鉄道にイノベーションを

少し前のことだが、2019年6月に放送されたNHKスペシャル「東京ミラクル2 巨大鉄道網 秒読みの闘い」を見た。
最近、鉄道の乗務員に女性が増えたなと思っていたが、運輸指令や車庫にいる職員は全員男性。職人技が世界一精密な通勤路線を支えているという内容だったが、出てくる道具は電話や色鉛筆やホワイトボードばかりで、かなり近代化が遅れた職場なんだなと思わざるを得なかった。

自動化しないのか

京浜急行金沢文庫駅近くの車庫では、線路容量いっぱいに留置車輛が入ってきて、1本の線路に2編成止まるそうだ。車庫の奥に入ると、後から来た電車が出口をふさいで先に出ることができないため、出し入れの順番を3人の男たちが毎晩話し合っている。3人で365日繰り返すと年間の人件費は1千万くらいなのかもしれないが、こういう仕事を人間にやらせていると鉄道業界の方々の給料は一向に上がらない。
地価が安いうちにもう1本線路を引いておけば今ほど複雑ではなかったのにね、と思うが、令和の時代にそれを言うのは後出しじゃんけんかもしれない。そんな車庫の話は後述するとして「自動化するのは難しい」とか言っていないで、そろそろどうしたら自動化できるか考えた方がいいと思う。番組ナレーターの解説等によると、

  • 鉄道車輛は部品数が多くて検査や故障が発生する。
  • 事故等により運転変更も頻繁に発生する。
  • そのため計画通りに配車ができない。
  • 入線する車輛の順番が流動的になってしまう。

ということだそうだ。しかし、人間の勘と経験で最適な入れ替え方法を考案することが可能なのだから、AIに考えさせることも簡単なような気がする。人間は最も入れ替えの手間が少ない方法を証明しているわけではないだろうから、こういう場合はこうした、あういう場合はああした、というパターンを数年分機械に覚えさせれば学習してくれるはずである。
課題となるのは、インプットとアウトプットがアナログであること。例えば「今日は大雨で1本運休になりました」という情報は営業路線ではデータになっていても引き上げ線に入るとITシステムで管理されていなさそうである(推測)。そして、集めた情報をもとにホワイトボード上でマグネットを動かしながら討論している。その結果は当然残らない。
現役の職員は日々のオペレーションで忙しいと思う。やり方が昔から変わっていないのであれば、それを現役職員に教えた先輩がまだ生きているはずである。OBを活用してインプットデータを整備してAIに学習させることを始めるべきでなのではないかと思う。OB職員と若いITプログラマーの協業。うまくいくかなあ。
京王はAI時代の前に若葉台での増結・減車業務をやめてしまった。郊外で編成を減らせば電気代が節約できるが、電車の管理に加え連結・切り離しの作業にも人を配置しなければならない。手間が電気代を上回っているのだろう。これはこれでひとつの合理化手法ではあるが、京急金沢文庫での増結・減車作業を今後も続けると思われるのでITに頼った方がいいと思う。
数年前なら「職人すごい」となっていた業務が、今では「まだ頭で考えているの?」と言われかねない状況。鉄道職員の業務が家族に自慢できないようになってしまうのも問題。

車庫の空がもったいない

金沢文庫の話でもう一つ気になるのが、車庫の土地の有効活用である。
車輛の出し入れが大変で、毎晩会議をしなければならないのであれば、車庫でちょっとしたアクシデントが起これば鉄道路線全体に影響を与えかねないということである。深夜まで騒音が響く車庫の隣に住宅が密集しているのはどうかと思うが、車庫があるということは始発駅がそばにあるということである。電車が留置されるということは平らな土地であるということでもあるので、通勤圏であれば利便性が高い土地とみなされ住宅になってしまう。そこで火事でも起きれば鉄道の運行にも影響が出かねないということだ。
車庫は広大な土地にもかかわらず電車が止まっているだけである。上空にも地下にも何もない。駅の場合は商業開発したり、道路との立体交差にしたりするために上下の有効活用が進んでいるが、車庫は1階しか使われていない。
小田急下北沢駅のように、無理やりトンネルを掘って地下に埋める必要はないが、二階建てにするくらいはやったらいいんじゃないのかと思うのだが、営業線以外はあまりお金をかけたくないのかもしれない。そして、住宅が迫っているので日照なども問題になるかもしれない。
名前の評判が悪い高輪ゲートウェイ駅は、車庫用地の再開発である。JRは、車庫用地の潜在価値を理解し、上野東京ラインを造ってまで車庫を移転させることに成功している。空いた土地に駅を造り、再開発する。
駅ナカの次は、きっと車庫用地の再開発なのだと思う。鉄道会社は不動産子会社を持っているが、駅ナカをやりつくしてしまっているので、次の場所を探さなければならない。東京のオフィスビル開発は財閥系など、もともとビルが得意な会社のノウハウが圧倒的で、鉄道子会社が入り込める余地はない。すると自社の線路のうえに空いている空間を見つけて開発をするしかないのである。
着席チャンスが高く、遠距離通勤者の人気を集める始発電車。初電のことではなく、ここでは途中駅から運転を開始する電車のことをさす。始発駅に引き込み線がなかったり、ホームが狭かったりすると座るまでが大変な駅がいくつかある。
車庫を始発駅にすれば、車庫に止まっている間は営業線をせき止めてダイヤに影響を与えることはない。
1,000円払ってでも座りたい人はいるのだから、10分くらい止まってVIP客を集めて都心方面に向かえばとても喜ばれると思うが、どの鉄道会社もまだ始めていない。
東京メトロ北綾瀬方南町といった支線の終点を本線直通としたのはこれに近い動きであるが、暑い日も寒い日もホームで10分20分立たされる運用は変わっていない。重要なことは平日朝の通勤時のみなど、目的限定で営業すること。普通の駅にしてしまうと戻りの便を設定しなければならず、ダイヤが複雑になってしまう。車庫の土地は広いのだから2階にバスターミナルか乗り合いタクシーの降り場を設ける。駅が近くにあるなら駐車場でもいい。
土地を持っている会社は強い。そろそろ新しいことを何か始めてほしいものだ。