西高東低

 2018年12月14日、JR東日本が来春のダイヤ改正を発表。
 中央線は新型車両の投入や、ホームライナーの特急昇格などが目白押しなのに対し、逼迫した混雑率の解消には控えめ対応。改札に行列ができる朝の武蔵小杉駅、ホームから人があふれそうな夕方の新木場駅に対しては1本ずつの増加にとどまる。夜間のディズニーランドの帰りの客は、武蔵野線のぎゅうぎゅう詰めの車内で夢から現実に引き戻される。
 そしてそれらは千葉市方面まで行かない。横須賀線は東京駅始発電車を伸ばしたにすぎず、武蔵野線西船橋から松戸方面に行ってしまう。そして、総武線は増便と言っておきながら、ホームライナーを廃止して実質減便である。改善するのは千葉発のあずさ号もチケットレスサービスが利用できるようになることくらい。

ホームライナー千葉を廃止

 報道はホームライナー廃止一色。
 京王の着席特急導入への対抗だろうか。そう、競合の京成が不甲斐ないのである。競争しなくていいとなれば、ライナーの運行は面倒に違いない。車輌は古くなる一方。2人がけの座席は狭く、乗客は2人がけで詰めて座ってくれないので輸送効率が悪い。かといって、中央線などのように新しい車輌に投資するほどでもない。労働組合は面倒くさい。ホームで検札しなければならない。ダイヤが乱れると運休させるしかない。でも運休してもそれほど現場は混乱しない。それならば廃止してしまえと。
 しかし、いきなり全廃するとは思わなかった。乗車率にして50%くらいは確保できていたので、全廃したらホームはますます座席を求める人で混雑する。快速電車の車輌も全車ロングシートにするという。JRはにとっては、津田沼から先はもうお客様ではないのだと思う。まあ、わたしはロングシートが好きですが。

京葉線ライナーどころではない

 そういえば千葉では地元選出の国会議員まで巻き込んで、りんかい線直通のライナー誘致をしようとしていたはずだ。ところがJRは正反対の総武線全廃の回答である。西の乗客は特急にして値上げしても需要があるが、東の乗客からはプレミアム料金を取れません、ということか。
 車輌や座席予約の近代化を進める中央線、高崎線常磐線方面の特急とは異なり、昼でも需要がある。しかし、千葉方面は車に流れてしまい、長距離はJRでさえも高速バスを出している。政治家さんたちががんばらなければならないのは、新宿に通勤する千葉の住民を座らせるという話は本筋ではなく、本当は朝幕張メッセに向かう東京・神奈川の人を着席させることなのである。そして休日の夕方に京葉道路や東関東自動車道の渋滞で疲れさせることなく他県に観光客を帰すことなのである。平日も休日も朝も需要があるなら、1本1本で満席にしなくても投資効率が上がり、夜のライナーも存続できたはずである。外環道と富津館山道路2車線化、京葉道路の3車線化だけやればいいやという政策の偏りがJRの今日の意思決定につながっている。森田知事の県政は圏央道の開通を派手にアピールしていたが、圏央道国土交通省の政策。千葉の政治家たちは何をしてくれたのか。
 少ない成果は、幕張新駅構想に同意とのことだが、あればJRが新たな駅ナカビジネスをやるための補助金であって、他県から幕張に来る人のためでもなく、幕張から東京に通勤する人のためのものでもない。海浜幕張駅の機能を高めればホームも2本あるし十分乗客をさばけるのだが、それをしてしまうと改札の増設などが必要で駅ナカショップが増やせないしむしろ減ってしまうので、駅を増やしましょうということだ。隣接するイオンモールさんも欲しがっているようだしと。
 他の方面では新幹線があるのに高崎線特急はがんばっているし、次は東海道線方面も改善されるだろう。千葉方面だけがこのままだと普通電車だけという状況が見えている。そのうち、各駅停車の減便も進め、例えば夜の舞浜や津田沼のホームにも人があふれるような状態になるだろう。

バスは増便できない

 JRはやる気がないので、例えばディズニーランドのバスターミナルからは各地に向かうライナーが新設されるのではと思ったりもするが、湾岸線の渋滞は終日ひどい。成田空港アクセスは大変便利になったが、かつての成田アクセスのように渋滞でうんざりという状態が再現されるような気がする。
 ただし、運転手不足でバス会社も疲弊している。今後はバスの増便は難しいのかもしれない。何もせず人口減少を加速させるというのがメインストーリーか。

羽田空港アクセス構想に注力するつもりか

 JR東日本羽田空港に直通路線を建設する準備を進めている。実現すればりんかい線を経由して千葉方面にも直通電車が走る可能性がある。しかしここは湾岸道路と同じルートであり、ダイヤが乱れた場合は埼京線を通じて川越の方まで一気に乱れるわけで、直通運転を保ったままでは回復が難しい。特に羽田空港方面への定時性信頼性快適性は全くないと思う。湾岸線も同じではあるが、千葉市以南については最近では湾岸線を回避してアクアラインを経由する運用がされていて、少し時間はかかるが渋滞の影響は少ない*1
 羽田空港アクセスのために、津田沼短絡線の建設なども言われているが、確保した土地に建物ができたりしてしまっていて政策に一貫性がない。そんなことよりも既存の総武線京葉線をもっと使いやすくするほうが先だと思う。
 千葉の人たちは日曜夕方に高谷ジャンクション先頭に10km渋滞というような大型の渋滞が月に数回起こっていることを知らない。横浜に向かう空港バスが、渋滞を回避して千葉県内から一般道をノロノロ走っていることも知らない。この人達を快適に家に送り届けられれば他の観光地に比べて競争力を確保できる。千葉県全体の発展をということであれば、羽田空港アクセスの優先度は本当に高いのだろうか。むしろダイヤ乱れを招く直通線は埼京線東海道線にお譲りしていいのではないだろうかと思う。

座席転換車輌の導入はない

 鉄道ファンであれば、TJライナーやSライナーは、他の通勤車輌と共通運用にし、特急運用のときだけ座席を転換して効率を上げている。JR東日本もやるべきだとか言うかもしれない。しかし、JRはたぶんやらないのではないかと思う。通勤車輌は最短11両もあり、JRはグリーン車専用車輌併結にこだわると思われる。

壮大なコンパクトシティ計画が進行中

 JR東日本と千葉県がやろうとしていることは、壮大なコンパクトシティ計画なのかもしれない。京葉県とディープちばに分割するというものだ。

  • JR東日本が営業したいのは津田沼海浜幕張まで。あとは京成におまかせ。京成とは京成電鉄と京成バスグループである。
  • 手切れ金としてペリエ千葉を造ってあげたので、あとはディープちばと京成でがんばってください。
  • ディープちばから他県に出たいときは京葉県を通らないでください。アクアライン圏央道を造ってあるのでそこからどうぞ。
  • 総武線津田沼までと千葉から先で路線分割する。貨物以外は直通禁止。
  • 成田空港アクセスは北総線成田スカイアクセス方式を真似て継続しますが千葉などの途中停車はお断りします。

これらを通じて、ディープちばの独立性を高めるとともに、国土均衡発展の理想幻想を捨てて投資を集中させる。房総特急縮小、特別快速廃止、ホームライナー千葉廃止まで来た。ここまでやっておいて、上記のコンパクトシティ計画とどこに矛盾があるだろうか。

鉄道と自動車はもっと協力しあうべき

 悪夢ばかり書いても仕方がないので、この悪循環を払拭するには鉄道だけ、自動車だけ、ではなく、上手な連携が必要である。
 JR東日本は自転車を両国から運びましょう、ということをやっているが、自転車だけではなく渋滞に巻き込まれる行楽客も同じスキームを作るべきである。
 いすみ鉄道は沿線に何もないと言っているが、内房線外房線もまた駅からのアクセスは不便で、鉄道ではなかなか行きにくい。行楽地周辺はバスや車で行きたいところだ。しかし自家用車で行くと千葉付近でひどい渋滞にあってしまう。
 それなら、途中まで鉄道で行き、大規模レンタカーターミナルやバスターミナルを用意しておいて速達列車で送ればいい。実はこれは神奈川もそうで、夏の海辺や、鎌倉の渋滞は単なる自家用車規制だけでは解決しにくいと思われるが、神奈川は土地が狭くてターミナルを作る余裕がなく、鉄道と車が並走していないからターミナルの好立地が想定しにくい。しかし千葉にはたくさん土地がある。駅前もちょうどいい具合に寂れているので問題なかろう。都心の両国ですら寂れていたわけで、今はひたすら駅ナカショップにしているが、駅ナカショップは乱造しているためそのうち投資が行き届かなくなり寂れていくので、ターミナルにしてしまえばいいのである。
 京葉道幕張パーキングエリアがゴルフに行く団体の集合場所になっている。各自が自家用車で来て、荷物を1台に集めて同乗する。1台以外は無料で長時間駐車をしている。ニュースの報道を見ているとマナーの問題と切り捨てられているが、集まって車で移動したいという需要を理解しない交通政策者が悪い。
 きちんと対策を打たないと、10年後20年後にどうなるか。新幹線が来なくても2階建て運用とさせてください、という申し入れが来るのは千葉だと思う。設備保有自治体で、運行は受託しますと言われる。そこまで何もしないつもりだろうか。

*1:もちろん、行楽の影響を受ける曜日・時間帯を除く