ホテルのサブスクリプションサービス利用の心得

 2021年2月、帝国ホテルがサービスアパートメント事業を開始。ホテルの部屋を賃貸のように使ってもらうサービスで、国会議員が文通費で泊まると言って話題になった。
 3月には三井不動産のホテルチェーンも開始するという。
 これまでも一部チェーンで見られたが、稼働率向上、安定収入のために収益率を犠牲にする動きは広がりそうである。
 帝国ホテルはさておき、都心で10万円くらいの家賃で狭い賃貸に住んでいる若者がホテル暮らしに乗り換えることは可能なのだろうか。出張や転勤の機会がある業界にいる人にとっては珍しくない話かもしれないが、うちの会社は1か所で毎日そことの往復のみです、という人には想像することが難しい。
 実際にホテル暮らしを検討することになった場面を仮定して、注意すべきことなどを挙げていく。

動機
  • 短期プロジェクトで、赴任ではないが現住所から遠隔地で作業するように言われた
  • 賃貸物件の契約が切れるので、ホテル暮らしをやってみたいなと思い立った
  • 憧れの都心に住みたいが、ずっと住むほど貯えがあるわけではない
  • 繁忙期を迎えたため、一時期だけ勤務地のそばに住みたい
  • アレルギーのため花粉からの疎開が必要
  • ワーケーションがしたい

などがある。どんな動機でもいい。

予算

 ホテル側が30泊いくらと出しているので、その1.5倍ほどを用意しておけばいいだろう。一方、現住所の家賃電気水道ガス通信費駐車場駐輪場などの固定費を削減できるのであれば原資を確保しやすい人もいるだろう。家族はそのままで自分だけ別居する場合は、会社から経費負担があるのが前提。

ホテルのサブスクリプションサービスを検討する人向けのチェックポイント

 ネットの宿泊予約サイトが普及したおかげで、例えば備品、設備は充実されてきたように思える。大手チェーンであれば、設備、備品の一覧表をできるだけ〇で埋めようとしている。例えばコインランドリーの設置率は上がっているように感じる。
 また、他店の宣伝はWebで読めるので、対抗上、似たような内容になってきている。
 ただし、決め手はサイトで確認できることとは別のところにあるのではないかなと思う今日この頃である。

必ず試泊をする

 空気が悪い、においが鼻につく、かび臭い、禁煙室なのにたばこ臭い、枕が合わない、なんとなく雰囲気が悪い、外の音がうるさい、隣の部屋の物音が聞こえるなど、人によってさまざまだが、大金を払い込んだ後にどうしても我慢できないことが見つかると厳しいので、必ず試しに2、3泊は泊まってみる。「連泊プランを検討しているので、まずは連泊プランと同じタイプの部屋に泊まってみたい」と申し出てみよう。
 なんとなくほこりっぽいと感じたら、家具やベッドを少し動かしてみたり、備え付けの器具の裏側などを見てみる。かび臭いと感じたら、おふろの湯舟と壁の間の隙間に綿棒を差し込んでみる。あるいは、排水溝のふたを開けて排水管までのぞいてみる。旅行で宿泊するときには知らずにすむ方がいいことなので絶対見ないけれど、長期一括前払いするなら不都合な真実は知っておいた方がいい。リスクを避けるためには新規オープンのホテルを選ぶ手もある。リノベーションでもいいのだけれど、小規模なリノベーションでは水回りはそのままのこともある。
 意外な話としては、夜は特別きれいではなくてもいいので遠くの夜景を見て落ち着きたい人、朝は自然光で起きたいという人という人がいる。カーテンを開けたら目の前がオフィスビルで、部屋の中まで丸見えだったとすると、こちらも丸見えということなので、ちょっと厳しい。
 使う予定はなくても夕食、朝食、部屋の清掃などを利用してみる。そのホテルのサービスの質がわかる。何か用件を作るでも世間話をするでもなんでもいいから、滞在中にフロントと会話をする。
 部屋はそこそこなんだけれど、レストランも閉まりっぱなし、隅に作業道具が積んである、休憩コーナーが荒れ果てている、喫煙所から煙が漏れるという場合は、長期滞在していると粗が見つかりやすい可能性がある。
 大浴場は、お風呂好きは重視してもいいが、都会であれば近所のスーパー銭湯でも間に合うかもしれない。家探しと同じで、完璧な条件のホテルは見つからないので、普段の生活で譲れないものを中心に確認しておこう。

仕事場としてふさわしいかを確認する

 部屋で仕事をしたい場合は、コンセントの場所と数、机の広さ、部屋の明るさも確認したい。部屋の明るさだけが問題なら、安い女優カメラを買えばよい。
 PC作業はラウンジでやりたい人もいるだろうが、画面をのぞき見されないようにできるだろうか。
 テレワークをするなら、zoomなどのリモートの会議ツールを使ったときに背景に何が移るか確認しよう。いつも別の背景を使ってる人でも、万が一映ってしまった場合に大丈夫だろうか。「あれ、この人、ホテルにいるの?」と気づかれても自分も相手も気にしない場合以外は、ホテル暮らしであることを悟られない方が仕事の打ち合わせにはよかろう。例えば「配偶者とけんかして別居中なのかな」とか、余計な詮索をされるのも困る。単身赴任中の人、全国を飛び回っている人と認知されているのであれば問題ではないが、「自宅以外の作業でのテレワークを認めていません!」という上司や契約先も少なからずあるだろう。
 少し経済的に余裕があるならば、ホテルは寝るためだけの場所として、仕事はコワーキングスペースを使うという場合もあるだろう。

通信環境を調べる

 Wi-Fiは、仕事だけでなく私的に使う人が多いだろう。ホテルが提供する説明書に従って設定ができるかどうかも重要だが、どんなネットワーク名(SSID)の電波が飛び交っているかを見てみよう。似た名前のものが乱立している場合、本当にホテルが設置したアクセスポイントなのか疑う必要がある。パスワード認証を有効にしていないものは、プライベートのスマートフォンであっても使わない方が無難である。会社のパソコンなどは会社のルールに従い、インターネットのアクセス手段として使ってよいかどうか確認が必要。回線計測もしてみる。つながりはするのだけれど遅くて使い物にならないようであれば仕事には使えない。ホテルの人口密度は高いので、隣の人もWifiを使っていると帯域が混雑して不安定になることがある。その場合は、モバイルルーターとパソコンなどをWi-Fi以外の方法(Bluetooth、USB)で接続できるとよい。
 ただ、同じ階に誰が宿泊するかで電波の安定性は決まってしまうので、試泊時は大丈夫でも常に使えると思わない方がよい。代替手段は、携帯電話回線を用いることになるが、ビル密集地のビジネスホテルだと電波の入りが悪いことがあるので要注意だ。
 リゾート地でのワーケーションでは、部屋からの景色を楽しむために窓が作られていることが多いが、その方角には携帯電話会社の基地局がない。扉の防音がしっかりしていて廊下の音が聞こえないいい部屋。それは携帯電話が使いにくい部屋かもしれない。長期滞在では景色は飽きるので、オーシャンビューじゃなくてもいいですと申し出てみる手もある。

荷物を送ってみる

 試泊の際に、必要があろうがなかろうが、荷物をフロントまで送ってみよう。その荷物がすぐ出てくるかでフロントの実力がわかる。チェックインのとき「お部屋に運んでおきました」と言われたら満点*1。宅配便の荷札に「〇月〇日チェックイン予定」などと、受け手が扱いやすいように配慮するとよい。
 週末は現住所に帰るなど、連泊の間に利用しない日がある場合は、部屋の荷物を大きい鞄に詰めてフロントに預けることがある。余計な荷物が部屋になければ掃除がやりやすいので、結果として部屋の状態がよくなる。朝の忙しいチェックアウト時間帯に大荷物をフロントに持ち込むことにな場合もあるが「いつもの〇〇様ですね、かしこまりました」と顔パスでやってもらえれば便利だ。「え、荷物ですか、ちょっとお待ちください」と言い、あたふたしながら引っ込んだままなかなか戻ってこない場合や、面倒くさそうに対応されてしまった場合、人員削減のしすぎでフロントに人がいない時間が長い場合は、今後も毎回ストレスを受けると思った方がよい。
 チェックアウトの時については、宅配便の取り扱いがないフロント、カード払いに対応しないフロントもある。宅配便の発送についてはどこでもやっているので、少し運ぶ手間はあるが、フロントを使わなくてもよい*2

クリーニング屋を探す

 クリーニングサービスには、部屋のクリーニングもあるが、ワイシャツなどの洗濯もある。ただ、ホテルのクリーニングの利用は意外と面倒である。ホテルに限らず、典型的な一人暮らしを例にすると、たまった洗濯物を好きな時刻にがばって出して、がばって受け取る。あるいはすぐ着ないものは預かってもらえる、ということが必要である。ホテルのサービスがそこまで気が利いていれば問題ないが、そうだとしても高い。すると、近隣の住民が使う普通のクリーニング屋を活用するのが庶民にとっては使い勝手が良い。帝国ホテルを定宿とする人は1着何千円かかろうが気にしないと思うのでここは読み飛ばしてもらってもよいが、多少なりとも衣類の取り扱いに慣れている店員に預けた方が細かい指定ができたり、しみの指摘をしてもらえたりするなど、クリーニング店を使う利点は値段以外にもある。
 クーポン券を自宅にお送りしますので住所を書いてくださいと言われると少し困るが、ホテルをあて先にしたらいいのかな。
 実家に帰ってもいいが実家が手狭、あるいは、もう独立してからかなり経つので今更実家に住みたくないという場合は、実家の近所のホテルを選ぶ手もある。洗濯とアイロンがけは実家でやる。

収納を確認する

 毎日Tシャツを着る人は気にする必要はないが、平日はしわのないワイシャツを着て出勤しますという場合。たたみのワイシャツはごみがたくさん出るので、クリーニング屋でハンガーつるしのワイシャツを1週間分、5枚受け取るとする。頻繁に通うのが面倒な人は10枚という人もいるだろう。
 クリーニング屋の袋を持ってホテルの入り口を通るのはすぐ慣れる。問題は部屋に持って帰った後、どこに保管するかである。
 最近は収納がない部屋もある。収納の扉があると掃除のときに手間がかかるからである。ハンガーをかけるフックが部屋の壁に打ち付けてあるだけのタイプの場合、1泊2泊であれば問題ないが大量のワイシャツを吊るしておくのは微妙である。
 ハンガーを吊るすポールがあり、扉がついた収納スペースがあると部屋がすっきりする。特に服が多めになる冬場。

スーパー、飲食店を探す

 さすがに30日毎日違うメニューの朝食を出す連泊プランはないと思う。場合によっては飽きが来る。これを執筆している時点では緊急事態宣言が続いているので、地方だけでなく、都会でも早い時間に飲食店が閉まってしまう。たまにはお惣菜が食べたいと思ったとき、コンビニが好きな人は耐えられると思うが、そうでない人には食料品売り場が充実していて夜まで空いているスーパーが重宝する。

散歩コースを探す

 せっかくいつもと違う街に住むのだから街を楽しみたい。駅からの動線は便利でも、公園までの道のりで長い信号が何か所もあったりすると微妙である。短期と決めている人はあまり重視する必要ない。
 自転車を使いたいという人もいる。持ち込んだ自転車を置く駐輪場を探すか、シェアサイクルがあるかを探すことになる。

駐車場を探す

 マイカーがある人は注意が必要。ホテルの駐車場では車庫証明を取得できない。都会のホテル暮らしであれば、車はいらないんじゃないか、という割り切りも必要か。

ペット

 無理。

空気にこだわる

 長期滞在なので、部屋の空気が合わないと知らぬ間に健康を害するおそれがある。また、換気ができなくて困る、という人はいる。乾燥が気になる人は加湿器が必要かもしれない。建物の空調設備はしっかり掃除されているだろうか。部屋に備え付けの空気清浄機や加湿器はほこりとかびだらけで、送風音と不健康をまき散らすだけの存在になっていることがある。そういう機材を客室に置くことが平気なホテルに対して「掃除してよ」とクレームしたところで、掃除を行う体制になっていないし、すぐには改善しない。
 COVID-19で、日本人は総潔癖症になったので、クレームすれば理解してもらえると思うのは大間違い。連泊プランを導入してでも少しでもホテル経営を延命させたいという状態なので、みんなぎりぎりでやっている。
 空気だけが気に入らないのであれば機材を持ち込めばいいと思う。あるいはネットで型番を調べて自分でフィルターを交換してもいいと思う。全国のチェーンから選べて渡り鳥生活をしたい場合でも、箱を取っておけば移動先のフロントに送り付ければいい。

ビデオサービス

 お好きな方は確認しておこう。
 テレビについても重要度が下がっていると思うが、ベッドの定位置からして明らかに不自然な場所に壁掛けテレビがある場合は、人によっては気になる人がいるだろう。常宿扱いにしてもらえるなら、好きな場所にベッドを動かしてもいいけれどね。

荷物の退避場所を確保する

 現住所にかかっていた固定費を削減したい場合は、現住所の退去を検討することになる。その時、持っていかれないけれど捨てられない荷物はどうするのか。実家に置く、トランクルームに置く、電気水道ガスだけ止めて現住所を倉庫にする、ミニマリストになるなどの選択肢があるけれど、移動が大掛かりまたは長距離になれば、それは引っ越しと同じ運賃がかかるので予算を確保しておきたい。
 仕事で、コワーキングスペースの事務室などを借りている人はそこでも問題がないかもしれない。

他の契約形態も考える

 ウィークリーマンション、シェアハウスなど、類似のサービスはあるので、単に気分を変えたい、いろいろな所に住んでみたいというだけであればホテル以外の選択肢もある。自分の生活に合わせて最適なものを選びたい。

*1:鈴木さん、佐藤さんの場合は、取り違え防止のためにあえてフロントで確認する方針にしているホテルもあるだろう

*2:雪や台風の季節は管内で片づけるにこしたことはない