通勤ラッシュ

 首都圏有数のとある混雑路線では、都心で9時始業に最適なピーク時間帯でも混雑率が回復していないという。このような時間帯には混雑した電車が数珠つなぎになって電車はノロノロになるのだが、混雑率が下がってもノロノロが解消しないということが判明した。長大複々線を完成させた小田急小田原線でも比較的停車駅が多い準急電車は急行線と緩行線をうろうろさまよっていたりなど、綱渡りな運行ダイヤになっている。複線路線ではそのような工夫もできず、優等列車が各駅停車に追いついてしまえばノロノロ走るしかない。鉄道会社は、昼間と同じ料金しかもらえないのに、無理をしているのである。無理をしているのに、すいている状態で毎日運行されている。
 新しい生活様式により通勤ラッシュというものが死語になるのではという説があるが、そうはならないと思っている。
 地方で鉄道通勤をしようとすれば、長大編成を走らせていた時代の面影を残す長いホームに、2、3両程度の列車がやってくる。それがガラガラなのかと言えば、通勤・通学の時間帯は満員になる。
 乗客が減れば、鉄道会社はすぐに減便を推し進める。JR西日本では保線業務の働き方改革のために終電切り上げを決めたようであるが、今後も理由は後付けにして朝も昼も夜も深夜も減らしていくだろう。そもそも早朝から深夜まで正確なダイヤで運行するという仕事に無理があるからである。人手が足りないし、待遇も上がらない。かといってただちに自動化するのも難しい。
 乗務員は事務所を出て長い路線を始点から終点まで走れば、終点から始点までまた帰ってこなければならない。なので片道1本だけ減らすというのはなかなか難しく、2本、4本といった単位でまとめて減便は進められる。あるいは途中駅で折り返してしまう打ち切りとする。
 保有車両を1編成減らそうとしたら、電車が余っている昼だけ減便しても意味がないので、最混雑時間帯も含めた減便になる。立ち席の客が押し込められて、乗降に時間がかかって遅延が発生するという事態は乗客が減るという理由ではなくなることはない。
 深夜帯のサービス低下が懸念される。運転間隔は当然広がる。途中駅で乗り換えようとすると10分、20分待たされるとか、乗り換えがない人でも他の路線との接続をとるために途中駅でドアを開けたまま待たされるとか、真夏や真冬、荒天時はつらい。走っている時間は30分なのに、乗り換えや運転調整で20分使ってしまえば、それは1時間通勤である。心理的な会社までの距離が10kmくらい伸びるということだ。
 首都圏では近年、有料着席保証の通勤ライナーが充実されたが、それの存続を期待して家を買うのは止めたほうがいい。遠距離の駅では各駅停車利用、しかも乗り継ぎありが現実味を帯びている。過去に、東急田園都市線がラッシュ時の急行運行をやめたが、それは混雑のためだった。では終点中央林間から乗る人向けに急行が復活するかと言えば、それはないと思う。JRが首都圏でやっているような、通勤電車にグリーン車を併結する普通車グリーン席は比較的長続きするが、次の新車には併結されないかもしれない。普通車グリーン席には清掃員や客室乗務員が必要で、ガラガラだと赤字になってしまう。
 郊外に住みたいのであれば、競合路線がある街にする。JRが最近ひどいから私鉄にしよう、あるいは私鉄が値上げしたからJRにしよう、という選択肢があればサービスの極端な低下は起こらないだろう。しかし、他に選択肢がないとか、一方が競争をあきらめてしまっているような地域は、ここは首都圏なのか自信を失いそうなダイヤになる可能性を忘れてはならない。そして、そうなっても通勤ラッシュはなくならない。
 平日ダイヤは、毎朝の通勤を念頭にダイヤが組まれている。これがどこまで劣化するか。東日本大震災の際の計画停電ダイヤについては以前ここで書いた。あるいは、休日ダイヤならばすぐに手に入る。あなたが長距離通勤者であれば、休日ダイヤを眺めながら、そのダイヤで通勤をしなければならないとなったらどうなるのか考えてみる。直通電車がない、快速電車の始まりが遅い、7時台でも4本しか来ない、終電が早い、といったことが考えられる。働き方改革で、9時着席とか、上司よりも早く出勤して部屋の掃除とかいったことはなくなるかもしれないが、すると11時ぐらいに事務所に行こうかなと思ったときにどうなるか。都心方面から空っぽの電車がどんどんやってきて途中駅で車庫に入る。あれ、こんなに時間がかかったかなと思うくらい都心が遠いということも起こる。それが数年後に向けたシミュレーションになる。中央線のように快速電車の始業が最近早くなった路線もあるが、ラッシュ回避のために朝活をしていた人は本数が減った各駅停車で長々乗ることになったらどうなるか。
 道路は相変わらず渋滞していて、バスやタクシーが鉄道のシェアを奪うという事態も考えにくい。週2日以上出勤があるのなら、郊外ブームに乗っかるのは様子を見るか、場所を慎重に選んだほうがいい。月に3回なら1時間半でもいいと思っていたとするならば、その数字には1.5倍を掛けた方がいい。2時間を超えても大丈夫か。