人命軽視派の呼びかけに気をつけろ

 今は9月下旬。4連休を境に暑さがひいて、涼しくなる今日このごろ。新型コロナの感染拡大が落ち着くとも言われているが、ここに来て「今こそ用心を」と呼びかける論調が元気である。
 コロナさえ避けておけばどれだけ人が死んでも構わないという、人命軽視派の叫びである。
 振り返れば、春節の中国人を歓迎し、クルーズ船で大騒ぎした頃から、水際で食い止めれば感染拡大を食い止められるという論調が盛り上がった。新型インフルエンザのときにはなぜ収束したのかが検証されず、舛添厚生労働大臣(当時)などが空港などで水際作戦を展開した記憶だけがかすかに思い起こされ、

新型インフルエンザ→水際作戦成功→感染拡大阻止成功
新型コロナウィルス→水際作戦失敗→感染拡大阻止失敗

と考えた人がいた。この後、市中に広まるとロックダウン支持へと発展する。しかし、ワクチンなしにウィルスの撲滅を狙おうという発想に飛躍があり、いくらロックダウンしても解除のタイミングを計り知ることができない。流行感冒はウィルスを保有していても無症状な人がいるので、ロックダウンをすることで封じ込められるのであれば、ロックダウンを解除することで感染拡大が戻ってしまうことは明確である。
 根本的な治療法と撲滅法がない時点では、感染はピークを抑えても、流行期間が伸びるだけで、結局流行を回避することはできないのである。
 そして、複数の国で第2波が明らかになると、その国からウィルスがもたらされればいくら日本でロックダウンしても仕方がないということが明らかになり、ロックダウン支持派は急速に論調がしぼんだ。そして、ウィルス撲滅のための手段が思いつかない。
 そこに、ただの風邪論が勢いを増してきて、人命軽視派のイライラが高まっている。こんなに怖いのに、どうしてみんな正しく理解しないのだろうかと本気で悩んでいる。
 ただ、人命軽視派のみなさんに一言言いたいのは、ただの風邪論者にも2通りいるということ。
 ひとつは、「ニュースとか見ません、どうでもいいじゃん」という人。楽観論者かもしれない。こういう人にはどんなに呼びかけても変わらない。選挙に行かない人、補助金がもらえるのに申請しない人、インフルエンザどころか、乳幼児の義務となっている予防接種も忘れてしまうような人々*1である。小難しく欧米ではどうの、罹患率がどうの、マスクの効果がどうのこうの言ったところで、そういう人は残念ながら変わらない。
 そして、もうひとつは、きちんと情報を入手した上で考えている人。コロナには悲観していないが、人命軽視派に対して大いに悲観している。ただの風邪だって万病のもとだし、後遺症はあるし、死ぬこともある、でも同じように自分で気をつけるべきもので、相互監視社会にしてストレスをためる方がよほど精神衛生に悪く、免疫力を下げて悪影響の方が大きい。もしかしたらコロナウィルスにもかかってしまうのでは、と言っているのである。「ただの風邪」と聞いて脊髄反射のように「楽観」を結び付けないでほしいということだ。ここまでで経済のことをひとつも言っていないが、感染のコントロールという観点からして、人命軽視派のやり方は正しくないと思っている。「経済回せで頭がいっぱいになっていて、思考が硬直しているんでしょ」と言われがちであるが、頭がいっぱいになっているのは人命軽視派の方である。頭を冷やして考えてほしい。
 話を戻すと、人命軽視派の主張は、どちらのただの風邪論者の耳に届いていないから、結局人命軽視派の人たちは、一人でも多くの人に自粛をさせることに成功しているわけではなく、むしろ精神的抑圧を高めているだけ。そのつもりはないかもしれないけれど、経済を抑制してみんな自殺してしまえ、とただ言っているのと同じ効果しか生んでいない。動機はともかく、何ら社会には役立っていないから反省してほしい。
 もし抑圧政策が正しいが自分は殺人鬼ではないと本気で思うのであれば、補償あっての抑圧政策だという基本に立ち返るべきである。北風と太陽の絵本を読んで、太陽を目指すべきだ。まずは国会にデモや陳情をして給付金を毎月出せと言うのが先だと思う。お金を出すからマスクして、と言うならどうでもいいじゃん派も聞く耳を持つかもしれない。ちなみに給付金の拡大は社会不安防止にはいいと思うのだが、生産活動を抑えてしまう課題に対処できていないので、国力を落とすことにつながりかねないと思って警戒している。
 人命軽視派たちは、統計すら正しく読めない。インフルエンザは、無症状者には検査をしないが、新型コロナウィルスは無症状者にも検査をする。その2つの数字を並べて、死亡者数/陽性者数を比べてコロナの方が怖い、という。コロナの死亡数というのは、コロナで死んだ人の数ではなく、死んだときにコロナに感染していた人の数である。複数の死因要素を持ち合わせていた人が、どちらの死因にカウントされるかの厳密な決まりはない。ただしコロナは2類の指定感染病なので、コロナ陽性であればコロナ死者なのである。分母も分子も怪しいものどうしを比べて、やっぱコロナの方が怖いとしか言えない。
 少しのリスクも怖いならそれはゼロリスク信奉主義である。交通事故もリスクだから家から一歩も出ないで、地中深くまで掘って核シェルターを置き、その中に無菌室を造って世間から断絶して暮せばいい。
 ウィルスは変容するとされているので、未来のことはよくわからない。集団免疫を獲得できるのかとか、いつ収束するのかとか、楽観につながることは控えるべきである。ただ悲観することはもっと控えるべきである。

*1:例示であって、これらのうち一つでも当てはまった人すべてに「どうでもいいじゃん派」のレッテルを貼りたいわけではない