密を作るソーシャルディスタンス

 ソーシャルディスタンスについては、京都大学の藤井先生がマスクをしていれば不要と言っている。科学的に自分で検証したわけではないが、あー密だ、あー飛沫だ、と気にしているストレス状態こそ不健康であり、ウィルスへの免疫力を下げているような気がしてならない。仕事柄、あるいは、家族を気にかけて気にしなければならない人を責めることはないが、国民運動として呼びかけるほどのものではないのではないかと思う。

椅子の削減は単なる自己中

 ファストフード店に行ったら、店内で食事をすることはできるようになっていて、一部の椅子が1箇所に積み上げられていた。ソーシャルディスタンスのために椅子の数を減らしたのだが、いらなくなった椅子を搬出すると保管場所を新たに借りなければならないため、店の片隅にて保管することにしたようだ。しかし、その部分は本来客席だった部分で、そこにも座ることができれば部屋を広く使えるのだが、客は残りのスペースに固まって食事を取ることになる。椅子の間隔を広げているので密が解消されているように見えるのだが、昼食時間に食事を取らなければならない人の数は椅子の配置で変えられるものではない。椅子が少ないために、店内での食事をあきらめて持ち帰りを選んだ客は、公園に行ったり、職場の自席に行ったりして、人が大勢いるところで食事をしなければならないのである。
 このあと本格的な夏が来れば、戸外は灼熱が照りつけるし、昔とは違って亜熱帯気候のようなゲリラ豪雨も降る。つまり、快適に食べられる場所がますます限られ、人々は冷房がある場所を探す。椅子を減らして社会の要請に応えているかのように見えるその風潮は、別のところに密を追いやっただけであり、感染拡大防止に反している。本当に密を回避したいというのであれば、ステイホームするように訴えるべきであり、持ち帰った食事を家で撮った写真をアップロードしたら次回100円引きにする、というのも考えたが、持ち帰り先が職場だったら意味がなく、写真ではなんとも判別しがたい。人々が食事をする場所を最大限広くするのであれば、座席を元に戻すべきではないかと思うが、どうだろうか。
 マスクは、エチケットや自粛警察対策だけでつけているのであれば、マスクに雑菌が繁殖して健康にはよくないと思う。かばんやポケットにしまえば、菌を培養して家に持ち帰っているようなものである。マナーというものは物を過剰に包んだり、あいさつを過剰に増やしたりと世の中に非効率を生むものであるが、お互いが気持ちよければ意義がないこともない。ただし、いわゆる新しい生活様式に伴うエチケットは、不健康を招いて本末転倒なのではないかと思う。ただ、「私はコロナを忌み嫌い、けがれから逃れようとしたい」あるいは「コロナ拡大防止に賛同しているふりをしないとたたかれたり、自粛廚に営業妨害される」という、ただそれだけのことである。単なる宗教だ。

トイレの間引きはやりすぎ

 トイレにおいて、ハンドドライヤーを中止にするのは理解できるが、男性の小便器や、洗面台を減らすことは必要だろうか。
 流し台が3つあれば、真ん中に紙やテープで封をしてしまう。これもソーシャルディスタンスの取り組みだが、もともと、一定数の人は好んですぐ隣で用を足そうとはしない。複数あれば、ひとつ空けて使うということを普段からしている。統計を取ったわけではないが、過半数の人は開けるのではないか。
 3つ埋まるのは混んでいるときである。混んでいるということは、接近だけでなく密集している。密集状態を早く解消するには早く済ませてその場を立ち去るということが一番だが、手洗いもまた奨励されているので、並ばなければならない。そこに行列を作るくらいであれば、全開放した方がいいと思うのだが、「ソーシャルディスタンスを実行しないなんてなんと意識が低いのか」というクレームを恐れて封をしてしまう。
 小便器も同様である。全員同じ方向を向いて黙って用を足すのに、横の距離をあまり気にする必要はないはずだ。掃除や消毒が面倒なだけなのではないかと思えてしまう。

自衛なのでは

 東海道新幹線が本数削減を決めたとき、ある鉄道会社が「感染拡大防止のため」とお知らせに掲示した。本数削減は乗車密度を増やす措置なのだが、コスト削減のためとはなかなか言い出せない。「感染拡大防止のため」は、不便をかけることを決めた人をあいまいにする魔法の言葉のような扱いであるが、安易に使うと間違えてしまう。
 路線バスにおいては運転手と乗客を近づけないようにするため、先頭の座席を使用禁止にしているところがある。緊急事態制限の頃は混雑率が低かったので問題がなかったが、これから人の流れが回復してくる。ファストフード店と同じように客室スペースを削減しているので、混雑した車内では人口密度を高めてしまっている。自社の運転手がかわいいので、乗客のみなさんだけでうつしあってください、ということになるが、それが本音なのか。航空便は7月からひとつおきしか予約を受けない措置をやめるという。強制的に間隔を広げようとする施策は、本当に世の中のためになっているのか、それとも単なるクレーム回避の自己かわいがりになっていないかをよく確かめてみるべきである。写真やビデオに撮られて、後世の人にバカにされるリスクの方を気にしたほうがいい。令和のコロナパニック、こんなことしていたけど、なんと非科学的か、と笑われるだけだ。

なぜ気持ち悪いマナーがすぐに流行してしまうのだろうか

 これらは、江戸しぐさの再来だ。「第二波だ、みんな、トイレに閉じこもって出てくるな」と言ったら、みんなでやりかねない。自分の頭で考えたらどうだろうか。