行動履歴は勝手に共有しないでほしい

今や人々の生活はあらゆるところで監視される時代。監視カメラとWebのアクセス履歴を蓄積することで、ある人がいつどのような事をしたのかが確認できるようになりつつある。
わたしはそのこと自体は生活をするために悪くないことだと思う。ただし、いろいろな人が蓄積したデータを勝手に寄せ集めたり、企業間で取引するのは反対である。
住所・名前・生年月日が入っていなければかまわないという見解を示す専門家がいる。個人情報保護法に反していても、そこはグレーなので議論が必要と誤った言い訳して突き進む企業もいる。しかし、「平日は○○まで通勤し、昼は必ずコーヒーを飲み、夜は8時までには最寄りの○○駅に着いて、コンビニで酒を買って帰る20代男性だということは共有します。でも名前は教えません」と言われて、ああそうですか、というわけにはいかない。ポータルの会社やポイントの会社は20代男性が誰かということは本気で興味がないのだと思う。でも、別の誰かにとっては大変興味があることで、その人は何らかの不正アクセスをしなければ情報にたどり着けないわけだが、不正アクセスを思いとどまらせる歯止めは極めて弱いと言わざるを得ない。

情報にアクセスできるのは金融機関職員以外にも拡大する

これまでも、金融機関の職員は、顧客の口座を照会すれば住所、年齢、職業、そして特に銀行の場合は口座振替の履歴などから生活を垣間見ることができた。ただ、金融機関に勤めているので、自分が漏らしたとわかった場合に安定した職を失うリスクが高いので、それなりの歯止めはあったと考えたい。ただ、企業間でやりとりをするということは、事実上あらゆる人に見られてもいいと認めているようなものだ。コンビニのレジにディスプレイを置いて「この人はいつもレンタルショップでエロ本を買う人なので気をつけて袋に入れてください」と表示されても規約上文句がないということかもしれない。その人がコンビニを出て目の前の家に入っていったら、店員にはどこの人かがばれてしまうのだが、この店員には絶対に恨まれるようなことをしてはならないなと思う。個人情報が含まれていなくても、少し調べれば個人情報の補完は簡単である。

プライバシーはどんなきっかけでさらされるかわからない

なぜ恨まれてはいけないか。個人が普通に生活をしていたら、自分のプライバシーが勝手にさらされることなんてないし、誰も興味を持たないのではないかと錯覚している人がいる。「うちには泥棒に入られても盗まれる物は何もありません」という考えをプライバシーにもあてはめる人がいる。その考えは浅い。
これまではプライバシーを調べるには時間かお金が必要だった。ずっとつけまわす(ストーキングする)、興信所を利用する、といったことは気軽にはできない。ただし、銀行員だったら、職場にある端末で調べれば有名人の住所や、知り合いの購買動向をすぐに調べることができるのである。それがどんな企業の人にも、そこに勤めるアルバイトの人も、業務委託を受ける人(例えば企業の情報システムを保守する業者の人)にも開放されるということである。
 そのような状態で、何かの事件に巻き込まれた場合を想定する。週刊誌が取り上げるような事件の加害者や被害者になったら、全国の誰かが自分を検索し、ネットの掲示板に公開するのである。普段は誰も興味がなかった個人のプライバシーが一気に価値を持ち、多くの人がそれをのぞき見し、そして消すことができない。検索ボタンを押せばプライバシーを取り寄せることができる人が何万人、何十万人もいる。そのうちの99%以上は業務外のアクセスを禁止するとの社内規定を守るかもしれないが、1%以下だとしても何百人もの人がのぞき見することになる。気持ち悪い。
社会的には話題にならなくても個人的に恨みを買った場合も、恨みを晴らす方法としてプライバシーをさらすという手段が取られるかもしれない。さらされたプライバシーの読み手は事件の場合に比べればそれほど多くないかもしれないが、一度ネットに出たら取り消せないという意味ではその後どのような影響があるかわからない。だから、企業間連携型のポイントカードを使う人は絶対に店員に恨まれてはいけなくなるかもしれない*1。店の中では気をつけなければならない。

プライバシーは自分だけの物ではない

ポータルサイトやポイント管理会社に自分の嗜好がばれてもかまわない、と考える人は多いのではないか。個人的にも、Webサイトにアクセスしたときに出る広告を他の人に見られたくないと時々思うが、現状の被害はそれくらいである。
しかし、家族のプライバシーは自分のプライバシーに比べると放置できない問題であるし、他人の興味を引く度合いが大きい。芸能人の場合でも芸能人本人は積極的に自分の趣味などをさらすが、息子や娘の顔写真の掲載は控えたりする。有名芸能人に子供がいるという話はあまり価値はないが、近所に住むAくんの親は有名芸能人という話は近所で噂になる。
自分のプライバシー情報は家族や仲間のプライバシーを暴き、想定しない使われ方をされるのである。自分のプライバシーは自分だけの物ではないのである。

リスク表示を義務づけてほしい

現行の個人情報保護法において、個人情報を取得するときには、利用目的を提示して同意を得ることになっている。しかし現状は「詳しいことはこっちに書いておくから読んでおいてね。いやなら教えてね」という運用でよいことになっている。だから「気持ち悪いけれどまあいいや」と思う人が多いのだと思う。
たばこ会社は、たばこを吸ったらリフレッシュできるという効用を謳うことができず、リスクを全面に告知することが義務づけられている。個人情報の提供も同じようなもので、預けたら漏れるというのは確実だと思うので、

あなたの提供した個人情報は漏洩し、プライバシーを損ねるおそれるおそれがあります

と警告表示してもらうのが公平だと思うが、たばこは国が禁煙を促し、個人情報は利活用を促しているので同じようには取り扱われないのは仕方がない。
ところで、金融商品は投資家にとってリスクがあるが、国はタンス預金から直接投資への転換を促していることから、金融商品を取り扱う業者に対して投資家の理解度を確認し、リスクを十分説明し、そのログを取った上で販売するように指導している。個人情報も「いやなら教えてね」ではなくて、きちんとリスクを十分説明させればいいのではないか。

漏洩のリスク: 個人情報取扱業者による管理が不十分な場合、以下の情報が漏洩する可能性があります。

  • 個人名
  • 住所
  • 電話番号
  • ・・・ (以下略)

行動履歴が推測されるリスク: 個人を特定する情報は取り扱いませんが、その他の個人情報の組み合わせにより、個人の行動が推定される可能性があります。

  • 購買日時
  • 購買店舗
  • 購買内容
  • ・・・ (以下略)

提供情報と個人情報が結合されるリスク: 当社はA社に対して個人を特定する情報の提供は行いませんが、A社が会員から独自に個人情報の提供を受けることにより、A社は個人情報として保持する可能性があります。当社が提供する情報は以下の通りです。

  • 会員のID
  • 会員が特定の場所にいた事実
  • 会員が特定の場所にいた日時
  • 会員が別の会員と一緒にいた事実
  • 会員を撮影した映像または画像
  • ・・・ (以下略)

このように言ってもらった方がわかりやすい。

*1:ただちにそういう状況ではないが、それを認めているということである