそが正しいと信じてそのまま利用するという人が出てきそうである。デジタル庁はマイナポータルの利用を呼び掛けているが、わたしは当件に関して、読者に対して何かを勧めるものではないし、勧めないものでもない。

ただし、わたしも該当するが、保険外診療については大きな還付申告漏れになる可能性があるので要注意である。

なお、保険外診療負担が含まれているというのは、医療用器具等を購入した場合に加え、いわゆる混合診療と呼ばれるものが含まれる。詳細は各機関のWebサイトに解説がある。
www.nta.go.jp
www.mhlw.go.jp


マイナンバーカードは闇をあぶりだすには十分有効なツールである。
それが嫌な人は「窓口に機械を置かなければならない」などと言って全力で反対しているけれど、医療費削減のためには設備負担はしょうがないですよね。
きっと、医療事務の人の作業はかなり軽減されるはずなんですよ。記入ミスも減ると思うんですね。

それにしてもまあ、領収証が手打ちレジのレシートで出てくる医院は今時なくて、全部医療事務計算用のコンピューターとしっかりつながっているはずなのに、どうやって数字を操作?変更?するのだろうか。
誰か、詳しい人に教えてもらいたい。

*1:支払いは10円単位なのに財布の小銭を吐き出した人を除く

*2:2回行けば倍